本文へスキップ

マンション管理オンラインはマンション居住者と管理組合の視点に立った実務情報を提供する専門サイトです。

弁護士平松英樹のマンション管理論

<連載第13回>

自力救済禁止の原則?

2013/3/12

今回は、「自力救済」について考えてみましょう。

自力救済とは?

まず「自力救済」とは何でしょうか?

法律上、明確な定義規定はありません。

一般的には、「法的手続によらないで私力の行使(実力行使)をもって自己の権利を実現すること」をいいます。

後掲の最高裁昭和40年12月7日判決では、「私力の行使は、原則として法の禁止するところである」と判示されていますが、そこでいう「私力の行使」は「自力救済」と同趣旨です。

裁判例でも「自力救済」という言葉が使われることもあります(東京地裁平成22年10月15日判決参照)[注1]。

自力救済禁止の原則

ご承知のように、権利を有していることとその権利を実現することとは別です。

法的手続に置き換えて考えると、まず、権利の存否や内容を確定するための手続として民事訴訟手続があります。そして、権利を実現するための手続として民事執行手続があります。

判決によって権利の存否・内容が確定したとしても、その権利が実現されないことは当然あります。

そのようなときには、民事執行手続によって権利実現を図ることになります。法的手続によって権利実現を図ることが法制度の原則です。

もちろん、自力救済が例外的に許されることもありますが、それはあくまで例外です。
この点に関し、最高裁昭和40年12月7日判決は次のように判示しています。

<最高裁昭和40年12月7日判決より>

私力の行使は、原則として法の禁止するところであるが、法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許されるものと解することを妨げない。

マンション管理実務における注意点

管理組合は、限られた管理費等収入の中で運営されています。管理組合として「法的手続にお金をかけたくない」と考えるのは当然といえるでしょう。

しかしながら、自力救済は原則として禁止されている、ということを肝に銘じておかなければなりません。

万一、マンション管理士や管理会社担当者が、管理組合理事長等から自力救済の実行依頼(指示)を受けた場合、易々と請けてはいけません。

仮に、管理組合理事長等と一緒に自力救済(実力行使)に及んだ場合には、共同不法行為(民法709条、719条、715条)[注2]に基づく責任(不真正連帯債務としての損害賠償債務)を負うこともあります。

参考として、電気料金等滞納者の専有部分への電力供給停止措置に及んだ管理組合ら(管理組合、当時の理事長及びビル管理業者の3名)が共同不法行為に基づく責任を負うことになった事案(東京地裁平成21年5月28日判決)を紹介しておきましょう。

参考裁判例(東京地裁平成21年5月28日判決)

(事案の概要)
当該マンションでは、電力会社から供給された電力は、同マンション内の電気室で変圧・分配されて、共用部分や各専有部分へ配電される仕組みとなっていました。管理組合としては電力会社にマンション全体の電気料金を一括して支払いますので、電気料金を支払わない区分所有者の分も立替払いしていることになります。そのような事情のもとで、電気料金を長期滞納している区分所有者の専有部分への電力停止措置を管理組合理事会で決議し、それに基づき当時の理事長、ビル管理業者の代表取締役及びその従業員(管理員)が立ち会って、具体的に送電停止作業を行いました。

この措置に関し、専有部分の所有者及び居住者が原告となって、管理組合、当時の理事長及びビル管理業者の3名を被告とし、共同不法行為を理由に精神的損害の賠償や弁護士費用等の支払を求めました。

