<連載第19回>
管理費滞納問題に対する法的手続について
2013/6/11
はじめに
一般に、管理費滞納問題に対しては下記のような手続が考えられます[注1]。
今回は、民事訴訟法に定められている下記1乃至3の手続について、債権者(管理組合)側からみたときの利点と欠点を検討してみましょう。
1 支払督促
2 少額訴訟
3 通常訴訟
4 先取特権の実行
5 強制執行
6 区分所有権の競売請求
・上記4の「先取特権」は区分所有法7条に定められていますが、その実行の手続は民事執行法の規定に基づきます。
・上記5の強制執行手続についても民事執行法の規定に基づきます。
・上記6の競売請求の実体法上の根拠は区分所有法59条になります。「判決」を得るための手続は通常訴訟ということになり、確定判決に基づく「競売の申立て」手続は民事執行法の規定によることになります。
支払督促について
(1)支払督促とは
債権者が、金銭の支払等を求めて相手方(債務者)の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に申し立てて支払督促を発してもらう手続です(民事訴訟法382条[注2]以下参照)。
債務者から2週間以内に異議の申立てがなければ、債権者は仮執行宣言の申立てを行って、仮執行宣言付支払督促(=債務名義[注3])を得ることができます。この債務名義に基づいて強制執行が可能となります。
(2)利点
@請求の価額に関わらず申し立てることができます。
A書面のみの審査で発付されるため、裁判所に出頭する必要がありません。
B申立書に貼付する収入印紙代が、通常訴訟の場合の半分で済みます。ただし、債務者の異議申立てにより通常訴訟手続に移行した場合には、不足分を追納しなければなりません。
(3)欠点
@支払督促正本の送達については公示送達ができません。つまり、当初から相手方(債務者)が行方不明である場合、支払督促の申立ては却下されてしまいます。
A支払督促や仮執行宣言付支払督促に対し、相手方(債務者)は異議の申立てをすることができます。異議の申立てがあると通常訴訟手続に移行されます。その場合、相手方(債務者)の住所地を管轄する裁判所(訴額に応じて簡易裁判所又は地方裁判所)に係属してしまいますので、それが遠方の場合は不便です。なお、最初から訴訟を提起する場合には、合意管轄裁判所(マンション標準管理規約(単棟型)第68条参照)に提訴することが可能です。
B申立人(債権者)が一定期間[注4]に仮執行宣言の申立てをしないときは支払督促の効力を失ってしまいます。実際に失念されるケースもあるようです。
少額訴訟について
(1)少額訴訟とは
訴額が60万円以下の金銭の支払を求める訴えの特別の手続であり、原則として1回の審理で判決が下されます(民事訴訟法368条[注5]以下参照)。
(2)利点
@原則として1回の期日で審理が完了しますので、迅速に結論(債務名義[注3])を得ることができます。
A相手方(被告)が話し合いを希望する場合、その期日において司法委員[注6]を交えた話し合いによる解決(和解)も可能です。裁判上の和解も債務名義となります[注7][注3]。
(3)欠点
@原則として1回の審理で終結しますので、原告側が準備を怠ると、請求が認容されないこともあり得ます。敗訴した場合には異議申立て(異議審による審理)が可能ですが、控訴することができません。異議後の判決(少額異議判決)に対しては、憲法違反を理由とする特別上告以外の不服申立てができません。
A原則として1回の審理で終結しますので、相手方(被告)との話し合いの結論(管理組合の判断)も原則としてその期日に出す必要があります。
B相手方(被告)に対する最初の口頭弁論期日の呼出しについて公示送達ができません。その場合、裁判所は、通常訴訟手続で審理・裁判する旨の決定をすることになります(民事訴訟法373条3項)[注8]。
通常訴訟
(1)通常訴訟とは
通常の手続で行われる訴訟のことであり、訴額に応じて簡易裁判所ないし地方裁判所が管轄裁判所となります。現行法上、訴額140万円以下の場合は簡易裁判所、訴額140万円を超える場合は地方裁判所となります。
なお、支払督促における異議の申立てや少額訴訟における被告の申述によって通常訴訟に移行されることもあります(民事訴訟法373条1項)[注8]。
(2)利点
@本来の民事訴訟手続であり、支払督促手続や少額訴訟手続の欠点をカバーしているといえます。
A相手方(被告)との話し合いによる解決(裁判上の和解)も可能です。
(3)欠点
相手方(被告)の対応にもよりますが、期日が複数回開かれ、裁判が長期化する可能性があります。ただし、この点は、厳格に審理されるという意味で利点ともいえるでしょう。
さいごに
民事訴訟法に定められる上記3つの手続については、それぞれ一長一短があります。実務上は、いつ・どのような手続を実施するかという判断が重要になってきます。その判断のためには、背景事実(例えば債務者側の事情)を考慮する必要があります。
ちなみに、債権者(管理組合)側と債務者(相手方)側の事情(背景事実)によっては、「先取特権の実行」をまず先に選択すべきこともあるでしょう。
ところで、上記手続の結果(仮執行宣言付支払督促又は判決若しくは和解等)が得られたとしても、それだけで相手方が支払ってくれるとは限りません。そのような場合には、強制執行や区分所有権競売請求を検討する必要があるでしょう。
(弁護士/平松英樹)