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弁護士平松英樹のマンション管理論

<連載第17回>

給付訴訟における当事者適格について

2013/5/14

はじめに

今回は、給付訴訟における「当事者適格」について考えてみましょう。
次のような事例をもとに検討してみましょう。

<事例>

 区分所有者YはA管理組合の元理事長である。区分所有者Xは、過去のYの行為がA管理組合に損害を与えたと主張し、Yを被告として、「YはXに対し10万円を支払え」という趣旨の損害賠償請求訴訟(給付の訴え)を提起した。

上の事例において、「損害を被ったのはA管理組合であるから、A管理組合が損害賠償請求の当事者であって、A管理組合には原告適格があるが、X個人には原告適格がない。したがって、Xの訴えは却下される。」[注1]とおっしゃる方もいますが、はたして、そういう結論になるのでしょうか?

前提知識1(却下判決と認容判決・棄却判決)

(1)訴えの却下判決

まず、訴え提起には、訴訟要件としての当事者適格(原告適格・被告適格)が必要です。訴訟要件を欠いている場合、請求の当否にかかわりなく、不適法な訴えとして「訴えを却下する」旨の却下判決が下されてしまいます。

(2)請求認容判決・棄却判決

訴訟要件が充足されていれば、請求の当否が審理され、請求に理由があると判断されれば請求認容判決が下され、請求に理由がないと判断されれば請求棄却判決が下されます。

前提知識2(給付の訴え、確認の訴え、形成の訴え)

(1)給付の訴え

上記事例は、給付の訴えです。

給付の訴えとは、原告が、被告に対して、一定の金銭・動産・不動産等の引渡しや特定の作為・不作為を求める訴訟類型です。

具体例としては、金員の支払を求める訴訟や工作物の撤去を求める訴訟があります。

(2)確認の訴え

確認の訴えとは、争いのある権利関係の存否について確認を求める訴訟類型です。

具体例としては、総会決議無効確認請求訴訟があります。仮にこの請求に理由があると判断されれば「・・・の決議が無効であることを確認する」旨の認容判決が下されます。

(3)形成の訴え

形成の訴えとは、判決によって新たな権利関係が作出されることを目的とする訴訟類型です。

具体例としては、区分所有法59条に基づく競売請求訴訟があります。仮にこの請求に理由があると判断されれば「・・・の区分所有権及び敷地利用権について競売を申し立てることができる」旨の認容判決が下されます。

上記事例の検討

給付の訴えにおいては、自らがその給付請求権を有すると主張する者に原告適格があるといえます。

上記事例のXも、自らが10万円の給付請求権を有すると主張している以上、Xに原告適格が認められるはずです。

他の訴訟要件を充たしていれば、当該請求の当否について判断され、請求に理由がないと判断されれば、「原告の請求を棄却する」旨の棄却判決が下されるでしょう(東京地裁平成4年7月29日判決[注2]参照)。

つまり、上記事例において、却下判決とはならないはずです。

原告適格に関する判例(最高裁平成23年2月15日判決)

最高裁平成23年2月15日判決も次のように判示しています。ちなみに、この最高裁判決の原審(東京高裁平成20年12月10日判決)は、当事者適格を否定し、訴えを却下していました。

<最高裁平成23年2月15日判決より一部抜粋>

 原審は、本件マンションの共用部分は区分所有者の共有に属するものであるから、本件各請求は区分所有者においてすべきものであると判断して、上告人の原告適格を否定し、上告人の請求を一部認容した第1審判決を取り消して、本件訴えをいずれも却下した。
 しかしながら、上告人の原告適格を否定した原審の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 給付の訴えにおいては、自らがその給付を請求する権利を有すると主張する者に原告適格があるというべきである。本件各請求は、上告人が、被上告人らに対し、上告人自らが本件各請求に係る工作物の撤去又は金員の支払を求める権利を有すると主張して、その給付を求めるものであり、上告人が、本件各請求に係る訴えについて、原告適格を有することは明らかである。

関連問題(被告適格)

給付の訴えの被告側においても、時々「被告となるべきは自分ではない(他の人である)ので、訴えは却下されるべきだ。」と主張される方がいます。

しかし、このような主張も無理があると言わざるを得ません(最高裁昭和61年7月10日判決[注3]参照)

仮に当該給付請求権の存在が認められないのであれば、その請求は「棄却」されるのであって、訴えが「却下」されるわけではないでしょう。

※この記事は、2013/5/14の公開後、2013/5/30に一部修正しました。

(弁護士/平松英樹)