この裁判では、電力停止措置の適法性が問題となりました。

当裁判所は次のように判断しています。

 被告らは、電力供給会社と受給者の間のごとく、電気は電気料金が支払われてこそ供給されるものであって、電気料金の支払いがない以上、その供給がなされないのは社会通念上当然のことであるなどと主張するが、本件電力の停止措置が実行された時点においては、被告管理組合の規約や同組合と原告会社との間における合意などにおいて、管理費等の滞納がある場合の電力停止の措置に関する取決めがされた形跡はない。また、被告管理組合と各区分所有者間においては、本件マンション内の電気設備が区分所有者らの共有であるところから、それら設備の管理主体たる被告管理組合が電力会社と電力の供給契約を締結しているに過ぎず、各区分所有者と管理組合との間で電力供給契約が締結されているわけではないのであって、両者は、同時履行の抗弁権またはこれに準ずる履行の拒絶権を生ぜしめる双務契約の当事者のような関係にはない。
 被告らは、原告会社の電力料金の不納付により、他の区分所有者らがその立替えを余儀なくされることをもって、電力停止の正当性の根拠としているが、それは区分所有建物を共有していることから生ずる費用の負担については、すべて同様のことが言い得るのであって、それをもし一般化すれば、管理費等の支払を怠っている区分所有者に対しては、共用部分や専有部分の利用を他の区分所有者または管理組合が自力によって事実上制約掣肘することを是認することとならざるを得なく、このことは一般的に自力救済が禁じられていることからも、また、強行法規と解されている法58条が、厳格な手続を経なくては専有部分の使用を禁止できないとしている法の趣旨からも、原則として違法であると言わざるを得ない。
 また、自力救済といえども、法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においては、その必要の限度を超えない範囲内で例外的に許される(最三小判昭和40年12月7日民事判例集19・9・2101)が、本件においては、本件和解調書を債務名義とする民事執行法上の強制競売や法7条所定の先取特権に基づく担保権実行の申立、又は法59条に基づく競売請求などの各種法的手続きが可能であり、特に、最後のものはいわゆる無剰余取消制度の適用のないものと解されているのであって(東京高裁決定平成16年5月20日、判タ1210号170頁)、いずれにせよ本件には自力救済が許される特別の事情がないと判断されるのであって、この点に関する被告らの主張には理由がないと言わざるを得ない。

さいごに

上記裁判例において、管理組合ら(3名)は、専有部分居住者に対して約11万円の損害賠償、専有部分区分所有者に対して約5万5000円の損害賠償の支払(不真正連帯債務)を命じられました。

判決の結果(損害賠償の額)の話をすると、管理組合理事長の中には、「損害賠償の額は小さいので、費用対効果の観点からは、自力救済した方が効率的ではないか?」とおっしゃる方がいます。

マンション管理士や管理会社担当者は、このような理事長の質問(主張)に対する回答(反論)も当然準備しておく必要があります。

(弁護士/平松英樹)



バナースペース

注釈 NOTE

注1: 「自力救済」という言葉が使われている裁判例として、次の判決が挙げられる。
 <東京地裁平成22年10月15日判決>
 本件賃貸借契約には、「乙(賃借人を意味する。)が無断不在1か月以上に及ぶ時は敷金の有無にかかわらず、本契約は当然解除され、甲(賃貸人を意味する。)は立会の基に随意室内遺留品を任意の場所に保管し、又は売却処分の上債務に充当するも異議なき事」(10条)との約定がある(乙1)。
 しかし、自力救済は、原則として法の禁止するところであって、法律の定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許されるにとどまる(最三小判昭和40年12月7日・民集19巻9号2101頁)。本件賃貸借契約に上記のごとき条項があるからといって、自力救済が直ちに適法となるものではない。

注2: 民法709条、719条、715条については、次の条文を参照。
 (不法行為による損害賠償)
第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
 (共同不法行為者の責任)
第719条 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
2 行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。
 (使用者等の責任)
第715条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

筆者紹介 PROFILE

平松英樹(ひらまつ・ひでき)

弁護士、マンション管理士。1968年(昭和43年)生まれ、1991年(平成3年)年早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1丁目14番5号土屋ビル4階)、首都圏マンション管理士会などに所属。マンション管理、不動産取引・賃貸借(借地借家)問題を中心とした不動産法務を専門とし、マンション管理、不動産販売・賃貸管理、建築請負会社等の顧問先に対するリーガルサービスに定評がある。実務担当者を対象とする講演、執筆等の実績多数。著書に『わかりやすいマンション管理組合・管理会社のためのマンション標準管理規約改正の概要とポイント』(住宅新報社)ほか。