<注釈別紙>


注2: 
大阪地裁平成21年7月24日判決の「裁判所の判断」(抜粋)は次のとおり。

以下、「裁判所の判断」より抜粋


裁判所の判断

1 要約
 当裁判所は、被告らは、本件専有部分の元の区分所有者の特定承継人として、所有権を第三者に譲渡したか否かに関わりなく、区分所有法8条に基づき、各自原告に対し、上下水道料金・温水料金を含む管理費等を支払うべき義務があり、元の区分所有者との間で消滅時効が中断し又は時効援用権が失われているから、その承継人にあたる被告らが消滅時効を援用することは許されないものと判断する。

2 上下水道料金・温水料金について
 区分所有法30条は、規約事項について「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項」と規定し、規約事項の対象となる「建物」を共用部分に限定していない。また、給排水設備及び給湯設備は、新規約20条1項本文及び別表第2に基づき、管理組合である原告がその責任と負担において管理すべき区分所有建物の附属設備でもある(甲3)。したがって、上下水や温水が専有部分で使用されることから専有部分の使用に関する事項という面があるとしても、管理組合が区分所有建物全体の使用料を立て替えて支払った上で各区分所有者にその使用量に応じた支払を請求することを規約で定めることは、建物又はその附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項を定めるものとして、規約で有効に定めることができると解すべきである。大阪市の水道事業において集合住宅の使用者が申請すれば各戸計量・各戸収納制度を実施することができるとしても(甲17、24、25、28。枝番を含む。)、そのことは、現に管理組合が規約に基づき全体の使用量を支払っている場合に、これを規約に基づき各区分所有者に対して請求することを妨げる理由にはならない。
 したがって、上下水道料金及び温水料金は、区分所有者の全員で構成された管理組合が、区分所有者全員のために、区分所有法8条により、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる「規約に基づき他の区分所有者に対して有する債権」(区分所有法7条1項)にあたる。

3 甲事件被告の所有権喪失について
  区分所有法8条は、「規約に基づき他の区分所有者に対して有する債権」(区分所有法7条1項)については、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができると定めている。甲事件被告は、債務者たる区分所有者の特定承継人として、区分所有法8条に基づき元の区分所有者の管理費等の債務をいったん負うことになった以上、その後その区分所有権を他に譲渡しても、その債務の支払を免れることはできないと解すべきである。すなわち、区分所有法8条は、その債務の履行を確実にするために特定承継人に特に債務の履行責任を負わせることを法定して債務履行の確実性を担保することに立法趣旨があり、いったん特定承継人となって債務を負うことになった者が所有権を他に譲渡して債務を免れるなどという責任軽減は、規定もなく、全く想定していないと考えられるからである。区分所有法7条1項による先取特権があることも、同様に債務履行の確実性を担保する立法趣旨にすぎないから、先取特権があるからといって現に区分所有権を有する者にしか請求できないというような責任限定の解釈をすべき根拠はない。

4 消滅時効の抗弁について
 原告は、平成14年4月26日、本件専有部分の元の区分所有者(共有者の1人)であるCに対し、平成4年1月分から平成13年12月分までの未払管理費等(管理費、積立金、上下水道料金、温水料金)とこれに対する約定利率による遅延損害金の支払を命ずる判決(大阪地方裁判所平成14年(ワ)第1003号。甲10)を得て、この判決が平成14年5月17日の経過により確定している(甲26)。したがって、平成14年の訴え提起から5年前までの支払期日の管理費等については、民法169条による定期給付債権の5年の短期消滅時効につき、不可分債務者の1人に対する請求により時効が中断し(民法147条1号、430条、434条)、5年以上前の支払期日の管理費等についても、元の区分所有者のCが消滅時効の援用をすることは、判決の既判力により許されないこととなった。
  元の区分所有者の特定承継人として、区分所有法8条により、元の区分所有者の債務を履行する義務を負うことになった被告らは、債務の履行を確保するために同じ債務について履行責任を負う者を広げようとする同条の立法趣旨に照らし、民法148条により時効中断の効力が及ぶ承継人にあたると解すべきであり、かつ、民事訴訟法115条1項3号により確定判決の効力が及ぶ口頭弁論終結後の承継人にあたると解すべきである。そして、本件訴訟のうち後で提起された乙事件の訴え提起の日である平成20年12月5日までには、前記判決確定の日である平成14年5月18日から10年経っていないから(民法174条の2第1項)、元の区分所有者の口頭弁論終結後の承継人である被告らは、判決で確定した平成4年1月分から平成13年12月分までの未払管理費等(管理費、積立金、上下水道料金、温水料金)とこれに対する約定利率による遅延損害金について、消滅時効を援用することができない。




