<連載第44回>
管理費等の請求について(将来給付の訴え、弁護士費用請求)
2014/7/15
今回は、将来履行期が到来する管理費等の支払を求める訴え(将来給付の訴え)と、弁護士費用請求について考えてみましょう。
将来の給付の訴えについて
(1)背景事情(問題提起)
マンションの管理費等は、管理規約ないし総会決議に基づき、毎月具体的な金額を所定の方法で支払うものとされているのが一般的です。
ところが、管理費等長期滞納者においては、過去の未納金のみならず、将来の管理費等の支払も期待できないことが少なくありません。
そこで、管理組合として将来の管理費等の支払も併せて請求することができれば便宜ですが、そのような請求は可能なのでしょうか?
(2)一般論
まず、管理費等の支払を求める訴えは「給付の訴え」ということになります。
そして、口頭弁論終結時までに履行期の到来した給付請求権につき給付を命ずる判決を求めることは「現在の給付の訴え」ということになります。
これに対し、口頭弁論終結時には未だ履行期が到来していない給付請求権につき、あらかじめ給付を命ずる判決を求めることを「将来の給付の訴え」といいます。
「将来の給付の訴え」については民事訴訟法135条に規定されています。
民事訴訟法135条 (将来の給付の訴え) 第百三十五条 将来の給付を求める訴えは、あらかじめその請求をする必要がある場合に限り、提起することができる。 |
民事訴訟法135条に規定されているとおり、将来の給付を求める訴えは、「あらかじめその請求をする必要がある場合に限り」認められます。
(3)具体論
マンション管理費等の支払請求権については、区分所有者がその区分所有権を喪失しない限り、将来到来する所定の履行期に具体的な金額の給付請求権が確実に発生するといえます。
そして、管理組合の収入源は、区分所有者から支払われる管理費等に依存していることから、所定の履行期に所定の管理費等の入金がなければ、共用部分維持管理ないし管理組合運営に支障を来たしてしまいます。そのため、管理費等はその履行期に即時の給付がなされるべき必要性が高いということができます。
そうであるにもかかわらず、滞納者(区分所有者)において将来履行期が到来する管理費等の支払を怠る蓋然性が高いのであれば、「あらかじめ請求をする必要がある」ということができます。
以下に、将来給付の訴えを認めた裁判例を紹介しておきます。
(4)裁判例
東京地裁平成10年4月14日判決より(出典:ウェストロージャパン) 原告は、既に履行期が到来した管理費等(有線使用料を含む)の支払を求めるだけでなく、履行期未到来の管理費等(有線使用料を含む)の支払も求めている。 ところで、将来の給付の訴えは、あらかじめその請求をして給付判決を得ておく必要のある場合に限り認められるところ、前記第二の一「争いのない事実等」、《証拠略》によれば、被告の管理費等の支払義務は継続的に月々確実に発生するものであること、本件マンションは戸数一〇戸の比較的小規模なマンションであり、被告一人の管理費等の滞納によっても、原告はその運営や財政に重大な支障を来すおそれが強いこと、将来分をも含めて、被告の管理費等支払拒絶の意思は相当に強く、将来分の管理費についても被告の即時の履行が期待できない状況にあることなどが認められ、以上の事実によれば、将来の履行期未到来の管理費等(有線使用料を含む)の支払請求も認められる。 |
東京地裁平成24年4月18日判決より(出典:ウェストロージャパン) 原告は、履行期未到来の管理費等の支払を求めるので検討するに、将来の給付の訴えは、あらかじめその請求をして給付判決を得ておく必要のある場合に限り認められる(民訴法135条)ところ、前記前提事実、証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によれば、本件においては、被告の管理費等の支払義務は継続的に月々確実に発生するものであること、本件マンションは戸数約150の比較的規模の大きなマンションではあるが、被告の管理費等の滞納によって、原告がその運営や財政に支障を来す可能性は否めず、また、これまでの被告の本件に対する対応からすれば、将来分をも含めて被告の管理費等支払拒絶の意思は強いものといえるから、将来分の管理費についても被告が即日履行するとは期待できない状況であることなどが認められる。以上の事実によれば、本件はあらかじめその請求をして給付判決を得ておく必要のある場合といえるから、将来の履行期未到来の管理費等の支払請求も認められる。 |
