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マンション管理の文章術

<連載第11回>

実践編(3)専有部分・共用部分の区分を明確にする

2013/3/5

マンションの専有部分と共用部分をどこで区分するかについて、区分所有法は具体的な定めを設けていません。これは、建物の構造や形態はさまざまで、法律で統一的な基準を設けることが馴染まないためです。

標準管理規約では、専有部分と共用部分の区分を規約で定める例として、第7条に「専有部分の範囲」を、第8条に「共用部分の範囲」を置いています[注1]。

しかし、最終的に管理の責任や修繕費用の負担を判断する場合には、専有部分と共用部分の境界がどこにあるかだけでなく、不具合の原因や使用方法、設置の目的や構造などを総合的に判断する必要があり、全てを規約に明記することは不可能です。

ただし、責任分界点の考え方を規約で明記しておくことはトラブルの未然防止に役立つことから、専有部分の範囲等について標準規約を書き換えてより詳細にする場合があります。

専有部分の範囲をより詳細にする

Aマンションでは、管理規約第7条(専有部分の範囲)を次のように変更しました(下線は変更部分)。

【標準】
第7条 対象物件のうち区分所有権の対象となる専有部分は、住戸番号を付した住戸とする。
2 前項の専有部分を他から区分する構造物の帰属については、次のとおりとする。
 一 天井、床及び壁は、躯体部分を除く部分を専有部分とする。
 二 玄関扉は、錠及び内部塗装部分を専有部分とする。
 三 窓枠及び窓ガラスは、専有部分に含まれないものとする。
 (※以下略)

  ↓

【変更後】
第7条 対象物件のうち区分所有権の対象となる専有部分は、住戸番号を付した住戸(以下「住戸部分」という。)とする。
2 前項の住戸番号を付した住戸のうち、専有部分を他から区分する構造物の帰属については、次のとおりとする。
 一 天井、床及び壁は、躯体部分を除く部分を専有部分とする。
 二 玄関扉は、錠、ドアクローザー、郵便受け箱及び内部塗装部分を専有部分とする。
 三 網戸、窓枠及び窓ガラスは、専有部分に含まれないものとする。
 (※以下略)

ドアクローザー(ドアチェック)を専有部分と規約に明記しておけば、不具合が発生した際に区分所有者または居住者の責任と負担で速やかに交換することができます。また、網戸はサッシ窓と同じく共用部分であると明記しておかないと、古くなったから、または使っていないからといった理由で、居住者が勝手に廃棄処分してしまうことがよくあります。

どちらも標準管理規約およびコメント[注2]の趣旨に沿った、書き換えの良い例といえるのですが、もう少し改善することができそうです。

まず、第1項でせっかく「住戸番号を付した住戸」の略称を定めたのに、第2項で略称を使わず、「住戸番号を付した住戸」という表記を繰り返しています。略称を定めた以上は、「住戸部分」と言い換えるべきでしょう。

また、第2項第2号では、「錠、ドアクローザー、郵便受け箱」が玄関扉の部位を具体的に例示しているのに対し、「内部塗装部分」はやや漠然とした概念を示しているため、並列表記にやや違和感があります。

以上のような留意点を反映させた改善例は次のとおりとなります。ただし、この場合、変更後の条文が間違いというわけではありません。

【改善例】
第7条 対象物件のうち区分所有権の対象となる専有部分は、住戸番号を付した住戸(以下「住戸部分」という。)とする。
2 前項の住戸部分のうち、専有部分を他から区分する構造物の帰属については、次のとおりとする。
 一 天井、床及び壁は、躯体部分を除く部分を専有部分とする。
 二 玄関扉は、錠、ドアクローザー及び郵便受け箱並びに内部塗装部分を専有部分とする。
 三 網戸、窓枠及び窓ガラスは、専有部分に含まれないものとする。
専有部分と共用部分の区分を補足する

専有部分と共用部分の区分が不明確だと、修繕費用等をめぐるトラブルの原因となりがちです。Bマンションでは、トラブルを未然に防ぐため、標準管理規約第7条第3項を次のように変更しました。

【標準】
3 第1項又は前項の専有部分の専用に供される設備のうち共用部分内にある部分以外のものは、専有部分とする。

  ↓

【変更後】
3 設備配管類のうち給水管、ガス管及び電気配管は、本管から各戸メーターを含む部分までを共用部分とし、各戸メーターから先(住戸側)の枝管部分を専有部分とする。
4 設備配管類のうち雑排水管及び汚水管は、竪管に接続する継ぎ手の手前までの枝管部分を専有部分とする。
5 設備配管類のうちTVアンテナ配管は、専有部分内の端子のみを専有部分とする。
6 設備配管類のうち通信線は、配管内の配線は共用部分とし、それ以外の専有部分内の配線及び端子は専有部分とする。
7 火災警報設備、オートロック設備及び集合郵便受箱は専有部分に含まれないものとする。ただし、これらの設備のうち専有部分内にある設備の管理については、通常の使用に伴うものは、当該専有部分の区分所有者の負担と責任において行わなければならない。

前記の例と同じく、これも良い書き換えの例といえますが、具体的例示を優先するあまり、包括的規定を削除してしまったことが悔やまれます。標準規約の第3項はそのまま残したうえ、例外規定として第4項を追加したほうが、原則(第3項)と例外(第4項)の関係がわかりやすくなるでしょう。

