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弁護士平松英樹のマンション管理論

<連載第34回>

管理組合における組合員の総会招集について

2014/1/21

今回は、標準的な管理組合を前提に、区分所有者の総会招集に関する下記質問(規約改正案)を検討してみましょう。

なお、本稿でいう「標準的な管理組合」とは、マンション標準管理規約(単棟型)に則った規約を定めている非法人管理組合(いわゆる権利能力なき社団)で「理事長」が区分所有法に定める「管理者」となっている管理組合を指します。

管理者(理事長)に対する集会招集請求の省略について

1 質問

区分所有法34条3項には「区分所有者の五分の一以上で議決権の五分の一以上を有するものは、管理者に対し、会議の目的たる事項を示して、集会の招集を請求することができる。ただし、この定数は、規約で減ずることができる。」と定められています [注1]。

私たちのマンション管理規約44条1項には、「組合員が組合員総数の5分の1以上及び第46条第1項に定める議決権総数の5分の1以上に当たる組合員の同意を得て、会議の目的を示して総会の招集を請求した場合には、理事長は、2週間以内にその請求があった日から4週間以内の日(会議の目的が建替え決議であるときは、2か月と2週間以内の日)を会日とする臨時総会の招集の通知を発しなければならない。」と規定されていますが、例えば、「組合員は、他の組合員3名の同意を得て、いつでも(理事長に対して総会の招集を請求するまでもなく)臨時総会を招集することができる。」というような規約改正も認められるでしょうか?

2 回答

上記改正案の問題は、「理事長に対して総会の招集を請求するまでもなく」「臨時総会を招集することができる」となっている点です。

区分所有法34条 [注1]の規定をどのように考えるかに関わってきます。

この点、区分所有者による集会招集は広く認められるべきであり、区分所有法34条3項本文の表現も「できる」となっているに過ぎない等といった理由から、上記改正案のような規約も認められるという見解もあり得るでしょう。

しかし、私見は以下のとおりです。

(私見)

昭和58年改正前の旧区分所有法(昭和37年4月4日法律第69号)27条においては、「管理者又は区分所有者の四分の一以上で議決権の四分の一以上を有するものは、集会を招集することができる。ただし、この定数は、規約で減ずることができる。」と定められていました [注2]。つまり、昭和58年改正前の旧区分所有法のもとでは、少数区分所有者が直接に集会を招集することができるものとなっていました。

しかし、昭和58年改正において、区分所有法34条3項本文に「管理者に対し・・・集会の招集を請求することができる」と定められた上で、それを前提に同条4項 [注1]の規定が存在します。それは、集会運営の便宜上、管理者が置かれている限り、できるだけ管理者をして招集手続を行わせるのが適当と考えられたからでしょう(『改正区分所有法と登記実務』法務省民事局編[法曹会、1984年]37頁参照)。

そうすると、管理者が置かれている標準的な管理組合においては、やはり管理者に対する集会招集請求を経る必要があると解されます。

したがって、上記改正案は結論として無効であろうと考えます。

監事の集会招集規定の類推適用について

1 質問

管理規約41条2項に「監事は、管理組合の業務の執行及び財産の状況について不正があると認めるときは、臨時総会を招集することができる。」とあります。つまり、監事は、一定の場合、管理者への集会招集請求を経ることなく臨時総会を招集することができることになっています。

@ この監事の臨時総会招集の規定は、区分所有法34条に反しないのでしょうか?

A この監事の臨時総会招集の規定が区分所有法34条に反しないのであれば、例えば、「各組合員は(誰でも)、管理組合の業務の執行及び財産の状況について不正があると認めるときは、臨時総会を招集することができる。」あるいは「(理事長以外の)各理事は(単独で)、管理組合の業務の執行及び財産の状況について不正があると認めるときは、臨時総会を招集することができる。」旨の規約の定めも可能なように思いますが、いかがでしょうか?

2 回答

@ 管理規約41条2項と区分所有法34条との関係

まず、管理組合法人の監事の場合には、区分所有法50条3項によって、「財産の状況又は業務の執行について、法令若しくは規約に違反し、又は著しく不当な事項があると認めるときは、集会に報告をすること」そして「報告をするため必要があるときは、集会を招集すること」が認められています[注3]。

区分所有法上、管理組合法人の監事は必置機関となっていますが、非法人管理組合の監事は規約で定められた役員に過ぎません。つまり非法人管理組合の監事の臨時総会招集規定は規約で認められたものに過ぎません。そのため、たしかに、区分所有法34条との関係で疑問が生じます。

しかし、標準的な管理組合(権利能力なき社団)の実態(実質)をみると、法人格の有無によって大きな違いが生じるわけではなく、また、現実論として「中高層共同住宅標準管理規約」(建設省)の時代から標準管理規約には監事の臨時総会招集規定が置かれていました。

したがって、現行標準管理規約41条2項に定める臨時総会招集規定が、区分所有法34条に反し無効となることはないと考えます。理論構成としては、区分所有法50条3項の類推適用ということになるでしょう。

A 「各組合員(誰でも)」あるいは「(理事長以外の)各理事」は、「監事」と同じように臨時総会を招集できる旨の規約の定めは有効か?

