<連載第8回>
附則は決してオマケではない
2013/1/22
連載第3回で簡単にふれたとおり、ほとんどの法令は本則と附則から構成され、附則ではその法令の施行期日や施行に伴う経過措置など、本則で定めた事項に附随する必要事項をまとめます。
ふだん目にすることが多い法令集などでは、附則がほとんどの場合「(略)」や「(抄)」とされていることもあり、附則というと何となく本則のオマケと考えられがちです。
しかし、附則に定められた経過措置により本則で定められている事項が変更されるなど、一時的とはいえ附則の規定が本則の規定に優先する場合は数多くあります。附則に規定すべき内容が非常に多い場合には、例えば「都市計画法施行法」のように、附則ではなく単独立法のかたちをとることもあり、附則は決してオマケではないことに注意が必要です。
施行期日の定め方
附則の第1条は施行期日に関する規定とすることが普通です。標準管理規約の附則第1条では、「この規約は、平成○年○月○日から効力を発する。」という例文を示しています。
法律や条例の場合は、公布日(官報に掲載された日)と施行日(効力が生ずる日)を別にし、制度の周知や準備に十分な時間をとることが多いので、なおのこと施行期日に関する規定が重要となります。
区分所有法の附則第1条では、施行期日が次のとおり定められています。
附 則
(施行期日)
第1条 この法律は、昭和38年4月1日から施行する。
2 第17条及び第24条から第34条まで(第36条においてこれらの規定を準用する場合を含む。)の規定は、前項の規定にかかわらず、公布の日から施行する。ただし、昭和38年4月1日前においては、この法律中その他の規定の施行に伴う準備のため必要な範囲内においてのみ、適用があるものとする。
区分所有法は、1962年に「昭和37年4月4日法律第69号」として公布されたので、条件付きながら施行までの準備期間として約1年間おくことを附則第1条で規定したことになります[注1]。
また、上記の法律制定時の附則に続き、1983年に大幅な見直しが行われた改正時の附則が記載されています。
附 則(昭和58年5月21日法律第51号)
(施行期日)
第1条 この法律は、昭和59年1月1日から施行する。
(※第2条以下略)
このあとも、1988年、1991年、2002年…と、区分所有法の一部改正[注2]が行なわれた際の附則が順次記載されていきます。これは、法令を一部改正するための「溶け込み方式」[注3]と「追加・増補方式」[注4]と呼ばれる二つの方式のうち、日本では前者が採用されているためです。
溶け込み方式による一部改正
例えば、建築士法は、いわゆる耐震偽装事件により失われた建築物の安全性および建築士制度に対する国民の信頼を回復するため、2006年に一部改正されました。この改正を行うために、「建築士法等の一部を改正する法律(平成18年法律第114号)」が施行されました。この「法律」には次のような規定があります(原文は縦書き)[注5]。
(前略)…第2条第2項及び第3項中「用いて」の下に「、建築物に関し」を加え、「工事監理等」を「工事監理その他」に改め、同条第4項中「工事監理等」を「工事監理その他」に改め、同条第5項中「建築工事」を「建築工事の」に改め、同条第8項を同条第9項とし、同条第7項中「(昭和25年法律第201号)」を削り、同項を同条第8項とし、同条第6項を同条第7項とし、同条第5項の次に次の1項を加える。…(後略)
この「法律」の施行を受けて、建築法第2条第2項は、次のとおり改正されました(下線は変更部分)。
(改正前)
この法律で「一級建築士」とは、国土交通大臣の免許を受け、一級建築士の名称を用いて、設計、工事監理等の業務を行う者をいう。
↓
(改正後)
この法律で「一級建築士」とは、国土交通大臣の免許を受け、 一級建築士の名称を用いて、建築物に関し、設計、工事監理その他の業務を行う者をいう。
このように、一部改正法令は、それ自体が独立したひとつの法令として存在しますが、施行と同時に改正部分が既存法令に溶け込んで一体となり、本則の実体がなくなります。ただし、附則は溶け込むことなくそのまま残るので、法令の末尾には改正の順に附則が追加されていくのです。
附則の主要部分となる経過規定
施行期日のほか、附則で規定される主な事項を一般的な登載順に挙げると次のとおりです。
@施行期日および有効期間等
Aその法令の制定に伴い必要となる既存法令の廃止
Bその法令の施行に伴う経過措置
Cその条例の制定に伴い必要となる既存法令の一部改正
Dその他必要な事項
法令においては、一般に「経過規定」と呼ばれる経過措置に関する規定が、附則のなかで最も重要な部分を占めることになります。ただし、マンション管理規約は法律や条例とは違いますので、それほど詳細な経過措置を規定する必要性は低いでしょう。
例えば区分所有法では、先にみた附則第1条の次に、次のような附則第2条が規定されています。
(経過措置)
第2条 この法律の施行の際現に存する共用部分が区分所有者のみの所有に属する場合において、第4条第1項の規定に適合しないときは、その共用部分の所有者は、同条第2項の規定により規約でその共用部分の所有者と定められたものとみなす。
2 この法律の施行の際現に存する共用部分が区分所有者の全員又はその一部の共有に属する場合において、各共有者の持分が第10条の規定に適合しないときは、その持分は、第8条ただし書の規定により規約で定められたものとみなす。
3 この法律の施行の際現に存する共用部分の所有者が第4条第1項の規定の適用により損失を受けたときは、その者は、民法第703条の規定に従い、償金を請求することができる。
標準管理規約コメントでは、新規分譲時に売主等が原始規約案を作成する際、附則第1条の次に以下のような附則を規定することが考えられるとして例を挙げています。
(管理組合の成立)
第2条 管理組合は、平成○年○月○日に成立したものとする。
(初代役員)
第3条 第35条にかかわらず理事○名、監事○名とし、理事長、副理事長、会計担当理事、理事及び監事の氏名は別に定めるとおりとする。
2 前項の役員の任期は、第36条第1項にかかわらず平成○年○月○日までとする。
(管理費等)
第4条 各区分所有者の負担する管理費等は、総会においてその額が決定されるまでは、第25条第2項に規定する方法により算出された別に定める額とする。
(経過措置)
第5条 この規約の効力が発生する日以前に、区分所有者が○○会社との間で締結した駐車場使用契約は、この規約の効力が発生する日において管理組合と締結したものとみなす。
(マンョン管理士/波形昭彦)