<連載第20回>
先取特権(区分所有法7条)に基づく物上代位について
2013/6/25
今回は、区分所有法7条の「先取特権」に基づく物上代位について、東京高裁平成22年6月25日決定の事案を参考に検討してみましょう。
まず、上記東京高裁決定の事案を参考に事例を設定してみましょう。
設定事例
@マンションの管理組合は、管理費等滞納者に対して債務名義 [注1]を取得し、これに基づいて滞納者所有の建物(不動産)の強制競売を申し立てた。
Aこの強制競売による売却の結果、売却代金から弁済を受けるべき各債権者への弁済が可能となった。すなわち、管理組合は、手続費用及び上記債務名義に基づく債権全額を回収することが可能となった。
さらには売却代金から債務者(所有者)に対する剰余金の交付も可能となった(民事執行法139条1項)[注2]。
ただし、弁済金交付日に債務者が出頭しなかったため、剰余金については供託されることとなった。
B管理組合としては、債務名義取得以降の管理費等債権の回収ができていないため、これを被担保債権として、区分所有法7条1項[注3]に基づく物上代位[注4]として、当該債務者が有する供託金還付請求権(債務者が第三債務者たる国代表者●●法務局供託官●●に対して有する債権)の差押命令を申し立てた。
東京高裁平成22年6月25日決定の原審について
東京高裁決定の原審にあたる東京地裁平成22年5月13日決定は、「先取特権は、民事執行法59条1項[注5]により消滅したから、同法193条1項[注6]の担保権の存在を証明する文書の提出がない」旨を理由に、供託金還付請求権を差押債権とする申立てを却下しました。
抗告人(管理組合)が執行抗告[注7]をした結果、次のような東京高裁決定が下されました。
東京高裁平成22年6月25日決定について
決定理由より引用
先取特権は、その目的物が売却されて代金に変じた場合には、この代金に効力を及ぼすものであり、これは、同売却が裁判所による競売手続によるものであっても異なることはないから、区分所有者(債務者)に対して区分所有法7条1項に規定する管理費等の請求権を有する管理組合は、同建物が強制競売により売却された場合であっても、同請求権を被担保債権とする先取特権に基づいて、同建物の売却代金(配当手続実施後の剰余金を含む。)から優先弁済を受けることができるものと解すべきである。 したがって、本件建物が強制競売により売却されたからといって、前記の剰余金に対する物上代位の要件が失われたものということはできないから、本件において、抗告人が区分所有法7条1項に規定する債権を有すると認められる場合には、差押命令を発すべきである。 |
解説
1 先取特権の物上代位
先取特権(区分所有法7条1条)[注3]及び物上代位(民法304条)[注4]の規定により、先取特権者は、目的物の売却、賃貸、滅失等によって債務者が受けるべき金銭に対しても物上代位に基づき債権差押命令の申立てが可能です。
通常の強制執行としての債権差押命令申立ての場合には、債務名義(民事執行法22条)[注1]が必要ですが、担保権実行としての差押命令申立てには債務名義が不要です。
もちろん、担保権実行の場合も、裁判所に一定の文書を提出する必要はあります(民事執行法193条1項参照)[注6]。
2 現実的問題と検討
(1)賃料債権の差押え
例えば、債務者が、その所有する専有部分を第三者に賃貸している場合、当該債務者は賃借人(第三債務者)に対して賃料債権を有していることになります。
そのため、管理組合は、この債務者(区分所有者)が受けるべき賃料(金銭)について、物上代位に基づく債権差押えが可能であり、実務上も多く活用されています。
(2)売却代金債権の差押え
債務者が所有する専有部分を第三者に売却した場合、当該債務者は買主(第三債務者)に対して売却代金債権を有することになります。
理論上、この債務者(区分所有者)が受けるべき売却代金(金銭)について、物上代位に基づく債権差押えが可能なのですが、実務上はあまり活用されていないようです。
任意売却においては、通常、債務者(区分所有者)側から自主的に滞納金の清算がなされますし、そうでない場合は現実的に代金の払渡しの前に差押えをすることが容易でないからでしょう。また、管理組合としては、特定承継人(新所有者)に対しても債権を行使できる(区分所有法8条)ことから、あえて面倒なことを避けるという価値判断があるのかもしれません。
(3)さて、前記東京高裁決定の事案も、管理組合は、特定承継人(新所有者)に対して債権を行使できるものと思われます(区分所有法8条)。
ただし、管理組合が申し立てた不動産強制競売事件において、管理組合(申立債権者)は、剰余金がいつ債務者へ交付されるのか(=弁済金交付日)を予め把握することが可能です。
したがって、先取特権の物上代位として、その剰余金の交付請求権自体を差し押さえることも可能です。
(4)前記東京高裁決定は、弁済金交付日に債務者が出頭しなかったため、裁判所書記官が剰余金を供託し、債務者はその供託金の還付請求権を有するに至ったという事案です。
仮に、弁済金交付日に、剰余金が債務者に交付されてしまった場合には、供託金還付請求権など発生しません。
そこで、(債務者が弁済金交付日に剰余金の交付を受ける可能性が高いのであれば)管理組合としては、弁済金交付日前に、上記(3)の剰余金交付請求権(債務者が第三債務者である国代表者●●裁判所歳入歳出外現金出納官吏●●に対して有する債権)を差し押さえていた方がベターでしょう。
(弁護士/平松英樹)