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弁護士平松英樹のマンション管理論

<連載第36回>

区分所有法57条とマンション標準管理規約(単棟型)第67条の規定の関係

2014/2/25

「区分所有法57条の規定[注1]とマンション標準管理規約(単棟型)第67条の規定[注2]は矛盾しないのでしょうか?」というご質問がよくあります。

今回は、このご質問について考えてみましょう。

ご質問の背景

まず、区分所有法57条から60条までの規定は強行規定です。例えば、区分所有法57条に基づき請求する場合には、同条に定める手続を履践しなければなりません。すなわち、「訴訟を提起」する場合には、必ず「集会の決議」によらなければなりません(区分所有法57条2項)。

他方、マンション標準管理規約(単棟型)第67条に基づき請求する場合には、「理事長」が、「理事会の決議を経て」、「管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行する」ことができます。

そうすると、マンション標準管理規約(単棟型)第67条の規定によれば、集会の決議を経ることなく、訴訟提起できることになるため、同規定は区分所有法57条の規定に反するのではないか?・・・というのが冒頭のご質問の背景です。

区分所有法57条1項に基づく請求について

まず、区分所有法57条から60条までの規定は、昭和58年改正法によって新設された規定です。それ以前の区分所有法(昭和37年法律第69号、同38年4月施行。以下「昭和37年法」といいます。)にはこれらに相当する規定はありません。 

区分所有法57条1項の請求は、「区分所有者が第6条第1項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合」にすることができます。

そこで、「第6条第1項に規定する行為」について確認してみましょう。

区分所有法6条の規定は次のとおりです。

(区分所有者の権利義務等)
第六条 区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。
2 区分所有者は、その専有部分又は共用部分を保存し、又は改良するため必要な範囲内において、他の区分所有者の専有部分又は自己の所有に属しない共用部分の使用を請求することができる。この場合において、他の区分所有者が損害を受けたときは、その償金を支払わなければならない。
3 第一項の規定は、区分所有者以外の専有部分の占有者(以下「占有者」という。)に準用する。

上記のとおり、「第6条第1項に規定する行為」とは、「建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」ということです。

昭和37年法の第5条にも「区分所有者の権利義務」という見出しで、上記第1項及び第2項と同じ規定がありました(ちなみに、昭和58年改正法により「第6条」になって上記第3項が加わり、見出しが「区分所有者の権利義務等」となりました)。

すなわち、昭和37年法のもとでは、「区分所有者の権利義務」の規定はありましたが、区分所有法57条のような規定が存在しませんでした。

そのため、「共同の利益に反する行為」をする区分所有者に対しては、各区分所有者が、個々に差止請求訴訟を提起できるものと解されていました。

しかし、そもそも「共同の利益」は団体的な利益と解するのが妥当であって、そのための権利は団体的に行使されるのが相当です。

そこで、昭和58年改正法によって、「他の区分所有者の全員又は管理組合法人」が「区分所有者の共同の利益のため」に行為の停止等の請求をすることが可能とされた(区分所有法57条1項)一方で、訴訟の提起については、その重要性と判断の困難性とに鑑みて、個別の集会決議による授権が必要とされたのです(区分所有法57条2項)。


規約に基づく請求について

規約違反行為について、「行為の差止め、排除又は原状回復のための必要な措置の請求」をする場合を考えてみましょう。

まず、規約の規定を根拠に具体的な義務(作為・不作為)の履行を求めることになりますから、当該規約の規定は具体的なものでなければなりません。その意味で、抽象的な規定(例えば「共同の利益に反する行為をしてはならない」という規定)を規約に定めても無意味です。

そして、「規約」は区分所有者の「団体」の内部規範であるため、そこに定められた具体的義務はいわば団体に対する義務であって、これに対応する権利は団体的に帰属すると解されます。

したがって、団体(管理組合法人、または権利能力なき社団たる管理組合(民事訴訟法29条)[注3])は、その団体の名において、規約違反者に対し、規約に基づく義務の履行を求めて訴訟提起することが可能です。

この場合の訴訟提起については、「規約又は集会の決議」(区分所有法47条8項[注4]参照)によって可能なので、「規約」の定め[注2]に基づき「理事長」が「理事会の決議」を経ることで可能という結論になるのです。

さいごに

以上のとおり、マンション標準管理規約(単棟型)第67条の規定は、区分所有法57条の規定に反するものではありません。

もちろん、規約の規定が抽象的であれば、区分所有法57条を根拠とする請求になりますので、その場合の訴訟提起には「集会の決議」が必要です。

なお、「使用禁止の請求」(区分所有法58条)、「区分所有権の競売の請求」(区分所有法59条)、「占有者に対する引渡し請求」(区分所有法60条)については、必ず集会の特別決議(「区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数」)が必要となりますので、この点は注意が必要です。

(弁護士/平松英樹)



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注釈 NOTE

注1: 区分所有法57条について

(共同の利益に反する行為の停止等の請求)
第五十七条 区分所有者が第六条第一項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。
2 前項の規定に基づき訴訟を提起するには、集会の決議によらなければならない。
3 管理者又は集会において指定された区分所有者は、集会の決議により、第一項の他の区分所有者の全員のために、前項に規定する訴訟を提起することができる。
4 前三項の規定は、占有者が第六条第三項において準用する同条第一項に規定する行為をした場合及びその行為をするおそれがある場合に準用する。

