本文へスキップ

マンション管理オンラインはマンション居住者と管理組合の視点に立った実務情報を提供する専門サイトです。

弁護士平松英樹のマンション管理論

<連載第3回>

債務名義に基づく強制執行について

2012/10/2

今回は、債務名義[注1]に基づく強制執行について、一つの想定事例をもとに検討してみましょう。

<想定事例>

 私たちの管理組合は、管理費等滞納者に対し、滞納金の支払を求める訴訟を提起し、認容判決を得ました。しかしながら、相手方(滞納者)は滞納金を支払いません。
 滞納者(個人)についての情報(前提条件)は次のとおりです。

 1 滞納者所有の当該マンションには抵当権が設定されておら
   ず、不動産登記簿上、他の債権者も見当たらない。
 2 滞納者本人が当該マンションに住んでいるため、同所に家
   財等が存在する。
 3 滞納者は、上記の他にみるべき資産を有していない。

 以上の情報(前提条件)をもとに、当管理組合は、動産執行又は不動産強制競売の申立てを検討中ですが、現実的にどちらが適当なのでしょうか?
また、不動産強制競売の手続は、どのようなスケジュールで進行していくのでしょうか?

原則論

管理費等の支払請求権を表示した判決等のことを債務名義[注1]といいますが、債務名義に基づき強制執行を申し立てようとする場合、理論上、次のような執行が考えられます。

@不動産執行(強制競売、強制管理)
A準不動産(自動車等)執行
B動産執行
C債権及びその他の財産権の執行

前提条件についての検討

想定事例の前提条件について検討してみましょう。

前提条件1

滞納者所有の当該マンションには抵当権が設定されておらず、不動産登記簿上、他の債権者も見当たらない。


当該マンション(不動産)に対する強制執行が奏功する可能性は高い。

前提条件2

滞納者本人が当該マンションに住んでいるため、同所に家財等が存在する。


理論上は、動産執行も考えられる。

前提条件3

滞納者は、上記の他にみるべき資産を有していない。


準不動産(自動車等)執行、債権執行及びその他の財産権の執行については難しい。

現実論(想定事例における強制執行)について

(1)手続選択

想定事例についてみると、一応、当該マンション(不動産)に対する執行や家財等の動産に対する執行が考えられます。

ただし、動産執行を申し立てたとしても、民事執行法131条[注2]所定の差押禁止動産に該当したり、その他、「換価の見込みのある動産は存在しない」と判断されたりして、結局、動産執行は不奏功に終わる可能性が高いでしょう。

したがって、結論としては、不動産強制執行申立が適当ということになるでしょう。

ちなみに、債務名義に基づく動産執行が執行不能に終わったような場合、その債務名義を還付してもらい改めて不動産強制執行を申し立てることも可能ですが、そのようなことは迂遠でしょう。

(2)不動産強制競売の進行スケジュール

債務名義に基づく不動産強制競売申立後の進行スケジュールは、まさにケースバイケースです。

例えば、抵当権者等の優先債権者は存在せず、売却等もスムースに進み、売却代金で債権者の債権及び執行費用全部を弁済できるようなケースをもとに、あえてスケジュールを想定してみると次のようになります。

ご参考まで。

≪不動産強制競売手続の進行スケジュール例≫

平成24年4月  不動産強制競売申立
同   年4月  強制競売開始決定
同   年7月  売却実施処分
同   年7月  入札・開札等の公告
同   年8月  物件明細書等の3点セットの備置き
同   年9月  期間入札
同   年9月  開札期日
同   年9月  売却許可決定
同   年10月 売却代金納付・所有権移転
同   年11月 弁済金交付日の通知(計算書提出の催告)
同   年11月 債権計算書提出
同   年11月 弁済金交付日

(弁護士/平松英樹)



バナースペース

注釈 NOTE

注1: 債務名義とは、強制執行によって実現されることが予定される請求権の存在,範囲,債権者,債務者を表示した公の文書のことで、民事執行法22条にその定めがあります。

条文引用はここをクリック!

注2: 民事執行法131条では、差し押さえてはならない動産を掲げ、差押禁止動産を定めています。

条文引用はここをクリック!

筆者紹介 PROFILE

平松英樹(ひらまつ・ひでき)

弁護士、マンション管理士。1968年(昭和43年)生まれ、1991年(平成3年)年早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1丁目14番5号土屋ビル4階)、首都圏マンション管理士会などに所属。マンション管理、不動産取引・賃貸借(借地借家)問題を中心とした不動産法務を専門とし、マンション管理、不動産販売・賃貸管理、建築請負会社等の顧問先に対するリーガルサービスに定評がある。実務担当者を対象とする講演、執筆等の実績多数。著書に『わかりやすいマンション管理組合・管理会社のためのマンション標準管理規約改正の概要とポイント』(住宅新報社)ほか。