東京地裁平成25年6月25日判決より(出典:ウェストロージャパン) ・・・被告は、201号室及び202号室に係る区分所有権を引き続き有しているから、平成25年3月分以降の管理費等として、同月1日から被告がこれらの専有部分に係る区分所有権を喪失するまでの間、毎月、当該月の前月末日限り、201号室については1か月当たり8万6720円、202号室については1か月当たり8万7680円の管理費等を支払う義務がある。 そして、被告のこれまでの管理費等の滞納状況からすると、本件口頭弁論終結後に弁済期が到来する管理費等についても、被告がその支払を怠る蓋然性が高いものと認められるから、原告においてこれらの管理費等につき将来の給付の訴えを提起する必要性があるものと認められる。 |
(5)補足・・・請求の趣旨について
例えば、月額3万円の管理費等について、当月分の支払期限が当月5日、遅延損害金が年14%と定められている場合、請求の趣旨は次のようになるでしょう。
被告は、原告に対し、平成26年8月以降被告が別紙物件目録記載の建物の区分所有権を喪失するまでの間、毎月5日限り、金3万円及びこれに対する当月6日から支払済みまで各年14パーセントの割合による金員を支払え。 |
弁護士費用の請求について
(1)背景事情(問題提起)
標準的な管理規約においては、「組合員が・・・期日までに納付すべき金額を納付しない場合には、管理組合は、その未払金額について、年利○%の遅延損害金と、違約金としての弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用を加算して、その組合員に対して請求することができる」と定められています[注1]。
判例において、「債権者は、金銭債務の不履行による損害賠償として、債務者に対し弁護士費用その他の取立費用を請求することはできない」というものがあります(最高裁昭和48年10月11日判決)[注2]。
そこで、上記両者の関係をどのように考えるべきでしょうか?
(2)規約に定める違約金とは
まず、規約の定め方からすれば、この「違約金としての弁護士費用」は、「債務不履行による損害賠償(遅延損害金)とは別途に請求できる制裁金としての性格を有する違約金」であるとみるべきです(『コンメンタールマンション標準管理規約』稻本洋之助・鎌野邦樹編著[日本評論社、2012年]212頁参照)。
他方、最高裁昭和48年10月11日判決は、「金銭債務の不履行による損害賠償」として弁護士費用を請求することができないと判断しているに過ぎず、制裁金たる性格を有する違約金請求を否定したものではありません。
すなわち、規約で定める「違約金としての弁護士費用」は、上記最高裁判例の射程範囲外といえます。
したがって、上記規約の定めは上記判例に反するものではなく、規約で定める「違約金としての弁護士費用」は、損害賠償(遅延損害金)とは別に請求することが可能です。
(3)補足・・・「督促及び徴収の諸費用」について
マンション標準管理規約(単棟型)第60条のコメント[注3]に、「支払督促申立その他の法的措置については、それに伴う印紙代、予納切手代、その他の実費」も「督促及び徴収の諸費用」に含まれるような記載がありますが、例えば民事訴訟費用等に関する法律2条に規定されている訴訟費用については、本来、訴訟費用額確定処分によって確定(満足)されるべきことになりますので注意が必要です。
以下に、印紙代・予納郵券代の請求を否定した裁判例を紹介しておきます。
東京地裁平成25年5月17日判決より(出典:ウェストロージャパン) ・・・訴え提起手数料1万6000円及び予納郵券代8080円については、訴訟費用の判断を経て、訴訟費用額確定手続によって満足を得るべきものであるから、訴訟費用の判断とは別にこれを請求することはできない。 |
(弁護士/平松英樹)