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弁護士平松英樹のマンション管理論

<連載第18回>

区分所有法26条2項・4項について

2013/5/28

今回は、区分所有法26条2項・4項を確認するとともに、いくつかの問題について検討してみましょう。

区分所有法26条2項について

ご承知のように現在の区分所有法26条2項は、平成14年改正(平成14年法律第140号)により、次のように定められています(平成15年6月1日施行)。

<現行の区分所有法26条2項>

 管理者は、その職務に関し、区分所有者を代理する。第18条第4項(第21条において準用する場合を含む。)の規定による損害保険契約に基づく保険金額並びに共用部分等について生じた損害賠償金及び不当利得による返還金の請求及び受領についても、同様とする。

なお、改正前は次のように定められていました。

<平成14年改正前の区分所有法26条2項>

 管理者は、その職務に関し、区分所有者を代理する。第18条第4項(第21条において準用する場合を含む。)の規定による損害保険契約に基づく保険金額の請求及び受領についても、同様とする。

つまり、平成14年改正により、管理者は「共用部分等について生じた損害賠償金及び不当利得による返還金の請求及び受領」についての権限も有することになりました。

区分所有法26条4項について

区分所有法26条4項は、改正前後を通じて次のように定められています。

<区分所有法26条4項>

 管理者は、規約又は集会の決議により、その職務(第2項後段に規定する事項を含む。)に関し、区分所有者のために、原告又は被告となることができる。

つまり、現行法のもとで、管理者は、「共用部分等について生じた損害賠償金」等の請求等に関しても「区分所有者のために、原告又は被告になること」が可能です。

マンションの瑕疵に関する問題

(1)改正前は?

平成14年改正前においては、共用部分に瑕疵がある場合の損害賠償金の請求等は管理者の権限に含まれておらず、管理者が訴訟追行することも認められていませんでした。

民法の考え方からすれば、例えば共用部分の瑕疵に基づく損害賠償請求権は、当該共用部分の共有者である各区分所有者に可分的に帰属するもの(各区分所有者にその共有持分割合に従って分割して帰属するもの)と解されているからです(東京高裁平成8年12月26日判決[注1]参照)。

(2)改正後の結論

平成14年改正により、この点の不都合性が一応解消されたと言えるでしょう。

例えば、マンション分譲当初から共用部分に瑕疵があるような場合、管理者は、区分所有法26条2項・4項に基づいて、マンションの売主(分譲業者)に対し、損害賠償金の請求(民法570条・566条)ができるようになりました。

(3)補足

上記(2)は、あくまでも共用部分についての話です。専有部分については別です。

区分所有法26条2項は、「共用部分等について生じた損害賠償金及び不当利得による返還金の請求及び受領」を定めているに過ぎません。

ここでいう「共用部分等」とは、「共用部分並びに第21条に規定する場合における当該建物の敷地及び付属施設」(区分所有法26条1項[注2])をいい、専有部分は含まれません。

近隣からの騒音に関する問題

(1)結論

例えば、隣地のマンションの工事騒音によって、こちらのマンションの多くの住人が精神的苦痛を受けているというようなケースを考えてみましょう。

この場合、騒音による損害は、住人(各人)に生じているものであって、「共用部分等」に生じているものではありません。

したがって、この場合の損害賠償請求等に関しては、管理者の権限に含まれず、管理者は区分所有法26条4項に基づく訴訟追行もできません。

(2)補足

上記(1)は、マンション外部の第三者との関係の話です。マンション内部(住人)の騒音問題については別です。

例えば、マンション内部の住人の騒音行為が「共同の利益に反する行為」(区分所有法6条1項参照)といえるような場合、「義務違反者に対する措置」(区分所有法第7節参照)として、管理者が差止請求等を行うことは可能です。

近隣の高層建物建築による日照被害に関する問題

(1)結論

例えば、隣地に高層建物が建築されることになり、それにより、こちらのマンションの日照に影響があるというケースを考えてみましょう。

この場合の被侵害権利・利益となる日照権はいわゆる人格権であって、「共用部分等」についてのものではありません。

つまり、日照権侵害に基づく損害賠償請求権等は、「共用部分等について生じた」とはいえず、管理者の権限に含まれません。

したがって、管理者は、区分所有法26条4項に基づく訴訟追行もできません。

(2)補足

日照権が区分所有法3条の団体(いわゆる管理組合)に帰属すると解することも困難でしょう。

第三者の不法行為によるマンション共用部分の損傷等に
   関する問題

(1)結論

例えば、隣地の建物建築工事の不手際で、こちらのマンションの外壁等が損傷したようなケースを考えてみましょう。

この場合は、「共用部分等について生じた損害賠償」の問題といえます。

したがって、こちら側のマンションの管理者は、区分所有者を代理して損害賠償金を請求・受領する権限を有し、「規約又は集会の決議により・・・原告又は被告となる」ことができます(区分所有法26条4項)。

