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弁護士平松英樹のマンション管理論

<連載第15回>

相続人(包括承継人)の債務と
特定承継人の債務の異同

2013/4/9

前回は、「駐車場使用料と区分所有法8条との関係」について述べました。今回は、前区分所有者の滞納管理費等について、相続人(包括承継人)が負う債務と特定承継人が負う債務にどのような違いが生じるのか検討してみましょう。

最初に基本事項(「相続人の責任の根拠」と「特定承継人の責任の根拠」)を確認し、その次に、以下の4つのパターンの設例をもとに検討していきましょう。

パターン1 区分所有権の取得原因・・・相続
      承継人(相続人)・・・1名

パターン2 区分所有権の取得原因・・・売買
      承継人(買主)・・・1名

パターン3 区分所有権の取得原因・・・相続
      承継人(相続人)・・・2名(相続分は各自「2分の1」)

パターン4 区分所有権の取得原因・・・売買
      承継人(買主)・・・2名(共有持分は各自「2分の1」)

相続人の責任の根拠

区分所有者が死亡した場合には相続が開始し(民法882条)[注1]、相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継することになります(民法896条)[注2]。なお、相続に関しては民法第五編に定められています。

つまり、相続人は、民法の規定に基づき、被相続人(前区分所有者)の債務を承継することになります。

特定承継人の責任の根拠

特定承継人が前区分所有者の債務を負担する根拠は、前回(第14回)も述べたとおり区分所有法8条[注3]ということになります。

東京高裁平成17年3月30日判決の表現を借りれば、区分所有法8条は、「集合建物を円滑に継持管理するため、他の区分所有者又は管理者が当該区分所有者に対して有する債権の効力を強化する趣旨から、本来の債務者たる当該区分所有者に加えて、特定承継人に対して重畳的な債務引受人としての義務を法定したものであり、債務者たる当該区分所有者の債務とその特定承継人の債務とは不真正連帯債務の関係にあるものと解される」ということになります。そして、特定承継人が、前区分所有者の滞納金を弁済した場合、特定承継人は、その弁済額を当該前区分所有者に求償できるということになります。

パターン1(設例)

区分所有者Aが管理費等を滞納したまま死亡して相続が開始し、相続人はBのみである場合、Bは、民法の規定に基づき、相続人(包括承継人)として被相続人(前区分所有者)Aの債務を承継することになります。
この場合、区分所有法8条は関係ありません。また、BからAに対する求償も考えられません。

パターン2(設例)

区分所有者Aが管理費等を滞納したまま当該部屋をBに売却した場合、Bは、区分所有法8条に基づく特定承継人の責任として、前区分所有者Aの滞納管理費等の支払義務を負うことになります。もちろんAも債務を負っており、AとBの債務は不真正連帯債務の関係にあります。仮に特定承継人Bが(管理組合に対して)Aの滞納分を弁済した場合、Bは、その弁済額をAに対して求償できるということになります。

パターン3(設例)

区分所有者Aが管理費等を滞納したまま死亡して相続が開始し、相続人はB及びCの2名(相続分は各自「2分の1」)である場合、どのように考えるべきでしょうか?

相続開始までの滞納管理費等と、相続開始以降の管理費等に分けて考えてみましょう。

相続開始までの滞納管理費等については、相続人(包括承継人)の相続債務の問題となります。つまり民法に基づく相続債務の承継の問題です。
そうすると、一般的には「債務者が死亡し、相続人が数人ある場合に、被相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するもの」(最高裁昭和34年6月19日判決)と解されていますので、相続開始までの滞納管理費等は、B及びCがその相続分に応じて(本設例では各自「2分の1」の)金銭支払債務を負うことになるのでしょう。但し、後記パターン4との関係上、疑問も生じるところです。

なお、相続開始以降の管理費等については、B及びCが区分所有者(共有者)として、その支払義務を負います。

具体的には、相続開始以降の管理費等支払債務は、性質上の不可分債務として、区分所有権を共有するB及びCが各自全額の支払義務を負うことになります(東京高裁平成20年5月28日判決参照)[注4]。

パターン4(設例)

区分所有者Aが管理費等を滞納したまま、その所有する部屋をB及びCの2名(各自の持分割合は「2分の1」)に売却した場合、どのように考えるべきでしょうか?

