<連載第3回>
法令文の記述形式と条・項・号の区分
2012/9/18
法令文には、法制執務に基づく一定の記述形式があります。まず、法令は基本的に「題名」「本則」「附則」から構成され、法令の本体部分である本則は内容を理解しやすくするため「条」に区分します。
本則は条に区分
条には、「第一条、第二条…」のように漢数字で表記した「条名」を付けて検索・引用の際の利便性を高め、条文の内容を簡潔にまとめた「見出し」を各条名の前の行にカッコ書きで付けることが原則です。ただし、古い法令では見出しがないこともあります。また、連続する二つ以上の条文が共通する事項について規定する場合は、初出の条に一つだけ共通見出しを付けることもあります。
本則の条数が多いときは、必要に応じて本則を「章」に分けます。章をさらに区分するときは、「節」「
改行した次の段落は「第2項」
一つの条文を区切る必要があるときは、改行して別段落とします。この段落を法令文では「項」と呼びます。条文が二つ以上の項にわたる場合、現在は第2項以下の各項の行頭に「2、3、4…」のようにアラビア数字で「項番号」を付けますが、古くは改行のみで項番号を付けませんでした。また、条の中に項が一つしかない場合、また複数の項がある場合でもその最初の項(第1項)には、項番号を付けません。ただし、項だけで構成される附則や、本則でも条名がないような場合には、第1項から項番号が付けられます。[注1]
一つの条文が、項に区分されることなく、つまり改行なしに二つの文章からなるときは、前のほうの文章を「前段」、後のほうを「後段」と呼びます。三つの文章からなるときは、順に「前段」「中段」「後段」と呼びます。後段が接続詞「ただし」で始まり、前段に対する例外を規定している場合には、後段を「ただし
号の基本は箇条書き
条または項の中で、いくつかの事項を列記する必要があるときは、「一、二、三…」のように漢数字で番号を付けて箇条書きにします。この箇条書きで区分された各項目を「号」と呼び、「第一号、第二号…」のように読みます。
一つの号の中でさらに列記が必要なときは、「イ、ロ、ハ…」または「ア、イ、ウ…」のように符号を適宜付けて細分化します。符号を文字でなくカッコ付きアラビア数字「(1)(2)(3)…」とする場合もありますが、好ましい例とはいえません。というのは、後述のとおり法令文を横書きにする場合、号番号「一、二、三…」を「(1)(2)(3)…」に書き換えることがあり、重複する可能性があるからです。
別表・様式と附則
条文中に数字が多い場合や類似した規定を列挙するような場合、条文を表形式とすることがあります。ただし、本則の条文中に挿入する表は比較的単純なものに限られ、複雑な表は「別表」として附則の次(条文の末尾)に配置することが一般的です。二つ以上の表があるときは、「別表第一、別表第二…」というように番号を付けて区別します。また、申請書類の様式を定めるような場合には、別記様式を別表の次に配置します。
附則は、施行期日や有効期間などのほか、その法令の施行に伴う経過措置など、本則で定めた事項に附随する必要事項をまとめます。法律の制定や改廃に伴い必要となる既存法令の廃止や一部改正についても附則で規定し、規定事項が多い場合には本則と同じく条に区分します。附則の条名は新たに起番することが一般的で、本則の条名と混同しないよう「附則第一条、附則第二条…」のように呼びます。附則が一つの項のみで構成されている場合は項番号は付けず、二つ以上の項がある場合にはアラビア数字で、本則とは異なり第1項から「1、2、3・・・」というように項番号を付けます。
縦書きと横書き
以上が法令文の記述形式と条文の区分に関する主要な基準ですが、これらは法令文の原則である縦書きを前提としていることに注意が必要です。また、慣例的に、行頭は字下げせず、2行目以降は1字下げとします。具体例として、マンション管理適正化法を400字詰め原稿用紙に縦書きで記入してみると、文書1のようになります。
一方、公用文全体をみると、B4判・縦書きからA4判・横書きへの移行が進んでいます。特に1990年代後半以降の情報通信技術の急速な進展に伴い、パソコン等情報端末を利用した文書作成がほぼ100%普及するに至り、国レベルだけでなく地方自治体レベルでも公用文の横書きが浸透するようになりました。現在では、条例・規則等についても、横書きを公式な記述形式とする自治体が多数を占めています。
つまり「法令の原文は縦書き」という原則は、狭義の法令についてはいえても、広義の法令についてはいえなくなっているのが現状です。[注2]
縦書きと横書きで最も異なるのは数字の表記法です。自治体等が法令文を横書きに移行する場合、漢数字のアラビア数字への書き換えを中心とする、次のような基準が定められています。
第二十一条 → 第21条
行頭の項番号(2、3、4…)→ 変更なし
行頭の号番号(一、二、三…)→ 変更なし
※「一、二、三…」→「(1)(2)(3)…」とする場合もあり
一万八千六百円 → 18,600円
三重県、一部の、第三者 → 変更なし
※固有名詞および数量的意味合いの薄い語の中に含まれている漢数字はアラビア数字に変更しない
左の・左記の、右の・右記の → 次の、上記の
先にみた縦書きのマンション管理適正化法を、横書き原稿用紙に記入すると文書2のようになります。国土交通省によるマンション標準管理規約は、これとほぼ同様の記述形式を採用しています。
なお、総務省がインターネット上で運営する行政ポータルサイト「e-Gov(イーガブ)」の法令データ提供システムを利用すると、検索した法令が横書きで画面表示されます。この条文は、便宜上、官報に掲載された縦書きによる原文のテキストデータを単に横組みとしただけで、上記のような横書きのための基準を定めて書き換えたものではありません。
独自の基準による編集
出版物等で法令文を収録する際は、縦書きから横書きへの変更がない場合でも、編集者による文章の編集が行われます。一般に目にする機会が多いのは、こうした編集作業を経て出版された法令文でしょう。例えば、法令出版の有斐閣では、一連の法令集の出版にあたり独自の編集方針を掲げ、法制執務の原則とはやや異なる記述形式で法令文を収録しています。[注3]
仮に、文書2で横書きへの書き換えを行ったマンション管理適正化法を、上記の有斐閣方式を参考としてA4判・横書きに編集すると文書3のようになります。
また、契約書・約款など法令文と似た書式で作成するビジネス文書では、条の見出しは条名の次にカッコ書き、条と条のあいだは1行空き、第1項の項番号を省略せず、号番号を「(1)(2)(3)・・・」、号の細分化を「@、A、B・・・」とする例が多くみられます。
法令文にこうした基準を当てはめて勝手に書き換えることはできませんが、読み手が必ずしも専門家とは限らないマンションの管理規約・細則等については、むしろ記述形式の基準として適していると思われます。
仮に、マンション標準管理規約をこの方式でA4判・横書きに編集すると文書4のようになりますので、参考としてください。
(マンョン管理士/波形昭彦)