<連載第28回>
公正証書による規約の設定
2013/10/22
今回は、公正証書による規約の設定について考えてみましょう。
公正証書による規約の設定については、建物の区分所有等に関する法律(以下、「法」といいます。)32条及び67条2項が規定しています。
<法32条について> (公正証書による規約の設定) 第三十二条 最初に建物の専有部分の全部を所有する者は、公正証書により、第四条第二項、第五条第一項並びに第二十二条第一項ただし書及び第二項ただし書(これらの規定を同条第三項において準用する場合を含む。)の規約を設定することができる。 |
<法67条について> (団地共用部分) 第六十七条 一団地内の附属施設たる建物(第一条に規定する建物の部分を含む。)は、前条において準用する第三十条第一項の規約により団地共用部分とすることができる。この場合においては、その旨の登記をしなければ、これをもつて第三者に対抗することができない。 2 一団地内の数棟の建物の全部を所有する者は、公正証書により、前項の規約を設定することができる。 3 第十一条第一項本文及び第三項並びに第十三条から第十五条までの規定は、団地共用部分に準用する。この場合において、第十一条第一項本文中「区分所有者」とあるのは「第六十五条に規定する団地建物所有者」と、第十四条第一項及び第十五条中「専有部分」とあるのは「建物又は専有部分」と読み替えるものとする。 |
規約の設定について(総論)
規約の設定に関する原則規定は法31条[注1]です。
規約の設定については、この他、法32条、法45条[注2]、法67条2項による方法が考えられます。
ちなみに、新築マンションの分譲においては、一般的に全区分所有者からの合意書面によって規約を成立させる方法が取られています(法45条参照)。
さて、法32条によれば、「最初に建物の専有部分の全部を所有する者」だけで規約の設定が可能です。ただし、その場合「公正証書」によらなければなりません。そして、設定できる内容も「第4条第2項、第5条第1項並びに第22条第1項ただし書及び第2項ただし書(これらの規定を同条第3項において準用する場合を含む。)」に限られています。
つまり、法32条に掲げられている内容(なお、法67条2項)以外は、法31条または法45条による方法で設定しなければなりません。
以下、法32条について具体的に確認し、公正証書例を考えてみましょう。
法32条による方法
1 「最初に建物の専有部分の全部を所有する者」とは
例えば、新築分譲マンションの専有部分を原始的に取得する分譲業者や、単独所有の1棟の建物を新たに区分して成立する専有部分の全部を所有することになる者が考えられます。
なお、分譲マンションはいわゆる青田売りがなされるのが一般的ですが、建物完成前に公正証書規約を作成することも可能です。ただし、その規約の効力発生時期は、建物が完成し(分譲業者が)専有部分全部を所有した時と解されます。
<公正証書例> 本公証人は,建物の区分所有等に関する法律第32条の規約設定者株式会社●●の嘱託により,この証書を作成する。 第1条 嘱託人は,建築中の下記建物の完成後最初に当該建物の専有部分の全部(100個)を所有する。 記 (省略) |
2 「公正証書」とは
公正証書とは、公証人によって作成される公文書のことです。公証人は、実務経験を有する法律実務家の中から法務大臣によって任命される公務員です。公証人は全国に300程存在する公証役場にて執務しています。
3 「第4条第2項、第5条第1項並びに第22条第1項ただし書及び第2項ただし書(これらの規定を同条第3項において準用する場合を含む。)」とは
具体的には以下の4つの内容です。
(1)第4条第2項の規約
<法4条について> (共用部分) 第四条 数個の専有部分に通ずる廊下又は階段室その他構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分は、区分所有権の目的とならないものとする。 2 第一条に規定する建物の部分及び附属の建物は、規約により共用部分とすることができる。この場合には、その旨の登記をしなければ、これをもつて第三者に対抗することができない。 |
「第4条第2項」の規約とは、いわゆる規約共用部分を定める規約のことです。
例えば専有部分たり得る101号室を管理人室として共用部分と定めることです。
<公正証書例> 第4条 次の建物を区分所有者全員の共用に供すべき共用部分(規約共用部分)と定める。 一 第1条の建物中1階管理人室 別添図面(1)(省略)斜線の部分 二 (省略) |