売買までの滞納管理費等と、売買以降の管理費等に分けて考えてみましょう。

まず、売買までの滞納管理費等については、区分所有法8条に基づく特定承継人の責任の問題となります。

ここで問題となるのは、パターン3の場合と同様に分割された債務となるのか、それとも(パターン3とは異なり)分割されない債務であるのか、ということです。

この問題について、実務上は(パターン3とは異なり)分割されない債務として処理されているようです。

この点、B及びCの取得原因(相続か売買か)によって結論(B及びCの債務)を異にするのは不合理なようにも思われます。

しかし、相続に基づく相続人(B及びC)の責任は、BやCの意思とは無関係の相続を原因とした債務承継の問題であり、他方、売買に基づく特定承継人(B及びC)の責任は、B及びCの自由な意思に基づく売買を原因とした法定責任(区分所有法8条に基づく責任であり、解釈上は重畳的な債務引受)の問題であることから、相続の場合と売買の場合とで結論を異にしても、あながち不合理とは言えないでしょう。

なお、売買以降の共有者(B及びC)の管理費等支払債務については、パターン3の場合と同様、不可分債務となります(東京高裁平成20年5月28日判決参照)[注4]。

(弁護士/平松英樹)



バナースペース

注釈 NOTE

注1: 民法882条は次のとおり。
(相続開始の原因)
第八百八十二条 相続は、死亡によって開始する。

注2: 民法896条は次のとおり。
(相続の一般的効力)
第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

注3: 区分所有法8条は次のとおり。
(特定承継人の責任)
第八条 前条第一項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。

注4: 東京高裁平成20年5月28日判決(抜粋)は次のとおり。
 ・・・本件の管理費及び修繕積立金のような金銭債務については、これを持分割合で分割し得るので、このような債務を分割債務ととらえるか、不可分債務ととらえるかが問題となる。この点については、区分所有者がマンション共有部分の管理費等の負担を負うのは、専有部分に通じる廊下、階段室等のマンション共有部分が、その有する専有部分の使用収益に不可欠なものであるということに由来するものと考えられるところ、区分所有権を共有する者は、廊下、階段室等のマンション共有部分の維持管理がされることによって共同不可分の利益(専有部分の使用収益が可能になること及びその価値の維持)を得ることができるのである。そうすると、区分所有権を共有する者が負う管理費等の支払債務は、これを性質上の不可分債務ととらえるのが相当である(なお、大審院昭和7年6月8日判決・大審院裁判例6巻179頁、大審院大正11年11月24日判決・民集1巻670頁等参照)。
 控訴人は、管理費等の支払債務が専有部分を一つの単位とする不可分債務であると解すると、専有部分の共有持分を譲り受けた特定承継人は、譲り受けた共有持分の割合を超えた未払債務の履行責任を負わなければならなくなり、不測の損害を被ることになると主張するが、区分所有権を共有する者は、マンション共用部分の管理費等の支払債務を不可分的に負うと解する以上、区分所有権の持分を譲り受けた者が譲り受けた区分所有権の持分割合を超え、専有部分の床面積の割合による負担を負うのはやむを得ないことであり、これをもって上記解釈を左右することはできない(なお、区分所有権の共有者間での求償は可能である。)。

筆者紹介 PROFILE

平松英樹(ひらまつ・ひでき)

弁護士、マンション管理士。1968年(昭和43年)生まれ、1991年(平成3年)年早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1丁目14番5号土屋ビル4階)、首都圏マンション管理士会などに所属。マンション管理、不動産取引・賃貸借(借地借家)問題を中心とした不動産法務を専門とし、マンション管理、不動産販売・賃貸管理、建築請負会社等の顧問先に対するリーガルサービスに定評がある。実務担当者を対象とする講演、執筆等の実績多数。著書に『わかりやすいマンション管理組合・管理会社のためのマンション標準管理規約改正の概要とポイント』(住宅新報社)ほか。