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弁護士平松英樹のマンション管理論

<連載第14回>

駐車場使用料と区分所有法8条との関係

2013/3/26

今回は、駐車場使用料と区分所有法8条との関係、具体的には、「駐車場使用料は、区分所有法8条の債権として特定承継人に請求できるか?」という問題について検討してみましょう。

区分所有法の確認

まず、区分所有法8条には次のように定められています。

<区分所有法8条(特定承継人の責任)>

前条第一項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。

区分所有法8条は、「前条第一項に規定する債権」と定められていますので、区分所有法7条1項を確認する必要があります。

区分所有法7条1項には次のように定められています。

<区分所有法7条1項>

区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする。

ちなみに、昭和58年改正(昭和58年5月21日法律第51号)で上記のように改正されましたが、それ以前すなわち昭和37年4月4日法律第69号(旧区分所有法)のもとでは、上記に相当する条項(旧区分所有法第6条1項)は次のようなものでした。

<旧区分所有法6条1項>

区分所有者は、共用部分又は建物の敷地につき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び専有部分を所有するための建物の敷地に関する権利を含む。)及び建物に備えつけた動産の上に先取特権を有する。

旧区分所有法6条1項の解釈はさて措き、現行区分所有法7条1項の解釈上、一般的に規約で定められている管理費・修繕積立金及びこれに対する遅延損害金については、「規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権」に該当すると言えます。

まれに管理費等に対する「遅延損害金」については区分所有法8条に定める「債権」に含まれないと主張される方がいますが、条文(区分所有法7条1項)を素直に読む限り、そのような解釈には無理があります。

駐車場使用料について

では、「駐車場使用料」については、区分所有法8条に定める「債権」に当たらないのでしょうか?

この点、「バルコニー使用料」や「専用庭使用料」のように専有部分に付従する部分の使用料については、「規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権」として区分所有法8条の債権に当たると解し、他方、専有部分に付従しない部分の使用料、例えば別途駐車場使用契約を締結することによって発生する「駐車場使用料」については、「規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権」に該当せず区分所有法8条の債権に当たらないと解する見解があります。

ここでは、私見を抜きにして、駐車場使用料も区分所有法8条の「債権」に当たると判断した裁判例(東京地裁平成20年11月27日判決)を紹介しておきましょう。マンション管理組合(原告)が、(以前の)区分所有者が滞納していた駐車場賃料や駐輪場賃料等を、特定承継人に請求した事案です。[

さいごに

例えば、マンション標準管理規約(単棟型)は、第25条、第26条及び第29条で次のように定めています。

(管理費等)
第25条 区分所有者は、敷地及び共用部分等の管理に要する経費に充てるため、次の費用(以下「管理費等」という。)を管理組合に納入しなければならない。
 一 管理費
 二 修繕積立金
2 管理費等の額については、各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出するものとする。

(承継人に対する債権の行使)
第26条 管理組合が管理費等について有する債権は、区分所有者の包括承継人及び特定承継人に対しても行うことができる。

(使用料)
第29条 駐車場使用料その他の敷地及び共用部分等に係る使用料(以下「使用料」という。)は、それらの管理に要する費用に充てるほか、修繕積立金として積み立てる。

仮に、特定承継人に対する駐車場使用料等の債権行使について積極的立場を取ろうとすれば、上記条文の位置付けや上記第26条に定める「管理費等」の意義の点から疑問が生じてしまいますので、その点を意識し、必要に応じた工夫が必要でしょう。

(弁護士/平松英樹)



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注釈 NOTE

注: 参考裁判例(東京地裁平成20年11月27日判決)の判断の要旨は次のとおり。

 (本件滞納賃料は区分所有法8条所定の「債権」に当たるか)
 (1)原告は、本件マンションの区分所有者全員で構成される管理組合であって、法人格は取得していないものの、各区分所有者が議決権を有する総会が定期的に開催されるとともに、理事長、副理事長、理事及び監事等の役員が総会で選任されて管理組合の業務を遂行することになっており、社団としての実質を備えていることからすると、原告は権利能力なき社団とみることができ、原告が有する債権は原告の構成員である区分所有者全員が総有しているものと解される。
 (2)また、本件規約には、本件マンションの共用部分より発生する使用料は管理組合に帰属し、その使用料は管理に要する費用に充当されること(本件規約30条)、本件駐車場及び本件駐輪場がいずれも本件マンションの共用部分に含まれ、原告が区分所有者に対し、本件駐車場については別途契約により、本件駐輪場については区分所有権存続中もしくは別途契約により、それぞれ専用使用権を設定できること(本件規約8条、14条1項、別表第2、第4)、本件駐車場の賃料額が1台に付き月額2万円であること(別表第4)、本件駐輪場の賃料額が1台に付き月額100円であること(同)、本件駐車場及び本件駐輪場の賃料支払方法は毎月末日に翌月分を一括払であって、同期限を過ぎるとその翌日から支払済みまで年18%の遅延損害金が加算されること(本件規約59条1、2項)がそれぞれ定められているところ、これらはいずれも「共用部分の管理に関する事項」(区分所有法18条1項)に当たり、規約で定めることができる事項であるから(同条2項)、本件規約上の上記各事項の定めは区分所有者及び特定承継人に対して効力を有することになる(同法46条1項)。
 (3)そして、前提事実によれば、本件区分所有建物の所有者であったA(前区分所有者)は、原告から本件駐車場を賃料月額2万円で、本件駐輪場を賃料月額100円でそれぞれ賃借したものの、平成17年12月分から平成18年4月分までの本件駐車場の賃料合計10万円及び平成17年10月分から平成18年4月分までと同年10月分の本件駐輪場の賃料合計800円を滞納したことが認められる。
 (4)以上によれば、原告がA(前区分所有者)に対して有する本件滞納賃料の債権は、これに対する遅延損害金も含めて、本件規約に基づき原告の構成員である区分所有者全員が総有していることになるから、区分所有法7条1項所定の区分所有者が規約に基づき他の区分所有者に対して有する債権に当たるというべきであって、同法8条の「前条第1項に規定する債権」に該当すると解される。
 したがって、原告は、本件滞納賃料の債権を、その債務者たるA(前区分所有者)ばかりでなく、その特定承継人に対しても行使することができる。

筆者紹介 PROFILE

平松英樹(ひらまつ・ひでき)

弁護士、マンション管理士。1968年(昭和43年)生まれ、1991年(平成3年)年早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1丁目14番5号土屋ビル4階)、首都圏マンション管理士会などに所属。マンション管理、不動産取引・賃貸借(借地借家)問題を中心とした不動産法務を専門とし、マンション管理、不動産販売・賃貸管理、建築請負会社等の顧問先に対するリーガルサービスに定評がある。実務担当者を対象とする講演、執筆等の実績多数。著書に『わかりやすいマンション管理組合・管理会社のためのマンション標準管理規約改正の概要とポイント』(住宅新報社)ほか。