<連載第10回>
相続人が存在しない?
2013/1/29
今回は、区分所有者が死亡し管理費等滞納が発生しているケースを例に、相続人の存否に関するよくある誤解をご紹介しましょう。
以下の事実関係をもとに検討していきましょう。
なお、以下の事実1乃至4は、一つの事案として繋がっています。
<事実1> 1年前に、区分所有者Aさんが亡くなった。 その部屋の登記名義はAさんのままであり、かつ、抵当権等の登記は一切存在しない。 管理組合で調査した結果、Aさんの配偶者は相続放棄していることが判明した。 また、Aさんの子(全員)も相続放棄していることが判明した。 |
よくある誤解1
よく、Aさんの「配偶者」及び「子(全員)」が相続放棄していることをもって「相続人がいない」と早計される方がいますが、Aさんの「子(全員)」が相続放棄しているような場合には、Aさんの直系尊属(Aさんの直系の父母あるいは祖父母など)が「相続人となるべき者」にあたります(民法889条1項1号)[注1]ので、管理組合としては、Aさんの「直系尊属」についても調査確認する必要があります。
仮に、Aさんの「直系尊属」が存在しない場合(直系尊属全員が相続放棄している場合を含む)には、Aさんの「兄弟姉妹」が「相続人となるべき者」ということになります(民法889条1項2号)[注1]。
<事実2> Aさんの両親は、父Bと母Cであるが、父母いずれもAさんより前に亡くなっていた。 Aさんの祖父母等もさらに前に亡くなっていた。 BCを父母とする(Aさんの)兄弟姉妹は、(Aさんを除き)2名であるが、その2名いずれも相続放棄していた。 |
よくある誤解2
Aさんの兄弟姉妹というと、父母の双方(本件ではBC)を同じくする兄弟姉妹のみをイメージされる方がいますが、「父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹」(いわゆる半血兄弟姉妹)も、「相続人となるべき者」にあたります(民法889条1項2号、民法900条4号)[注2]。
そのため、全血兄弟姉妹だけでなく、半血兄弟姉妹の存在についても調査する必要があるのです。具体的にはBさんやCさんの出生時から死亡時までの戸籍等(除籍、改製原戸籍)謄本を確認する必要があるでしょう。
なお、仮に、「父母の一方のみを同じくする」半血兄弟姉妹が存在する場合、その半血兄弟姉妹の法定相続分は全血兄弟姉妹の2分の1ということになります(民法900条4号但書)[注2]。
<事実3> 調査の結果、Aさんの半血兄弟にあたるDさんが存在していた。 Dさんに連絡してみたところ相続放棄はなされていなかった。 その時点で、Aさん死亡後1年超が経過している。 |
よくある誤解3
よく、相続放棄ができる期間は「三箇月」であるから、もはやDさんは相続放棄できないと考える方がいます。
しかし、そもそも、相続人は「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月内」は相続放棄の申述が可能なのです(民法915条)[注3]。
つまり、重要なのは、Aさん死亡後の経過期間ではなく、Dさんが「自己のために相続の開始があったことを知った時」ということになります(最高裁昭和59年4月27日判決参照)[注4]。
<事実4> 各種調査や確認作業の結果、上記Dさんも含め、相続人となるべき者全員が相続放棄した。 |
よくある誤解4
上記事実4をもって、(民法239条2項を根拠に)本件マンションは「国庫に帰属」したと誤解される方がいます[注5]。
しかし、まず、「相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人」となるのです(民法951条)[注6]。
つまり、上記事実4をもって自動的に本件マンションが国庫に帰属するようなことはありません。
ただ、民法951条により当然に相続財産は「法人」になるとしても、その「法人」の代表者ないし代理人が存在しない以上、相続財産の管理清算手続を進めることができません。
そこで、利害関係人(本件の管理組合等)は、相続財産管理人の選任を申し立てることが可能です(民法952条)[注7]。
そして、家庭裁判所によって選任された相続財産管理人によって、相続財産の清算手続が進められていくのです。
ちなみに、抵当権等が存在しない本件マンションの場合、通常は相続財産管理人により(裁判所の許可を得て)任意売却の方法で処理(換価)されることになるでしょう。
本件マンションが売却された場合(不動産競売による売却を含む)、当然ながら本件マンションが「国庫に帰属」することはありません。
(弁護士/平松英樹)