(2)補足

例えばマンション標準管理規約(単棟型)第67条3項2号の規定は、区分所有法26条4項でいうところの「規約」に該当しますので、このような規約があるマンション(管理組合)では、理事長が理事会の決議を経て訴訟追行することも可能と考えられています。

ただし、筆者としては、仮にこのような規約があったとしても、「集会(総会)の決議」を経て、「管理者」として訴訟追行することをおすすめします。その理由については、別の機会に述べたいと思います。

(弁護士/平松英樹)



バナースペース

注釈 NOTE

注1: 東京高裁平成8年12月26日判決(当裁判所の判断より抜粋、下線等は筆者による)

 本件訴えは、マンションの区分所有者全員によって構成された管理組合である控訴人を原告とし、本件建物を建築した被控訴人●●建設及び本件建物の区分所有部分を販売した被控訴人●●不動産を被告として、控訴人が被控訴人らに対し、被控訴人らの行為によって本件建物の共用部分に瑕疵が生じ、その補修に要する費用相当額の損害を受けたとして不法行為による損害賠償を請求するものである。
 原判決は、建物の区分所有等に関する法律26条4項により本件について当事者適格を有する旨の控訴人の主張を斥けて、本件訴えを却下しているので検討するに、同法26条4項の規定により訴訟担当が許されるのは、同法の規定する管理者に限られるから、管理組合である控訴人がその名において同法26条4項の管理者の権限を行使することが許されないことは、原判決第三、二に説示のとおりである(なお、本件損害賠償請求権を行使することが管理者の権限に属しないことも、右説示のとおりである。)。
 しかし、控訴人は、本件損害賠償請求権は控訴人の組合員である区分所有者全員に総有的に帰属するとも主張しているところ、本件訴訟において権利能力なき社団である控訴人(控訴人が権利能力なき社団として当事者能力を有することは、原判決第三、一に説示のとおりである。ただし、原判決書五枚目表七行目の「現に、平成六年四月に」を削る。)が自ら原告となるのが相当かどうかは、控訴人の主張する本件損害賠償請求権が控訴人の組合員である区分所有者全員に総有的に帰属するかどうかという本件訴訟における本案の問題にほかならず、本件訴訟において、控訴人は本件損害賠償請求権は控訴人の組合員である区分所有者全員に総有的に帰属すると主張しているのであるから、その主張に理由があるか否かにかかわらず、控訴人には本件訴訟の当事者適格はあるというべきであり、ただ控訴人の右主張が理由のない場合には、控訴人の請求は棄却すべきものということになるというべきである。
 控訴人の主張は、被控訴人らの行為により、本件建物の共用部分にひび割れ等の瑕疵が生じたことによる損害の賠償を求めるというにあるから、本件損害賠償請求権は、本件建物の共用部分の共有者である各区分所有者に帰属するのであり、しかも、右損害賠償請求権は可分債権であるから、各区分所有者にその共有持分割合に従って分割して帰属するものと解するのが相当であって、本件損害賠償請求権が控訴人の組合員である区分所有者全員に総有的に帰属する旨の控訴人の前記主張は採用し難い。したがって、控訴人の請求は理由がなく、棄却すべきものである。
 原判決は、本件損害賠償請求権が控訴人の組合員である区分所有者全員に総有的に帰属する旨の控訴人の前記主張は理由がない旨をその理由中で説示しているところ、本件のように第一審裁判所が、その判決理由中において説示した理由からすると請求棄却の判決をすべきであったにもかかわらず、訴えを却下する判決をした場合には、第一審裁判所において控訴人の請求について実質的な審理判断をしているものというべきであって、事件を第一審裁判所に差し戻さなくても当事者の審級の利益を失わせることはないから、控訴審裁判所において自ら直接請求の当否について判断をすることができると解するのが相当である(最高裁判所昭和57年(オ)第1394号昭和58年3月31日第一小法廷判決参照)。

注2: 区分所有法26条1項

 管理者は、共用部分並びに第21条に規定する場合における当該建物の敷地及び附属施設(次項及び第47条第6項において「共用部分等」という。)を保存し、集会の決議を実行し、並びに規約で定めた行為をする権利を有し、義務を負う。

筆者紹介 PROFILE

平松英樹(ひらまつ・ひでき)

弁護士、マンション管理士。1968年(昭和43年)生まれ、1991年(平成3年)年早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1丁目14番5号土屋ビル4階)、首都圏マンション管理士会などに所属。マンション管理、不動産取引・賃貸借(借地借家)問題を中心とした不動産法務を専門とし、マンション管理、不動産販売・賃貸管理、建築請負会社等の顧問先に対するリーガルサービスに定評がある。実務担当者を対象とする講演、執筆等の実績多数。著書に『わかりやすいマンション管理組合・管理会社のためのマンション標準管理規約改正の概要とポイント』(住宅新報社)ほか。