注5:
 
民事執行法25条〜27条は次のとおり。

(強制執行の実施)
第二十五条 強制執行は、執行文の付された債務名義の正本に基づいて実施する。ただし、少額訴訟における確定判決又は仮執行の宣言を付した少額訴訟の判決若しくは支払督促により、これに表示された当事者に対し、又はその者のためにする強制執行は、その正本に基づいて実施する。

(執行文の付与)
第二十六条 執行文は、申立てにより、執行証書以外の債務名義については事件の記録の存する裁判所の裁判所書記官が、執行証書についてはその原本を保存する公証人が付与する。
2 執行文の付与は、債権者が債務者に対しその債務名義により強制執行をすることができる場合に、その旨を債務名義の正本の末尾に付記する方法により行う。

第二十七条 請求が債権者の証明すべき事実の到来に係る場合においては、執行文は、債権者がその事実の到来したことを証する文書を提出したときに限り、付与することができる。
2 債務名義に表示された当事者以外の者を債権者又は債務者とする執行文は、その者に対し、又はその者のために強制執行をすることができることが裁判所書記官若しくは公証人に明白であるとき、又は債権者がそのことを証する文書を提出したときに限り、付与することができる。
3 執行文は、債務名義について次に掲げる事由のいずれかがあり、かつ、当該債務名義に基づく不動産の引渡し又は明渡しの強制執行をする前に当該不動産を占有する者を特定することを困難とする特別の事情がある場合において、債権者がこれらを証する文書を提出したときに限り、債務者を特定しないで、付与することができる。
 一 債務名義が不動産の引渡し又は明渡しの請求権を表示したものであり、これを本案とする占有移転禁止の仮処分命令(民事保全法 (平成元年法律第九十一号)第二十五条の二第一項 に規定する占有移転禁止の仮処分命令をいう。)が執行され、かつ、同法第六十二条第一項 の規定により当該不動産を占有する者に対して当該債務名義に基づく引渡し又は明渡しの強制執行をすることができるものであること。
 二 債務名義が強制競売の手続(担保権の実行としての競売の手続を含む。以下この号において同じ。)における第八十三条第一項本文(第百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による命令(以下「引渡命令」という。)であり、当該強制競売の手続において当該引渡命令の引渡義務者に対し次のイからハまでのいずれかの保全処分及び公示保全処分(第五十五条第一項に規定する公示保全処分をいう。以下この項において同じ。)が執行され、かつ、第八十三条の二第一項(第百八十七条第五項又は第百八十八条において準用する場合を含む。)の規定により当該不動産を占有する者に対して当該引渡命令に基づく引渡しの強制執行をすることができるものであること。
  イ 第五十五条第一項第三号(第百八十八条において準用する場合を含む。)に掲げる保全処分及び公示保全処分
  ロ 第七十七条第一項第三号(第百八十八条において準用する場合を含む。)に掲げる保全処分及び公示保全処分
  ハ 第百八十七条第一項に規定する保全処分又は公示保全処分(第五十五条第一項第三号に掲げるものに限る。)
4 前項の執行文の付された債務名義の正本に基づく強制執行は、当該執行文の付与の日から四週間を経過する前であって、当該強制執行において不動産の占有を解く際にその占有者を特定することができる場合に限り、することができる。
5 第三項の規定により付与された執行文については、前項の規定により当該執行文の付された債務名義の正本に基づく強制執行がされたときは、当該強制執行によって当該不動産の占有を解かれた者が、債務者となる。