<注釈別紙>


注1: 民法415条について

(債務不履行による損害賠償)
第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。


注2: 民法717条について

(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
第七百十七条 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
2 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
3 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。


注3:  東京高裁平成22年7月29日判決について

<事案の概要>
 Yマンションの区分所有者であった控訴人Xが、Yマンション管理組合(被控訴人)との間の駐車場使用契約に基づき被控訴人から専用使用権の設定を受けた棟内駐車場の地下部分の一画である駐車場に車両を駐車していたところ、大雨のために車両が水没して損傷した。
 控訴人Xは、その原因につき被控訴人Yが水没事故を防ぐために適切な対策を講ずべき契約上の注意義務を怠ったためであると主張し、債務不履行に基づく損害賠償請求として車両修理費用約580万円の支払いを求めた。

<裁判所の判断より抜粋>
(1)……本件契約は、典型契約としての賃貸借契約であるといえるかどうかはしばらく措き、これに類する内容を含む本件駐車場を目的とする貸借契約であると解するのが相当である。
 したがって、被控訴人は、控訴人に対し、単に控訴人が本件駐車場を使用することを受忍する義務を負うにとどまらず、賃貸借契約の賃貸人に準じ、控訴人に本件駐車場を使用収益させる義務を負い、その一内容として、本件駐車場をその使用収益に適した状態に置く義務があり、これに違反したときは、債務不履行に基づく損害賠償責任があるというべきである。

(2)そこで、本件駐車場を含む棟内駐車場についてみるに、その使用収益に適した状態とは、車両の駐車場としての機能が発揮される仕様であり、そのための品質及び性状を備えるともに、工作物又は建物の附属施設として、本件マンションの固有の事情(建物の存立目的、構造及び機能上の優先順位等のほか、建物の位置する地域的・場所的環境、その周囲の地理的条件、さらには、気候等の自然に関する条件)を前提とした上で、一般的な風雨等の自然力に対する耐性、耐震性等を備えているものであることをいうものと解するべきである。
 しかし、さらに、自然災害、人為的加害等が生じた場合の例外的な使用環境においてなお前記駐車場をその使用収益に適した状態に置くべき義務が被控訴人にあるかどうかについては、本件マンションの上記した固有の事情を前提としつつも、上記の例外的の使用環境が生ずる頻度や危険性の度合い、その規模や程度、それらが棟内駐車場に与える影響等とともに、それらに対応するための施設の整備やその維持管理が工学技術的に可能か、経済的にみて不相当に過大な費用を要しないか等諸般の事情を考慮して決する必要があるというべきである。

(3)そこでみるに、前記前提事実及び前記認定事実によれば、本件駐車場を含む棟内駐車場は、構造上水の滞留しやすい地下駐車場用の2基の揚水ポンプを設置していたものであり、昇降設備を含めて駐車場としての機能が発揮される仕様であり、そのための品質及び性状を備えるものと認められる(上記揚水ポンプの能力が他のこの種施設の設備に比して格別劣っていることを認めるに足りる的確な証拠はない。)。一方、地下駐車場は、その地盤面との高低差、外枠のみで支えられた構造等にかんがみ、雨量が多い場合には相当量の浸水があり、浸水量が著しく増えればこれに駐車している車両がその被害を受ける可能性があることも否定しがたく、実際にも、前記認定のとおり複数回の浸水事故があり、被控訴人においても防水ゲートの設置等の対策について検討したことがあったほか、その後も、地下駐車場の使用者は、大雨等の際にその駐車する車両を移動するなどして浸水による被害の発生を回避するなどしていたものである。
 しかし、前記認定に係る平成20年7月4日の大雨の雨量や被害の程度に照らし、同程度の降雨が通常の天候の循環の一部分にすぎないものとして、又は本件マンションの存する地域にたびたび生じ得るものとして当然にこれを予想し、施設の設計及び設備の設置に当たって同じ程度の雨量を想定すべきであったとは直ちに認められず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。
 また、前記認定に係る浸水事故等が都市部等における道路の舗装の進展、拡充等により雨水が地中に浸み込まず、排水施設から溢水したり地表面に冠水したりすることによるものであったとしても、前記認定のとおり他にも冠水等の被害が出ていることに照らし、かかる溢水や冠水のゆえに、直ちに棟内駐車場が本件マンションの存する地域における一般的な水準の仕様及び品質を備えていないとは認めがたい。
 さらに、控訴人の主張するポンプやスロープの設置についても、その具体的内容、費用、設置の効果等は本件証拠上明らかでなく、しかるときは、本件水没事故を防止するに足りる設備を配することが工学技術的及び経済的な面からみて可能なものであったかどうかはなお不明であるというほかなく、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。
 そうすると、被控訴人においていかなる措置を講じることが可能であったか及びそれによって本件水没事故を防止することができたかについても確定しがたいといわざるを得ない。結局、被控訴人が具体的にいかなる義務を負っていたかについて未だ特定がされていないものである。

(4)また、被控訴人が地下駐車場の専用駐車場の専用使用権を有する者からその車両の鍵を預かるべきであった旨の控訴人の主張については、本件規約その他の本件マンションの定めや区分所有者間の合意なくして被控訴人がそのような義務を負っていたものと解すべき事情及び被控訴人において本件規約その他本件マンションの定めにそのような内容の規定を設けるための手続きをとったり区分所有者間の合意を徴求したりする義務があったものと解すべき事情があることを認めるに足りる的確な証拠はない。


注4: 民法709条について

(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。