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注釈 NOTE

注1: 神戸地裁平成7年10月4日判決より抜粋(参考)

主文
 1 本件訴えを却下する。
 2 訴訟費用は原告の負担とする。
理由
 原告らは、管理組合の構成員であるところ、管理組合の理事長は管理組合員から委任ないし代理を受けて組合総会の決議によって定められた業務等の執行をなすものであるから、その任務に背きこれを故意または過失によって履行せず、管理組合に損害を与えるようなことがあったときは、債務不履行となり、右理事長は管理組合に対して損害賠償の責めを負うべきことになる。したがって、管理組合(ないし区分所有者全員)が原告となって右理事長に対して損害賠償を求める訴訟を提起することはできるが、管理組合の構成員各自が同様の訴訟を提起することができるかについては、建物の区分所有等に関する法律上、管理組合の構成員各自がその理事長に対する責任を問うことを認める旨の商法267条のような規定は存しないし、管理組合の構成員各自が民法423条により代位するという原告の構成もその要件を欠くというべきである。そして、建物の区分所有等に関する法律(6条、57条)は、共同利益違反行為の是正を求めるような団体的性格を有する権利については他の区分所有者の全員または管理組合法人が有するものとし、これを訴訟により行使するか否かは、集会の決議によらなければならないとするように、区分所有者の共同の利益を守るためには区分所有者全員が共同で行使すべきものとしているところ、本件のように理事長の業務執行にあたっての落ち度を追及するような訴訟においても団体的性格を有する権利の行使というべきであるから右の法理が適用されるべきであり、一般の民法法理の適用される場面ではないものと解する。
 以上より、本件建物の区分所有者らがその全体の利益を図るために訴訟を追行するには、区分所有者ら全員が訴訟当事者になるか、その中から訴訟追行権を付与された当事者を選定する等すべきことになるところ、そのような手続きを何ら踏んでいない原告らには本件訴訟を追行する権限はない。
・・・以下略・・・

注2: 東京地裁平成4年7月29日判決より抜粋

主文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。 
(中略) 
第三 判断
 1 建物の各区分所有者は、区分所有建物の共用部分の保存行為をすることができるとされているが、右にいう共用部分の保存行為とは、建物の共用部分そのものの現状を維持することをいうと解すべきであるから、区分所有建物の共用部分の改修工事の費用の支払に関し、区分所有建物の管理組合の元理事長がした不法行為に基づいて、建物の共用部分の補修のために積み立てられた組合資産に生じた損害であっても、その賠償を訴求することは、右にいう共用部分の保存行為に当たらないことが明らかである。また、権利能力のない団体の資産について損害を生じた場合、その損害に関する賠償請求権は右団体の全構成員に総有的に帰属するにすぎないから、支払を受ければ直ちに団体に引き渡し組合の損害を填補する目的であったとしても、右団体の各構成員が単独で右損害の賠償を請求することはできないというべきである。
 2 したがって、原告の本訴請求は、不法行為の成否、損害の発生等について判断するまでもなく、理由がないことが明らかである。

注3: 最高裁昭和61年7月10日判決より抜粋

理由
 ・・・本件記録によれば、原審は、本件部屋に対する所有権に基づく本件設備の撤去請求について、被上告人らには本件設備を撤去する権限がないから被告適格を欠く不適法な訴えであるとしてこれを却下したが、給付の訴えにおいては、その訴えを提起する者が給付義務者であると主張している者に被告適格があり、その者が当該給付義務を負担するかどうかは本案請求の当否にかかわる事柄であると解すべきであるから、上告人の右訴えは、適法なものというべきであり、したがってこれを却下した原判決は違法である。

筆者紹介 PROFILE

平松英樹(ひらまつ・ひでき)

弁護士、マンション管理士。1968年(昭和43年)生まれ、1991年(平成3年)年早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1丁目14番5号土屋ビル4階)、首都圏マンション管理士会などに所属。マンション管理、不動産取引・賃貸借(借地借家)問題を中心とした不動産法務を専門とし、マンション管理、不動産販売・賃貸管理、建築請負会社等の顧問先に対するリーガルサービスに定評がある。実務担当者を対象とする講演、執筆等の実績多数。著書に『わかりやすいマンション管理組合・管理会社のためのマンション標準管理規約改正の概要とポイント』(住宅新報社)ほか。