<連載第9回>
土地工作物責任とは?
2013/1/15
今回は、皆様よくご存知の土地工作物責任について確認しておきましょう。
まず、民法には次のような規定があります。
<民法709条> (不法行為による損害賠償) 第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。 |
<民法717条> (土地の工作物等の占有者及び所有者の責任) 第717条 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。 2 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。 3 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。 |
ここでは、次の設例をもとに、具体的に検討してみましょう。
(設例) Xさんの部屋(専有部分)の上階にはYさんの部屋(専有部分)が存在している。 地震の発生によって、もともと経年劣化していたYさんの部屋(専有部分)の配水管に亀裂が生じ、その亀裂から漏れた水がXさんの部屋(専有部分)の天井や壁にまで及んだ。 そのため、Xさんは、被害部分(天井や壁)の工事費用の負担を余儀なくされた。 |
誰から、誰に対する、どのような請求?
上記設例において、Xさんは、その所有する部屋(天井・壁)に被害を受けています。
その被害は、Yさんの専有部分配水管からの漏水によるものです。
漏水の結果、Xさんは、その被害部分の工事費用を余儀なく負担しています。
そこで、Xさんは、Yさんに対し、負担した工事費用相当額の金銭の支払いを請求したいと考えるでしょう。
法律上の根拠は?
さて、上記請求の法的根拠ですが、通常は民法717条ということになります。
すなわち、民法709条を根拠とする場合には加害者の「故意又は過失」が要件となるのに対し、民法717条を根拠とする場合には所有者の故意や過失は要件とならないので、Xさんの立場としては、通常、民法717条を根拠として請求することになります。
「土地の工作物」とは?
民法717条の「土地の工作物」とは「土地に接着して人工的作業をなしたるによりて成立せるもの」をいいます。
建物や塀はもちろん、エレベーターのように建物の一部をなしているものも「土地の工作物」といえます。
さらに、民法717条の「土地の工作物」については拡張して解釈されています。例えば、(その妥当性はさておき)マンション管理業界では有名な裁判例として、「消火器」が土地の工作物にあたると判断されたもの(大阪地裁平成6年8月19日判決)もあります。
[注]
したがって、上記設例の配水管が「土地の工作物」にあたることは否定できないでしょう。
「瑕疵」とは?
民法717条の「瑕疵」とは、工作物が通常備えているべき安全性を欠如していることをいいます。
したがって、配水管が経年劣化し、通常備えるべき安全性を欠如していたということであれば、建物の保存に「瑕疵」があったといえるでしょう。
ちなみに、Yさん(所有者)は、仮に無過失であったとしても免責されません。所有者の土地工作物責任は無過失責任といわれています。
他方、占有者に過ぎない人は、「損害の発生を防止するのに必要な注意をしたとき」は免責されることになります。
「損害を賠償」とは?
上記(Yさんの)責任が否定できないとすれば、Yさんは、Xさんに損害を賠償しなければなりません。つまり、Yさんは、Xさんが受けた損害を金額に算定し、その金銭を支払わなければなりません。
自然力(地震)との競合について
例外的ですが、損害賠償額の算定に当たっては、損害の公平な分担という損害賠償制度の趣旨に照らし、地震の損害発生への寄与度が斟酌されることもあり得ます。
特殊な例ですが、建物の設置の瑕疵があり、阪神・淡路大震災の際に建物(マンション)一階部分が潰れて倒壊し、死亡事故等が発生した事案の裁判例(神戸地裁平成11年9月20日判決)においては、次のように判示されています。
<神戸地裁平成11年9月20日判決(一部抜粋)> ただ、本件のように建物の設置の瑕疵と想定外の自然力とが競合して損害発生の原因となっている場合には、損害の公平な分担という損害賠償制度の趣旨からすれば、損害賠償額の算定に当たって、右自然力の損害発生への寄与度を割合的に斟酌するのが相当である。そして、右地震の損害発生への寄与度は、前記認定判断にかかる本件建物の設置の瑕疵の内容・程度及び本件地震の規模・被害状況等からすると五割と認めるのが相当である。 |
もちろん、この裁判例(神戸地裁平成11年9月20日判決)と本件設例とでは、前提となる事実が異なりますので注意してください。
(弁護士/平松英樹)