<連載第6回>
定義・略称・例示の通例
2012/12/11
前回みた「とする」「することができない」といったの言いまわしは、それぞれが法令用語または法制執務用語として定着しているものですが、このほかにも法令文独特の言いまわしや通例が多数あります。
例えば、条文で使用する用語の定義や長い字句の略称を規定する場合、また語句に含まれる意味を例示する場合には、一定の記述形式に従った表記が行われます。
主要な用語の「定義規定」
区分所有法もマンション管理適正化法も第2条に「定義規定」と呼ばれる条項を置き、解釈上の疑義が生じないよう主要な用語を定義しています[注1][注2]。定義規定は、「目的規定」または「趣旨規定」に続けて法令の冒頭(例えば第2条)に置かれるのが普通で、その法令中で使われる重要な用語や一般の用法と異なる意味をもたせて使用する用語の意味がまとめて定義されます。
標準管理規約でも、次のような定義規定が第2条に置かれています。
この規約において、次に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 区分所有権 建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)第2条第1項の区分所有権をいう。
二 区分所有者 区分所有法第2条第2項の区分所有者をいう。
三 占有者 区分所有法第6条第3項の占有者をいう。
四 専有部分 区分所有法第2条第3項の専有部分をいう。
五 共用部分 区分所有法第2条第4項の共用部分をいう。
六 敷地 区分所有法第2条第5項の建物の敷地をいう。
七 共用部分等 共用部分及び附属施設をいう。
八 専用使用権 敷地及び共用部分等の一部について、特定の区分所有者が排他的に使用できる権利をいう。
九 専用使用部分 専用使用権の対象となっている敷地及び共用部分等の部分をいう。
(標準管理規約第2条)
法令中のある特定の用語が、それほど中心的な意味合いをもっていない場合や、部分的に使用されるような場合には、冒頭の定義規定ではなく、その用語が初めて出てくる箇所で、次のように定義する方法もよく使われます。
規約は、書面又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)により、これを作成しなければならない。(区分所有法第30条第5項)
似て非なる「略称規定」
上記のように用語の初出箇所にカッコ書きで記述する定義規定と似たものに「略称規定」があります。長い字句を何度も繰り返し使用することを避け、条文を簡潔にするための略称を定めるもので、用語を定義するものではありません。
標準管理規約では、次のような使用例があります。
区分所有者若しくはその同居人又は専有部分の貸与を受けた者若しくはその同居人(以下「区分所有者等」という。)が、法令、規約又は使用細則等に違反したとき、又は対象物件内における共同生活の秩序を乱す行為を行ったときは、理事長は、理事会の決議を経てその区分所有者等に対し、その是正等のため必要な勧告又は指示若しくは警告を行うことができる。(標準管理規約第67条第1項)
また、標準管理規約で使用される「管理費等」という略称の意味は、次のとおり第25条で規定されています。このため、規約を部分的に参照したり、第25条よりあとの条文を引用する際には、「管理費等」が何を指すのかを誤解しないよう注意することが必要です。
区分所有者は、敷地及び共用部分等の管理に要する経費に充てるため、次の費用(以下「管理費等」という。)を管理組合に納入しなければならない。
一 管理費
二 修繕積立金
2 管理費等の額については、各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出するものとする。
(標準管理規約第25条)
一方、次のように適用範囲を限定した略称規定もよくみられます。下記条文は、条文を簡潔にするという略称の使用目的がよく表れている例といえるでしょう。ただし、法令文として簡潔になったからといって、分かりやすくなったとは決していえません。
一団地内にある数棟の建物(以下この条及び次条において「団地内建物」という。)の全部又は一部が専有部分のある建物であり、かつ、その団地内の特定の建物(以下この条において「特定建物」という。)の所在する土地(これに関する権利を含む。)が当該団地内建物の第65条に規定する団地建物所有者(以下この条において単に「団地建物所有者」という。)の共有に属する場合においては、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める要件に該当する場合であつて当該土地(これに関する権利を含む。)の共有者である当該団地内建物の団地建物所有者で構成される同条に規定する団体又は団地管理組合法人の集会において議決権の4分の3以上の多数による承認の決議(以下「建替え承認決議」という。)を得たときは、当該特定建物の団地建物所有者は、当該特定建物を取り壊し、かつ、当該土地又はこれと一体として管理若しくは使用をする団地内の土地(当該団地内建物の団地建物所有者の共有に属するものに限る。)に新たに建物を建築することができる。
一 当該特定建物が専有部分のある建物である場合 その建替え決議又はその区分所有者の全員の同意があること。
二 当該特定建物が専有部分のある建物以外の建物である場合 その所有者の同意があること。
(区分所有法第69条第1項)
例示の「その他の」と並列の「その他」
用語の意味を分かりやすく示すため例をあげる場合、「A、B、Cその他の○○」という言いまわしがよく使われます。具体的には、標準管理規約で次のような使用例があります。
共用部分のうち各住戸に附属する窓枠、窓ガラス、玄関扉その他の開口部に係る改良工事であって、防犯、防音又は断熱等の住宅の性能の向上等に資するものについては、管理組合がその責任と負担において、計画修繕としてこれを実施するものとする。(標準管理規約第22条第1項)
この例では、「その他の」の前に置かれた「窓枠、窓ガラス、玄関扉」が、後ろに置かれた「開口部」の例示です。例示された三つの語句は、「その他の」に続く語句の意味に当然含まれます。
これとよく似た言いまわしに「Xその他Y」「X、Yその他Z」という並列表記があるので注意が必要です。標準管理規約では次のような使用例があります。
役員は、法令、規約及び使用細則その他細則(以下「使用細則等」という。)並びに総会及び理事会の決議に従い、組合員のため、誠実にその職務を遂行するものとする。(標準管理規約第37条第1項)
管理事務室、管理用倉庫、機械室その他対象物件の管理の執行上必要な施設(標準管理規約第16条第1号)
この場合、前の例では「使用細則」と「その他細則」が、後の例では「管理事務室」「管理用倉庫」「機械室」「その他対象物件の管理の執行上必要な施設」が、それぞれ並列の関係にあります。
(マンョン管理士/波形昭彦)