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マンション管理の文章術

<連載第4回>

「及び・並びに」と「又は・若しくは」

2012/10/16

法令文では、「及び」「並びに」「又は」「若しくは」の四つの接続詞を必ず漢字表記するだけでなく、その使い分けの方法が決められています。しかし、法令用語の基礎ともいわれるこの接続詞を厳密に使い分けて書かれた条文は、法令文としては正確でも、非常に難解な“悪文”の例となる場合があります。

法令文における使い分けのルールを知っておくことは有益ですが、一般の文章においてもこれに倣い、無理に接続詞を使って一つの文にする必要はないでしょう。むしろ、接続詞でつないだ語句を複数の文や段落に分ける、または箇条書きにするなどの方法で、平易で分かりやすい文章にしたほうが文意を正しく伝えることができます。

「及び」と「並びに」の使い分け

「および」と「ならびに」はどちらも併合を意味する接続詞ですが、法令文では二つ以上の語句を併合的に接続する場合、「及び」を次のように使います。

及び
及び
及び
(A・B・C・D・・・は全て並列)

併合的接続が2段階になるときは、小さいほうの接続に「及び」を、大きいほうの接続に「並びに」を使います。区分所有法でよく使われている「建物並びにその敷地及び附属施設」という表現は、この代表例といえます[注1]。

A及びB並びにX及びY
(「A及びB」と「X及びY」は並列)
A、B及びC並びに
(「A、B及びC」と「Z」は並列)

3段階以上になるときは、いちばん小さい接続に「及び」を、それより大きい接続には全て「並びに」を使います。「並びに」で接続された語句の小さいほうの並列関係を「小並び(こならび)」、大きいほうを「大並び(おおならび)」と呼んで区別する場合もあります。大並び・小並びは、「及び」と「並びに」の使い分けのように、文章構造のみから明確に区別することができるわけではないので注意が必要です。

区分所有法で実際に使われている例をみると次のとおりです[注2]。(a)と(b+c)を並列に結びつける接続詞が「小並び」、さらに(A)(B)(C)を並列に結びつける接続詞が「大並び」ということになります。

管理者は、
 共用部分 (a) 並びに
  当該建物の敷地 (b) 及び
  附属施設 (c)を保存し、(a)+(b+c) = (A)
 集会の決議を実行し、= (B)
 並びに規約で定めた行為をする = (C)
権利を有し、義務を負う。
「又は」と「若しくは」の使い分け

「または」と「もしくは」はどちらも選択を意味する接続詞ですが、法令文では二つ以上の語句を選択的に接続する場合、「又は」を次のように使います。その用法は「及び」の場合と同じです。

又は
又は
又は
(A・B・C・D・・・は全て並列)

選択的接続が2段階になるときは、小さいほうの接続に「若しくは」を、大きいほうの接続に「又は」を使います。「及び」がいちばん小さい接続に使う基本形であるのとは逆に、「又は」はいちばん大きい接続に使う基本形となります。区分所有法では、「専有部分若しくは共用部分又は建物の敷地若しくは附属施設」のように使われています[注3]。

A若しくはB又はX若しくはY
(「A若しくはB」と「X若しくはY」は並列)
A、B若しくはC又は
(「A、B若しくはC」と「Z」は並列)

3段階以上になるときは、いちばん大きい接続に「又は」を、それより小さい接続には全て「若しくは」を使います。大並び・小並びと同じように、小さいほうの並列関係を「小若し(こもし)」、大きいほうを「大若し(おおもし)」と呼んで区別する場合もあります。しかし、これも大並び・小並びの場合と同様、文章構造のみから明確に区別することができるわけではないので注意が必要です。

区分所有法で実際に使われている例をみると次のとおりです[注4]。(a)と(b)を選択的に並べる接続詞が「小若し」、さらに(A)と(B)を選択的に並べる接続詞が「大若し」ということになり、(C)と(D)が並列の関係にあります。

前項の規定は、
 規約 (a) 若しくは集会の決議 (b)
によつて、
 管理組合法人を代表すべき理事を定め (A)、若しくは
 数人の理事が共同して管理組合法人を代表すべきこと
 を定め (B)、(A+B) = (C)
又は規約の定めに基づき
 理事の互選によつて管理組合法人を代表すべき理事を
 定める (D)
ことを妨げない。

(マンョン管理士/波形昭彦)



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注釈 NOTES

注1: 一例として、区分所有法第3条の全文は次のとおり。
 区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。一部の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかな共用部分(以下「一部共用部分」という。)をそれらの区分所有者が管理するときも、同様とする。

注2: 区分所有法第26条第1項の全文は次のとおり。
 管理者は、共用部分並びに第21条に規定する場合における当該建物の敷地及び附属施設(次項及び第47条第6項において「共用部分等」という。)を保存し、集会の決議を実行し、並びに規約で定めた行為をする権利を有し、義務を負う。

注3: 区分所有法第30条第1項〜3項の全文は次のとおり(第4項〜5項略)。
 建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。
2  一部共用部分に関する事項で区分所有者全員の利害に関係しないものは、区分所有者全員の規約に定めがある場合を除いて、これを共用すべき区分所有者の規約で定めることができる。
3  前二項に規定する規約は、専有部分若しくは共用部分又は建物の敷地若しくは附属施設(建物の敷地又は附属施設に関する権利を含む。)につき、これらの形状、面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払つた対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない。

注4: 区分所有法第49条第1項〜5項の全文は次のとおり(第6項〜8項略)。
 管理組合法人には、理事を置かなければならない。
2  理事が数人ある場合において、規約に別段の定めがないときは、管理組合法人の事務は、理事の過半数で決する。
3  理事は、管理組合法人を代表する。
4  理事が数人あるときは、各自管理組合法人を代表する。
5  前項の規定は、規約若しくは集会の決議によつて、管理組合法人を代表すべき理事を定め、若しくは数人の理事が共同して管理組合法人を代表すべきことを定め、又は規約の定めに基づき理事の互選によつて管理組合法人を代表すべき理事を定めることを妨げない。

筆者紹介 PROFILE

波形昭彦(なみかた・あきひこ)

マンション管理士。ぎょうせい、日経BP社、Time Inc. を経て、合資会社妙典企画を設立し代表に就任。首都圏マンション管理士会の本部広報委員、千葉県支部事務局長、市川市マンション管理組合連絡協議会事務局長などを歴任。現在、首都圏マンション管理士会城東支部・台東区マンション管理士会正会員。地域コミュニティの活性化を支援するコミュニティアドバイザーとして、ICT活用や電子自治体、コミュニティ形成関連の執筆・講演多数。著書に『あなたのマンションは狙われている!――安全・安心な暮らしのための防犯読本』(共著、同友館)ほか。