<連載第7回>
「直ちに・遅滞なく・速やかに」の使い分け
2012/12/25
「直ちに」「遅滞なく」「速やかに」は、日常用語ではいずれも「すぐに」という意味で使われますが、法令用語としてはそれぞれに意味があり区別して使われます。
時間的即時性だけをみると、@直ちに、A速やかに、B遅滞なくの順に弱くなりますが、単に速い・遅いだけの問題で使い分けされているわけではないので注意が必要です。
「直ちに」
三つの用語のなかで最も時間的即時性が強く、一切の遅延を許さないという意味で使われるのは「直ちに」です。規定に反してすぐに行わなければ、単に義務違反だけでなく、違法となる場合が多いとされます。
区分所有法では第55条の9第1項[注1]に、マンション管理適正化法では第60条[注2]に、それぞれ1回だけ使用例があります。標準管理規約でも、使用例は第31条(届出義務)にあるのみです。
新たに組合員の資格を取得し又は喪失した者は、直ちにその旨を書面により管理組合に届け出なければならない。(標準管理規約第31条)
「遅滞なく」
「遅滞なく」は、「直ちに」と同じように時間的即時性が強いものの、合理的な理由に基づく遅延は許されるという意味合いが含まれます。ただし、規定に違反した場合は、これも「直ちに」と同様、単に義務違反だけでなく違法とされることが少なくありません。
標準管理規約では、第43条(招集手続)[注3]に次のような使用例があります。
総会を招集するには、少なくとも会議を開く日の2週間前(会議の目的が建替え決議であるときは2か月前)までに、会議の日時、場所及び目的を示して、組合員に通知を発しなければならない。
(第2〜6項略)
7 第45条第2項の場合には、第1項の通知を発した後遅滞なく、その通知の内容を、所定の掲示場所に掲示しなければならない。
(標準管理規約第43条より抜粋)
上記の第43条第7項の規定は、第45条[注4]に基づき、利害関係をもつ占有者が総会に出席して意見を述べる場合を想定したものです。これは、区分所有法が次のとおり定める「占有者の意見陳述権」に基づくもので、「遅滞なく」も同じように使われています。
区分所有者の承諾を得て専有部分を占有する者は、会議の目的たる事項につき利害関係を有する場合には、集会に出席して意見を述べることができる。
2 前項に規定する場合には、集会を招集する者は、第35条の規定により招集の通知を発した後遅滞なく、集会の日時、場所及び会議の目的たる事項を建物内の見やすい場所に掲示しなければならない。
(区分所有法第44条)
標準管理規約では、もう1か所、第67条(理事長の勧告及び指示等)に次のような使用例があります。
(第1〜2項略)
3 区分所有者等がこの規約若しくは使用細則等に違反したとき、又は区分所有者等若しくは区分所有者等以外の第三者が敷地及び共用部分等において不法行為を行ったときは、理事長は、理事会の決議を経て、次の措置を講ずることができる。
一 行為の差止め、排除又は原状回復のための必要な措置の請求に関し、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行すること
二 敷地及び共用部分等について生じた損害賠償金又は不当利得による返還金の請求又は受領に関し、区分所有者のために、訴訟において原告又は被告となること、その他法的措置をとること
(第4〜5項略)
6 理事長は、第3項の規定に基づき、区分所有者のために、原告又は被告となったときは、遅滞なく、区分所有者にその旨を通知しなければならない。この場合には、第43条第2項及び第3項の規定を準用する。
(標準管理規約第67条)
上記の第67条第6項の規定は、同条第3項に基づき、区分所有者や占有者等に対する勧告または指示・警告を法的措置により行うことを想定したものです。これは、区分所有法第26条[注5]の次の定めに基づくもので、ここでも「遅滞なく」が同じように使われています。
(第1〜3項略)
4 管理者は、規約又は集会の決議により、その職務に関し、区分所有者のために、原告又は被告となることができる。
5 管理者は、前項の規約により原告又は被告となつたときは、遅滞なく、区分所有者にその旨を通知しなければならない。この場合には、第35条第2項から第4項までの規定を準用する。
(区分所有法第26条より抜粋)
「速やかに」
「速やかに」の時間的即時性は、「直ちに」より弱く「遅滞なく」より強いとされ、両者の中間的な用語として使われます。また、訓示的な意味合いをもつに過ぎず、仮に規定に違反しても直ちに違法ということにはならない点が、「直ちに」「遅滞なく」との大きな違いです。
標準管理規約では、次の3か所で使用例があります。
第22条(窓ガラス等の改良)
共用部分のうち各住戸に附属する窓枠、窓ガラス、玄関扉その他の開口部に係る改良工事であって、防犯、防音又は断熱等の住宅の性能の向上等に資するものについては、管理組合がその責任と負担において、計画修繕としてこれを実施するものとする。
2 管理組合は、前項の工事を速やかに実施できない場合には、当該工事を各区分所有者の責任と負担において実施することについて、細則を定めるものとする。
第23条(必要箇所への立入り)
前2条により管理を行う者は、管理を行うために必要な範囲内において、他の者が管理する専有部分又は専用使用部分への立入りを請求することができる。
2 前項により立入りを請求された者は、正当な理由がなければこれを拒否してはならない。
3 前項の場合において、正当な理由なく立入りを拒否した者は、その結果生じた損害を賠償しなければならない。
4 立入りをした者は、速やかに立入りをした箇所を原状に復さなければならない。
第52条(招集)
理事会は、理事長が招集する。
2 理事が○分の1以上の理事の同意を得て理事会の招集を請求した場合には、理事長は速やかに理事会を招集しなければならない。
3 理事会の招集手続については、第43条(建替え決議を会議の目的とする場合の第1項及び第4項から第7項までを除く。)の規定を準用する。ただし、理事会において別段の定めをすることができる。
参考までに、前出のマンション管理適正化法第60条(管理業務主任者証の交付等)では、「直ちに」と「速やかに」が一つの条文の中で次のように使い分けされています。
(第1〜3項略)
4 管理業務主任者は、前条第1項の登録が消除されたとき、又は管理業務主任者証がその効力を失ったときは、速やかに、管理業務主任者証を国土交通大臣に返納しなければならない。
5 管理業務主任者は、第64条第2項の規定による禁止の処分を受けたときは、速やかに、管理業務主任者証を国土交通大臣に提出しなければならない。
6 国土交通大臣は、前項の禁止の期間が満了した場合において、同項の規定により管理業務主任者証を提出した者から返還の請求があったときは、直ちに、当該管理業務主任者証を返還しなければならない。
(マンョン管理士/波形昭彦)