本文へスキップ

マンション管理オンラインはマンション居住者と管理組合の視点に立った実務情報を提供する専門サイトです。

弁護士平松英樹のマンション管理論

<連載第1回>

規約の解釈(区分所有法17条1項本文との関連)について

2012/9/4

今回は、区分所有法17条1項本文に関連する管理規約の解釈について考えてみましょう。

区分所有法17条1項本文は、2002年に改正されました[注1]が、現在においても、改正前の区分所有法にならった管理規約[注2]のままとなっている管理組合があり、そのような管理組合において大規模修繕工事を実施しようとするときに問題が生じてきます。

次のような相談事例をもとに検討してみましょう。

<相談事例>

 現在のマンション標準管理規約(単棟型)47条3項2号によると、「敷地及び共用部分等の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)」は、「組合員総数の4分の3以上及び議決権総数の4分の3以上で決する。」となっています。
 他方、私たちのマンションの管理規約は、旧区分所有法17条1項本文にならっていて、「敷地及び共用部分の変更(改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないものを除く。)」は、「組合員総数の4分の3以上及び議決権総数の4分の3以上で決する。」となっています(以下、私たちのマンションのこの定めを「本件規約」といいます)。
 2002年改正法[注1]を受けて、私たちの本件規約も当然に改正されたものと考えてよいのでしょうか?
 私たちのマンションでは、今後、多額の費用を要する大規模修工事の実施を予定しているのですが、やはり特別決議が必要となるのでしょうか、それとも普通決議で足りるのでしょうか?

前提事項

(1)「共用部分の変更」に当たるかどうか

前提として、今回の大規模修繕工事が「共用部分等の変更」に当たるかどうか確認しておく必要があります。この点、一応、東京高裁昭和55年3月26日判決が参考になるでしょう。

さて、今回の大規模修繕工事によって、建物の外観や構造などが変わるということであれば、(軽微かどうかはさておき)形式的には「共用部分の変更」に当たるということになるでしょう。

ところで、現行区分所有法17条1項本文の解釈上、「その形状又は効用の著しい変更を伴わないもの」(いわゆる軽微変更)の場合には普通決議で足りることになります。つまり、現行法17条の解釈としては、軽微変更であれば「著しく多額の費用」を要するかどうかに関係なく、普通決議で足りるということになります。

(2)改正法施行後の規約の定めに関する規定

次に、念のため、2002年改正に際し、「規約で定められた事項で、改正後の区分所有法17条に抵触するものは、改正法施行によってその効力を失う」という趣旨の規定(1983年改正のときの附則9条2項のような規定)があるかどうか確認しておきましょう[注3]。

結論としては、2002年改正に際し、そのような規定は存在しません。

(3)現行法と異なる規約の定めは可能かどうか

さらに、念のため、2002年改正法施行後においても、規約によって区分所有法17条1項本文の定めと異なる定め、具体的には「著しく多額の費用」を要する場合には特別決議を必要とする旨を定めることが可能かどうか考えておきましょう。

結論としては、2002年改正法施行後においても、「著しく多額の費用を要する大規模修繕工事の実施には特別決議を必要とする」旨を規約に定めることは可能でしょう[注4]。

原則論

以上を前提とすれば、2002改正法施行後においても、団体の自治として、積極的に本件規約のまま維持することは可能でしょう。

原則論としては、仮に本件規約を現行マンション標準管理規約(単棟型)47条3項2号のように変更したいのであれば、規約の変更(区分所有法31条)手続きを経る必要がある、ということになるでしょう。

相談事例の背景・現実論

以上の原則論とは別に、本件規約の変更(区分所有法31条)について、一部の組合員(「4分の1」超の議決権を有する組合員)の賛成を得られず、規約の変更ができない、という現実論があります。

このような状況で、著しく多額の費用を要する大規模修繕工事を実施しようとする場合、いかなる決議を経なければならないのか、普通決議で足りるのか、それとも特別決議が必要か、という難しい問題が生じます。