【改善例】
3 第1項又は前項の専有部分の専用に供される設備のうち共用部分内にある部分以外のものは、専有部分とする。
4 前項の規定にかかわらず、次の設備については、それぞれ当該各号に掲げるとおり専有部分と共用部分を区分する。
 (1)設備配管類のうち給水管、ガス管及び電気配管は、本管から各戸メーターを含む部分までを共用部分とし、各戸メーターから先(住戸側)の枝管部分を専有部分とする。
 (2)設備配管類のうち雑排水管及び汚水管は、竪管に接続する継ぎ手の手前までの枝管部分を専有部分とする。
 (3)設備配管類のうちTVアンテナ配管は、専有部分内の端子のみを専有部分とする。
 (4)設備配管類のうち通信線は、配管内の配線は共用部分とし、それ以外の専有部分内の配線及び端子は専有部分とする。
 (5)火災警報設備、オートロック設備及び集合郵便受箱は専有部分に含まれないものとする。ただし、これらの設備のうち専有部分内にある設備の管理については、通常の使用に伴うものは、当該専有部分の区分所有者の負担と責任において行わなければならない。

なお、標準管理規約では、第7条で専有部分の範囲の原則を定め、第8条で共用部分の範囲を別表第2に掲げるとして具体的例示を行なっています。これは、区分所有法における、まず専有部分を「区分所有権の目的たる建物の部分」と定め、「専有部分以外の建物の部分」を共用部分とするという定義法を踏襲しているためと考えられます[注3]。

この考え方を応用すれば、上記のように専有部分の範囲を詳細に条文化するよりは、共用部分を列挙する別表をより詳細に変更し、専有部分との区分も別表中に明記するという方法も考えられます。特に、図を挿入する場合には、別表2を変更して区分の詳細を明記したほうがわかりやすくなるでしょう。

(マンョン管理士/波形昭彦)



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注釈 NOTE

注1: 標準管理規約第2章「専有部分等の範囲」(第7条〜第8条)の全文は次のとおり。
 (専有部分の範囲)
第7条 対象物件のうち区分所有権の対象となる専有部分は、住戸番号を付した住戸とする。
2 前項の専有部分を他から区分する構造物の帰属については、次のとおりとする。
 一 天井、床及び壁は、躯体部分を除く部分を専有部分とする。
 二 玄関扉は、錠及び内部塗装部分を専有部分とする。
 三 窓枠及び窓ガラスは、専有部分に含まれないものとする。
3 第1項又は前項の専有部分の専用に供される設備のうち共用部分内にある部分以外のものは、専有部分とする。
 (共用部分の範囲)
第8条 対象物件のうち共用部分の範囲は、別表第2に掲げるとおりとする。

注2: 標準管理規約(単棟型)の第7条関係コメントは次のとおり。
 @専有部分として倉庫又は車庫を設けるときは、「倉庫番号を付した倉庫」又は「車庫番号を付した車庫」を加える。また、すべての住戸に倉庫又は車庫が附属しているのではない場合は、管理組合と特定の者との使用契約により使用させることとする。
 A利用制限を付すべき部分及び複数の住戸によって利用される部分を共用部分とし、その他の部分を専有部分とした。この区分は必ずしも費用の負担関係と連動するものではない。利用制限の具体的内容は、建物の部位によって異なるが、外観を構成する部分については加工等外観を変更する行為を禁止し、主要構造部については構造的変更を禁止する趣旨である。
 B第1項は、区分所有権の対象となる専有部分を住戸部分に限定したが、この境界について疑義を生じることが多いので第2項で限界を明らかにしたものである。
 C雨戸又は網戸がある場合は、第2項第三号に追加する。
 (第3項関係)
 D「専有部分の専用に供される」か否かは、設備機能に着目して決定する。

注3: 区分所有法第2条の全文は次のとおり。
 (定義)
第2条 この法律において「区分所有権」とは、前条に規定する建物の部分(第4条第二項の規定により共用部分とされたものを除く。)を目的とする所有権をいう。
2 この法律において「区分所有者」とは、区分所有権を有する者をいう。
3 この法律において「専有部分」とは、区分所有権の目的たる建物の部分をいう。
4 この法律において「共用部分」とは、専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の附属物及び第4条第二項の規定により共用部分とされた附属の建物をいう。
5 この法律において「建物の敷地」とは、建物が所在する土地及び第5条第一項の規定により建物の敷地とされた土地をいう。
6 この法律において「敷地利用権」とは、専有部分を所有するための建物の敷地に関する権利をいう。

筆者紹介 PROFILE

波形昭彦(なみかた・あきひこ)

マンション管理士。ぎょうせい、日経BP社、Time Inc. を経て、合資会社妙典企画を設立し代表に就任。首都圏マンション管理士会の本部広報委員、千葉県支部事務局長、市川市マンション管理組合連絡協議会事務局長などを歴任。現在、首都圏マンション管理士会城東支部・台東区マンション管理士会正会員。地域コミュニティの活性化を支援するコミュニティアドバイザーとして、ICT活用や電子自治体、コミュニティ形成関連の執筆・講演多数。著書に『あなたのマンションは狙われている!――安全・安心な暮らしのための防犯読本』(共著、同友館)ほか。