<連載第38回>
特定承継人に対する水道使用料の請求について
2014/3/25
前区分所有者が滞納していた専有部分の水道使用料について、管理組合は、特定承継人に対し区分所有法8条[注1]・7条1項[注2]に基づき、当該未納金を請求できるでしょうか?
問題の背景
マンションによっては、管理組合が水道局から、専有部分の水道水を含めて一括して供給を受け、管理組合が水道局に対し、マンション全体の水道使用量をもとに算出される水道料金を一括して支払っている場合があります。
この場合、管理組合は、各専有部分用に設置した各戸メーターを計測して、各戸使用量をもとに算出する各戸水道使用料金を各区分所有者へ請求しているケースが多いでしょう。
そのようなケースでは、通常、管理組合と当該区分所有者との間に、専有部分水道使用(使用料支払)に関する合意が存在しており、管理組合は当該合意に基づき当該区分所有者に対し水道使用料を請求していることでしょう。
では、当該区分所有者が管理組合に水道料金未納のまま、当該専有部分の所有権を第三者に移転したような場合、管理組合は、当該第三者すなわち特定承継人に対し、前区分所有者の未納金を請求できるでしょうか。
区分所有法8条に基づき特定承継人に対して有する債権は、同法7条1項に定めるとおりであり、すなわち、「共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権」と「管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権」ということになります。
そもそも、管理組合は「建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる」に過ぎません(区分所有法3条前段)[注3]。規約で定めうる事項も、「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項」ということになります(区分所有法30条1項)[注4]。
そこで、専有部分で消費する水道料金に関する規定を、個別の合意とは別に、団体の「規約」をもって定めることができるのかが問題となります。
原則論
上記の問題については、名古屋高裁平成25年2月22日判決及び大阪高裁平成20年4月16日判決が参考になります。
例えば、名古屋高裁平成25年2月22日判決は次のように判示し、「特段の事情」のない限り、規約をもって定めることはできないと解しています。
<名古屋高裁平成25年2月22日判決より> 「専有部分である各戸の水道料金は、専ら専有部分において消費した水道の料金であり、共用部分の管理とは直接関係がなく、区分所有者全体に影響を及ぼすものともいえないのが通常であるから、特段の事情のない限り、上記の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項には該当せず、上記水道料金について、各区分所有者が支払うべき額や支払方法、特定承継人に対する支払義務の承継を区分所有者を構成員とする管理組合の規約をもって定めることはできず、そのようなことを定めた規約は、規約としての効力を有しないものと解すべきである。」 |
また、大阪高裁平成20年4月16日判決も次のように判示し、「特段の事情」のない限り、規約で定めうる債権の範囲に含まれないと解しています。
<大阪高裁平成20年4月16日判決より> 「法は、区分所有者、管理者又は管理組合法人は、規約に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる旨定めているが(法8条、7条1項)、ここにいう債権の範囲は、いわゆる相対的規約事項と解されるものの、法3条1項前段が「区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。」と定め、かつ法30条1項が「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。」と規律している趣旨・目的に照らすと、建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、規約で定めることができるものの、それ以外の事項を規約で定めるについては団体の法理による制約を受け、どのような事項についても自由に定めることが許されるものではないと解される。そして、各専有部分の水道料金や電気料金は、専ら専有部分において消費した水道や電気の料金であり、共用部分の管理とは直接関係がなく、区分所有者全体に影響を及ぼすものともいえない事柄であるから、特段の事情のない限り、規約で定めうる債権の範囲に含まれないと解すべきである。」 |
例外(特段の事情)
上記の名古屋高裁平成25年2月22日判決及び大阪高裁平成20年4月16日判決にも示されているとおり、「特段の事情」があれば、規約をもって定めることができると解されます。
では、「特段の事情」とは、いかなる事情をいうのでしょうか。
この点に関しては、大阪高裁平成20年4月16日判決が参考になります。
<大阪高裁平成20年4月16日判決より> 「@本件マンションは、各専有部分は、すべてその用途が事務所又は店舗とされているところ、A本件マンションでは、被上告人が、市水道局から水道水を一括して供給を受け、親メーターで計測された水道使用量を基に算出された全戸分の使用料金を一括して立替払した上、各専有部分に設置した子メーターにより計測された使用量を基にして算出した各専有部分の使用料金を各区分所有者に請求していることとしているが、これは本件水道局取扱いの下では、本件マンションの各専有部分について各戸計量・各戸収納制度を実施することができないことに原因し、B被上告人が、関西電力から電力を一括して供給を受け、親メーターで計測された電気使用量を基に算出された全戸分の使用料金を一括して立替払した上、各専有部分の面積及び同部分に設置した子メーターにより計測された使用量を基にして算出した各専有部分の使用料金を各区分所有者に請求しているが、これは本件マンションの動力の想定負荷が低圧供給の上限を超えており、また、本件マンションには純住宅が2軒以上なく電気室供給もできないため、関西電力と本件マンションの各専有部分との間で、電気供給につき戸別契約(低圧契約)を締結することができないことに原因するというのであるから、本件マンションにおける水道料金等に係る立替払とそれから生じた債権の請求は、各専有部分に設置された設備を維持、使用するためのライフラインの確保のため必要不可欠の行為であり、当該措置は建物の管理又は使用に関する事項として区分所有者全体に影響を及ぼすということができる。 そうであれば、被上告人の本件マンションの各区分所有者に対する各専有部分に係る水道料金等の支払請求権については、前記特段の事情があるというべきであって、規約事項とすることに妨げはなく、本件規約62条1項に基づく債権であると解することが相当である。」 |
補足
「特段の事情」があるというためには、管理組合による一括立替払いと各区分所有者に対する立替金請求が、マンション全体のライフライン確保のために必要不可欠の行為であるといえることがポイントになってくるでしょう。
そうすると、例えば、管理組合が立替金相当額を超えて(一定の利益を加算して)区分所有者から使用料名目で徴収し、その利益を管理組合の収入として得ようとする行為は必要不可欠の行為とは言い難いでしょう。つまり、そのような行為を規約に定めても、規約としての効力が否定される(特定承継人に支払を求めることができない)可能性が高いと思われます。
(弁護士/平松英樹)