この問題に関しては色々な見解があり得るところでしょう[注4][注5]。

私見

色々な見解[注4][注5]を踏まえて私見を述べると、結局は団体の意思の解釈、究極的には本件規約を設定した区分所有者(区分所有者及び議決権の各4分の3以上)の意思の探求(立証)の問題だと考えます。

例えば、もともと本件規約の文言は、単に旧区分所有法17条1項本文を確認して記載していたものに過ぎず、積極的に本件規約の文言に意味を持たせる趣旨ではない、ということであれば、つまりは現行区分所有法17条1項本文に定めるところが本件規約の意味(合理的な解釈)である、ということになり、結論として現行区分所有法に定める決議の要件で足りるということになるでしょう。

他方、もともと本件規約を設定した区分所有者の意思が、積極的に「著しく多額の費用」を要する工事については必ず特別決議を経ようという趣旨であったとすれば、そのような意思は、法改正後も尊重されなければなりませんので、つまりは本件規約の文言どおりに解釈せざるを得ず、結論として普通決議では足りないということになるでしょう。

結局、この問題は、個々のマンション(団体)ごとに設定された管理規約の解釈問題に収斂されると思います。そうすると、マンション(団体)によって結論が異なることになるでしょう。

(弁護士/平松英樹)



バナースペース

注釈 NOTE

注1: 2002年(平成14年)改正法は、2003年6月1日に施行されています。
 2002年改正前の区分所有法17条1項本文は、「共用部分の変更(改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議で決する。」と定められていました。つまり、「著しく多額の費用」を要する共用部分の変更の場合には、特別決議が必要とされていたのです。
 この点は、2002年改正により、「共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議で決する。」となりました。つまり現行区分所有法17条の解釈上、いわゆる軽微な変更の場合には、「著しく多額の費用」を要するかどうかに関係なく、普通決議で足りるということになりました。

注2: 2002年(平成14年)当時の中高層共同住宅標準管理規約は、旧区分所有法17条1項本文を前提に策定されていました。そのため、同標準管理規約(単棟型)45条3項では、「敷地及び共用部分等の変更(改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないものを除く。)」は、「組合員総数の4分の3以上及び議決権総数の4分の3以上で決する。」とされていました。
 区分所有法17条1項は2002年に改正され、その改正法に整合するように、2004年1月23日国土交通省発表のマンション標準管理規約においても、「敷地及び共用部分等の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)」は「組合員総数の4分の3以上及び議決権総数の4分の3以上で決する。」というように改訂されました。
 その後、現在のマンション標準管理規約は2011年7月27日付けで国土交通省から公表されていますが、この部分についての変更はありません。

注3: 1983年(昭和58年)改正のときの附則9条は次のように定められていました。
(規約に関する経過措置)
第9条 この法律の施行の際現に効力を有する規約は、新法第31条又は新法第66条において準用する新法第31条第1項及び新法第68条の規定により定められたものとみなす。
2 前項の規約で定められた事項で新法に抵触するものは、この法律の施行の日からその効力を失う。

注4: 吉田徹編著『一問一答 改正マンション法(平成14年区分所有法改正の解説)』(商事法務、2003年)23頁参照

注5: 稻本洋之助・鎌野邦樹編『コンメンタールマンション標準管理規約』(日本評論社、2012年)158頁参照 

筆者紹介 PROFILE

平松英樹(ひらまつ・ひでき)

弁護士、マンション管理士。1968年(昭和43年)生まれ、1991年(平成3年)年早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1丁目14番5号土屋ビル4階)、首都圏マンション管理士会などに所属。マンション管理、不動産取引・賃貸借(借地借家)問題を中心とした不動産法務を専門とし、マンション管理、不動産販売・賃貸管理、建築請負会社等の顧問先に対するリーガルサービスに定評がある。実務担当者を対象とする講演、執筆等の実績多数。著書に『わかりやすいマンション管理組合・管理会社のためのマンション標準管理規約改正の概要とポイント』(住宅新報社)ほか。