<連載第5回>
「とする」「ものとする」などの言いまわし
2012/11/13
法令文は、いわゆる「です・ます調」ではなく「である調」で記述されますが、文末が「である」で終わることはまずありません。例えば、マンション標準管理規約(単棟型、以下同じ)の第1条では「この規約は、・・・を目的とする」と規定していますが、これを「この規約の目的は、・・・である」とは表現しないのが普通です[注1]。
これは、「とする」「ものとする」「しなければならない」「することができない」など、述語として用いられる法令用語にはそれぞれ意味があり、使い分けがされているからです。法令文独特の言いまわしともいえますが、代表的なものは次のとおりです。
「する」「とする」
区分所有法第11条第1項は、「共用部分は、区分所有者全員の共有に属する」と定めています[注2]。この条文により、区分所有者全員による共用部分の共有という所有関係が法的に創設されたことになります。
また、同法第49条第6項は、「理事の任期は、2年とする」と定めています[注3]。この条文も、管理組合法人における理事の任期を創設するものですが、さらに任期に上限を設けるという拘束的意味合いをもっています。
このように、一般文の「である」が単なる事実の説明にとどまることに対し、法令文の「する」は法規範の内容に創設的な意味をもたせ、「とする」は創設に加えて拘束的な意味をもたせるときに多く使われます。
標準管理規約では、次のような使用例があります。
区分所有者は、第1条に定める目的を達成するため、区分所有者全員をもって○○マンション管理組合(以下「管理組合」という。)を構成する。(第6条第1項)
対象物件のうち敷地及び共用部分等は、区分所有者の共有とする。(第9条)
「ものとする」「しなければならない」
マンション管理適正化法第3条は、「国土交通大臣は、・・・を定め、これを公表するものとする」と定めています[注4]。これは、行政機関等に対する一定の義務づけを規定する典型的な条文といえます。
一方、同法第5条では、「国及び地方公共団体は、・・・努めなければならない」という表現が使われています[注5]。これは、いわゆる努力義務規定の典型ですが、「(し)なければならない」という用語は「ものとする」に比べて法的な義務づけをより明確に既定するときに使われます。
つまり、「ものとする」は法的義務というよりは一般的な原則や方針を表し、「しなければならない」は一定の行為等を明確に義務づけるという違いがあります。
標準管理規約では、次のような使用例があります。
対象物件の使用については、別に使用細則を定めるものとする。(第18条)
区分所有者は、円滑な共同生活を維持するため、この規約及び総会の決議を誠実に遵守しなければならない。(第3条第1項)
「することができない」「してはならない」
「することができない」は、通常、法律上の権利や能力がないことを表します。民法第731条「男は、18歳に、女は、16歳にならなければ、婚姻をすることができない」は、代表的な条文例です。区分所有法では、第22条第1項に「区分所有者は、その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権とを分離して処分することができない」のような使用例があります[注6]。
この既定に違反する行為は、「法律上の
これに対し、「してはならない」は、一定の行為を禁止する「不作為の義務」を表します。例えば、区分所有法第6条第1項に「区分所有者は、・・・区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない」という規定があります[注7]。
「してはならない」という規定に違反すると、罰則の対象となることがあります。ただし、違反行為の法律上の効力が直ちに否定されることにはならないとされています。このため、法律では、禁止規定に違反した場合の罰則規定だけでなく、その効力を否定する規定を明文化することがあります。
区分所有法では、上記第6条第1項の規定に違反した場合の罰則規定はありませんが、第7節「義務違反者に対する措置」(第57条〜第60条)を置いて、提訴を含む対抗措置について詳細に定めています。
標準管理規約では、次のような使用例があります。
組合員は、納付した管理費等及び使用料について、その返還請求又は分割請求をすることができない。(第60条第5項)
区分所有者は、円滑な共同生活を維持するため、この規約及び総会の決議を誠実に遵守しなければならない。(第3条第1項)
(マンョン管理士/波形昭彦)