注2: マンション標準管理規約(単棟型)第67条について

(理事長の勧告及び指示等)
第67条 区分所有者若しくはその同居人又は専有部分の貸与を受けた者若しくはその同居人(以下「区分所有者等」という。)が、法令、規約又は使用細則等に違反したとき、又は対象物件内における共同生活の秩序を乱す行為を行ったときは、理事長は、理事会の決議を経てその区分所有者等に対し、その是正等のため必要な勧告又は指示若しくは警告を行うことができる。
2 区分所有者は、その同居人又はその所有する専有部分の貸与を受けた者若しくはその同居人が前項の行為を行った場合には、その是正等のため必要な措置を講じなければならない。
3 区分所有者等がこの規約若しくは使用細則等に違反したとき、又は区分所有者等若しくは区分所有者等以外の第三者が敷地及び共用部分等において不法行為を行ったときは、理事長は、理事会の決議を経て、次の措置を講ずることができる。
 一 行為の差止め、排除又は原状回復のための必要な措置の請求に関し、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行すること
 二 敷地及び共用部分等について生じた損害賠償金又は不当利得による返還金の請求又は受領に関し、区分所有者のために、訴訟において原告又は被告となること、その他法的措置をとること
4 前項の訴えを提起する場合、理事長は、請求の相手方に対し、違約金としての弁護士費用及び差止め等の諸費用を請求することができる。
5 前項に基づき請求した弁護士費用及び差止め等の諸費用に相当する収納金は、第27条に定める費用に充当する。
6 理事長は、第3項の規定に基づき、区分所有者のために、原告又は被告となったときは、遅滞なく、区分所有者にその旨を通知しなければならない。この場合には、第43条第2項及び第3項の規定を準用する。

注3: 民事訴訟法29条について

(法人でない社団等の当事者能力)
第二十九条 法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものは、その名において訴え、又は訴えられることができる。

注4: 区分所有法47条について

(成立等)
第四十七条 第三条に規定する団体は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で法人となる旨並びにその名称及び事務所を定め、かつ、その主たる事務所の所在地において登記をすることによつて法人となる。
2 前項の規定による法人は、管理組合法人と称する。
3 この法律に規定するもののほか、管理組合法人の登記に関して必要な事項は、政令で定める。
4 管理組合法人に関して登記すべき事項は、登記した後でなければ、第三者に対抗することができない。
5 管理組合法人の成立前の集会の決議、規約及び管理者の職務の範囲内の行為は、管理組合法人につき効力を生ずる。
6 管理組合法人は、その事務に関し、区分所有者を代理する。第十八条第四項(第二十一条において準用する場合を含む。)の規定による損害保険契約に基づく保険金額並びに共用部分等について生じた損害賠償金及び不当利得による返還金の請求及び受領についても、同様とする。
7 管理組合法人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
8 管理組合法人は、規約又は集会の決議により、その事務(第六項後段に規定する事項を含む。)に関し、区分所有者のために、原告又は被告となることができる。
9 管理組合法人は、前項の規約により原告又は被告となつたときは、遅滞なく、区分所有者にその旨を通知しなければならない。この場合においては、第三十五条第二項から第四項までの規定を準用する。
10 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成十八年法律第四十八号)第四条及び第七十八条の規定は管理組合法人に、破産法(平成十六年法律第七十五号)第十六条第二項の規定は存立中の管理組合法人に準用する。
11 第四節及び第三十三条第一項ただし書(第四十二条第五項及び第四十五条第四項において準用する場合を含む。)の規定は、管理組合法人には、適用しない。
12 管理組合法人について、第三十三条第一項本文(第四十二条第五項及び第四十五条第四項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定を適用する場合には第三十三条第一項本文中「管理者が」とあるのは「理事が管理組合法人の事務所において」と、第三十四条第一項から第三項まで及び第五項、第三十五条第三項、第四十一条並びに第四十三条の規定を適用する場合にはこれらの規定中「管理者」とあるのは「理事」とする。
13 管理組合法人は、法人税法(昭和四十年法律第三十四号)その他法人税に関する法令の規定の適用については、同法第二条第六号に規定する公益法人等とみなす。この場合において、同法第三十七条の規定を適用する場合には同条第四項中「公益法人等(」とあるのは「公益法人等(管理組合法人並びに」と、同法第六十六条の規定を適用する場合には同条第一項及び第二項中「普通法人」とあるのは「普通法人(管理組合法人を含む。)」と、同条第三項中「公益法人等(」とあるのは「公益法人等(管理組合法人及び」とする。
14 管理組合法人は、消費税法(昭和六十三年法律第百八号)その他消費税に関する法令の規定の適用については、同法別表第三に掲げる法人とみなす。

筆者紹介 PROFILE

平松英樹(ひらまつ・ひでき)

弁護士、マンション管理士。1968年(昭和43年)生まれ、1991年(平成3年)年早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1丁目14番5号土屋ビル4階)、首都圏マンション管理士会などに所属。マンション管理、不動産取引・賃貸借(借地借家)問題を中心とした不動産法務を専門とし、マンション管理、不動産販売・賃貸管理、建築請負会社等の顧問先に対するリーガルサービスに定評がある。実務担当者を対象とする講演、執筆等の実績多数。著書に『わかりやすいマンション管理組合・管理会社のためのマンション標準管理規約改正の概要とポイント』(住宅新報社)ほか。