まず、「管理組合法人」の「監事」に認められた集会招集(区分所有法50条3項)の趣旨との関係が問題となります。

この点、非法人管理組合の監事の総会招集については、区分所有法50条3項の類推適用という理論構成が可能でしょうが、「各組合員(誰でも)」あるいは「(理事長以外の)各理事」の総会招集について同条項を類推適用するにはかなり無理があります。

そもそも管理者が置かれているときはできるだけ管理者をして招集手続を行わせるのを適当とした区分所有法34条の趣旨を無視することはできません。

したがって、ご質問の改正案は、やはり結論として無効であろうと考えます。

(弁護士/平松英樹)



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注釈 NOTE

注1: 区分所有法34条について
(集会の招集)
第三十四条 集会は、管理者が招集する。
2 管理者は、少なくとも毎年一回集会を招集しなければならない。
3 区分所有者の五分の一以上で議決権の五分の一以上を有するものは、管理者に対し、会議の目的たる事項を示して、集会の招集を請求することができる。ただし、この定数は、規約で減ずることができる。
4 前項の規定による請求がされた場合において、二週間以内にその請求の日から四週間以内の日を会日とする集会の招集の通知が発せられなかつたときは、その請求をした区分所有者は、集会を招集することができる。
5 管理者がないときは、区分所有者の五分の一以上で議決権の五分の一以上を有するものは、集会を招集することができる。ただし、この定数は、規約で減ずることができる。

注2: 昭和58年改正前の旧区分所有法(昭和37年4月4日法律第69号)27条乃至34条について
(集会)
第二十七条 管理者又は区分所有者の四分の一以上で議決権の四分の一以上を有するものは、集会を招集することができる。ただし、この定数は、規約で減ずることができる。
第二十八条 集会を招集するには、会日より少なくとも五日前に、会議の目的たる事項を示して、各区分所有者に通知しなければならない。ただし、その日数は、規約で増減することができる。
第二十九条 集会においては、前条の規定によりあらかじめ通知した事項についてのみ、決議をすることができる。ただし、規約に別段の定めがあるときは、この限りでない。
第三十条 各区分所有者の議決権は、規約に別段の定めがない限り、第十条に定める割合による。
第三十一条  集会の議事は、規約に別段の定めがない限り、区分所有者及び議決権の各過半数で決する。
2 議決権は、書面で、又は代理人によつて行使することができる。
第三十二条 集会においては、規約に別段の定めがある場合及び別段の決議をした場合を除いて、管理者又は集会を招集した区分所有者の一人が議長となる。
第三十三条 集会の議事については、議事録を作成しなければならない。
2 議事録には、議事の経過の要領及びその結果を記載し、議長がこれに署名押印しなければならない。
3 第二十六条の規定は、議事録に準用する。
第三十四条 この法律又は規約により集会において決議すべきものとされた事項については、区分所有者全員の書面による合意があつたときは、集会の決議があつたものとみなす。
2 第二十六条の規定は、前項の書面に準用する。

注3: 区分所有法50条について
(監事)
第五十条 管理組合法人には、監事を置かなければならない。
2 監事は、理事又は管理組合法人の使用人と兼ねてはならない。
3 監事の職務は、次のとおりとする。
 一 管理組合法人の財産の状況を監査すること。
 二 理事の業務の執行の状況を監査すること。
 三 財産の状況又は業務の執行について、法令若しくは規約に違反し、又は 著しく不当な事項があると認めるときは、集会に報告をすること。
 四 前号の報告をするため必要があるときは、集会を招集すること。
4 第二十五条、第四十九条第六項及び第七項並びに前条の規定は、監事に準用する。

筆者紹介 PROFILE

平松英樹(ひらまつ・ひでき)

弁護士、マンション管理士。1968年(昭和43年)生まれ、1991年(平成3年)年早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1丁目14番5号土屋ビル4階)、首都圏マンション管理士会などに所属。マンション管理、不動産取引・賃貸借(借地借家)問題を中心とした不動産法務を専門とし、マンション管理、不動産販売・賃貸管理、建築請負会社等の顧問先に対するリーガルサービスに定評がある。実務担当者を対象とする講演、執筆等の実績多数。著書に『わかりやすいマンション管理組合・管理会社のためのマンション標準管理規約改正の概要とポイント』(住宅新報社)ほか。