(2)第5条第1項の規約
<法5条について> (規約による建物の敷地) 第五条 区分所有者が建物及び建物が所在する土地と一体として管理又は使用をする庭、通路その他の土地は、規約により建物の敷地とすることができる。 2 建物が所在する土地が建物の一部の滅失により建物が所在する土地以外の土地となったときは、その土地は、前項の規定により規約で建物の敷地と定められたものとみなす。建物が所在する土地の一部が分割により建物が所在する土地以外の土地となったときも、同様とする。 |
「第5条第1項」の規約とは、規約敷地を定める規約のことです。
法定敷地(=建物が所在する土地)以外の土地を、規約により建物の敷地と定めることが可能です。
規約敷地の例としては、通路や駐車場あるいは附属施設の敷地として用いられている土地が考えられます。このような土地を規約で「建物の敷地」と定めれば、その土地も建物の敷地として取り扱われます。
<公正証書例> 第2条 嘱託人は,下記一及び二の各土地の所有権を有する。 記 一 (省略) 二 (省略) 第3条 前条記一の土地(法定敷地)のほか,記二の土地を第1条の建物に係る建物の敷地(規約敷地)と定める。 |
(3)第22条第1項ただし書(同条第3項)の規約
<法22条について> (分離処分の禁止) 第二十二条 敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利である場合には、区分所有者は、その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権とを分離して処分することができない。ただし、規約に別段の定めがあるときは、この限りでない。 2 前項本文の場合において、区分所有者が数個の専有部分を所有するときは、各専有部分に係る敷地利用権の割合は、第十四条第一項から第三項までに定める割合による。ただし、規約でこの割合と異なる割合が定められているときは、その割合による。 3 前二項の規定は、建物の専有部分の全部を所有する者の敷地利用権が単独で有する所有権その他の権利である場合に準用する。 |
「第22条第1項ただし書(同条第3項において準用する場合を含む。)」の規約とは、専有部分と敷地利用権を分離して処分することができる旨を定める規約のことです。
区分所有者は、原則として、その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権とを分離して処分することはできません(法22条1項本文)が、規約によって別段の定めをすることが可能です(同項ただし書)。
<公正証書例> 第6条 第1条の建物の各専有部分と第2条記一及び記二の各土地の所有権とは分離して処分することができるものとする。 |
(4)第22条第2項ただし書(同条第3項)の規約
法22条については前掲のとおりです。
「第22条第2項ただし書(同条第3項において準用する場合を含む。)」の規約とは、各専有部分に係る敷地利用権の割合を定める規約のことです。
区分建物に係る敷地利用権の割合は、原則として法14条1項から3項[注3]に定める専有部分の床面積(床面積は、壁その他の区画の内側線で囲まれた部分の水平投影面積)によります。
ただし、法22条2項ただし書の規約の設定により、それと異なる敷地利用権割合を定めることが可能です。
<公正証書例> 第5条 第1条の建物の各専有部分に係る第2条記一及び二の各土地についての敷地利用権の割合は各100分の1と定める。 |
法67条2項による方法
法67条については前掲のとおりです。
法67条2項の規約とは、「一団地内の数棟の建物の全部を所有する者」が、「公正証書」により、「一団地内の附属施設たる建物(法1条に規定する建物の部分を含む。)」を「団地共用部分」と定める規約のことです。
例えば、棟内の専有部分たり得る管理人室や、団地内の独立の建物たる集会所などを、開発分譲業者が公正証書によって団地共用部分としておくことが考えられます。
<公正証書例> 本公証人は,建物の区分所有等に関する法律第67条2項の規約設定者株式会社●●の嘱託により,この証書を作成する。 第1条 嘱託人は,一団地内に下記一及び二の各建物を所有し,建築中の下記三及び四の各建物の完成後当該各建物を所有する。 記 (省略) 第2条 下記建物部分及び建物を団地建物所有者全員の共用に供すべき共用部分(団地共用部分)と定める。 記 一 第1条記一の建物中1階部分管理人室 別添図面(1)斜線の部分 二 第1条記二の建物 |
(弁護士/平松英樹)