<連載第1回>
規約を読むにはコツがある
2012/7/17
全ての分譲マンションには、区分所有法第3条と第30条に基づき、区分所有者全員の合意によりマンションの使用と管理の方法を定めた「管理規約」があるはずです。この規約は、それぞれのマンションにおける最高自治規範で、区分所有者だけでなく、同居する家族や賃借人など占有者も強く拘束することから、“マンションの憲法”ともいわれます。
一方で、「必要なときに必要な部分しか見ない」「規約集がどこかへいってしまった」「賃貸で入居したときにそんなものはもらっていない」など、規約の周知が徹底されていない場合が実際には多いものです。マンション生活に関わる重要な規定が多いにもかかわらず、管理規約の全文を読んだことがある人はおそらく少数派で、この点でも“憲法”という例えは当たっているかもしれません。
法制執務に基づき作成された標準管理規約
いざ、管理規約を読んでみようとすると、こんどは法令に準じた難解な文体を正しく読み解かなければならないという、めんどうな作業に時間をとられることになります。
●「第1項の〜」とはどの部分を指すのか
●「〜することができない」と「〜してはならない」はどう違うのか
●「及び」と「並びに」の使い分けに意味はあるのか
●ここでいう「管理費等」に駐車場使用料は含まれるのか
このように、平易に書かれているようにみえる条文でも、複数人で読むといろいろと疑問が出てきて、議論が先に進まないといった経験はありませんか。
これは、ほとんどのマンション管理規約が国土交通省(または旧・建設省)が公表した「マンション標準管理規約」に準拠し、標準管理規約は基本的に「法制執務」と呼ばれる立法技術に従って作成されているからです。法制執務は、おもに国や地方自治体の職員が法律や条例を起草するための技術として学ぶもので、法制執務用語は日常用語と似て非なる点があることに注意が必要です。
また、標準管理規約はあくまで参考であって、各マンションにおいては固有の条件や事情にあわせた条文の書き換えが必要となります。多くの場合、分譲時に適用されるいわゆる「原始規約」は売主が作成・配付しますが、この担当者が法制執務の知識を欠いていると、変更や追加を行った部分と標準に倣った部分との整合性がとれない。結果的に、追加変更部分の規定があいまいとなり、誤解を招く原因となることがあります。
管理規約の条文を正しく理解するためには、最低限の法制執務の知識が不可欠です。法制執務は、マンションの使用細則など規約に関係する一連の規定のほか、契約書や覚書など条項を立てた文書の作成と理解の参考ともなります。マンション管理分野に限らず、法制執務に対する認識は一般に低いといわざるをえないのが現状ですが、これから具体的な事例を挙げながら規約を読むコツをまとめていきたいと思います。
(マンョン管理士/波形昭彦)