<連載第46回>
区分所有者が死亡している場合の
管理費等請求について
2014/10/7
今回は、区分所有者が死亡し(登記上の名義はそのままで)管理費等滞納が発生している場合の管理組合の対応を考えてみましょう。本連載第10回を前提に論じていますので、そちらの回もご参照頂けると幸いです。
相続人がいる場合の管理費等の請求は?
亡くなった区分所有者に相続人がいる場合、登記上の名義(所有者)が前所有者のままとなっていても、管理組合としては相続人に対し管理費等の支払を求めることになります。
一応注意すべきは、①相続開始まで(すなわち被相続人たる区分所有者が死亡するまで)に発生した管理費等支払債務の問題と、②相続開始後(つまり相続人が所有者となった以降)の管理費等支払債務の問題は区別しなければならない、ということです。
すなわち、①相続開始までの未納管理費等については、相続人(包括承継人)の相続債務の問題となり、「債務者が死亡し、相続人が数人ある場合に、被相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するもの」(最高裁昭和34年6月19日判決)と解されていますので、相続人が数人いる場合には、各相続分に応じた債務を負うことになります。
これに対し、②相続開始後の管理費等については、当該マンションの所有者としての支払義務の問題となり、管理費等支払債務は性質上の不可分債務(東京高裁平成20年5月28日判決等)と解されていますので、各共有者は各自全額の支払義務を負うことになります。
管理組合としては、一応そのことを念頭に置き、各相続人に対し管理費等の支払いを求めることになります。
相続人がいない場合の管理費等の請求は?
実務上、相続人となるべき者(民法887条、889条、890条)[注1]の全員が相続放棄しているというケースは少なくありません(本連載第10回参照)。
そのような場合には、相続財産管理人に対し管理費等を請求することになりますが、相続財産管理人は、利害関係人又は検察官の請求によって家庭裁判所が選任します(民法952条)[注2]ので、誰からも請求がなされず、長期にわたって相続財産管理人が選任されないということもあり得ます。
相続財産管理人選任のための「予納金」は戻ってくるのか?
管理組合も「利害関係人」として相続財産管理人選任申立てが可能であり、その手続自体はそれほど難しくありません。
しかし、相続財産管理人選任に際しては、例えば東京家庭裁判所等では「予納金」として100万円程の納付を求められますので、管理組合として申立てをすべきかどうか悩まれるでしょう。
この点、予納金については「いずれ全額戻ってくる」とおっしゃる方もいますが、そのように断定することはできません。
たしかに、相続財産管理人の報酬は相続財産から支払われるという建前になっています。
しかし、相続財産をそれなりの金銭に換価できない場合には、「予納金」が管理人報酬等に充てられ、結局、予納金の全額が戻ってこないということがあります。
例えば、次のようなケースがその例です。
<ケース> マンションの区分所有者(被相続人)は10年以上前に死亡した。その後すぐに管理費等未納が始まっている。当該マンションの未納管理費等は既に500万円以上となっている。 当該区分所有者の相続人となるべき者は全員相続放棄している。 区分所有者死亡から10年以上を経て、管理組合は相続財産管理人選任申立てを行い、予納金100万円を納付した。 相続財産としては当該マンションしか存在しない。 当該マンション(部屋)と同タイプの部屋の市場流通価格は200万円程だが、当該マンション室内の汚損破損が激しく、リフォーム工事(約200万円)を施さない限り、通常の使用すらできない。 |
上記ケースの場合、仮に当該マンションをタダ(0円)で譲り受けたとしてもその人(特定承継人)は、約200万円のリフォーム工事の必要があり且つ未納管理費等約500万円の支払債務を負ってしまいます(区分所有法8条参照)。このようなケースで特定承継人が出現するかどうかはさておき、仮に出現したとしても、管理人報酬等(その他費用含む)に充てられるべき原資は「予納金」のみとなりますので、つまり、このようなケースでは、管理人報酬等が差し引かれた予納金残金しか戻ってきません。
上記ケースについての補足
上記ケースについては隠れた問題点がありますので、少しだけ補足しておきます。ただし上記ケースは実例を参考にしているため、最終的な処理(解決方法)についての言及は控えておきます。
1 消滅時効は?
Q 支払期限から既に5年超経過している未納管理費等債権については、相続財産管理人の時効援用によって消滅するのではないか(民法169条)[注3]
A 「相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない」という規定があります(民法160条)。この条文の解釈については争いがあるようですが、私見としては、上記ケースの場合、管理人が選任されてから六箇月を経過する前に訴訟提起等をすれば時効が中断する(民法147条)[注4]と考えます(東京地裁平成24年4月18日判決参照)。
2 国庫帰属は?
Q そもそも当該マンションを国庫に帰属(民法959条)[注5]させることはできないのか?
A 基本的には相続財産管理人の判断によるのでしょう(民法958条参照)[注6]が、現実的には上記ケースのマンションが国庫に帰属させられることはないでしょう(なお破産法223条以下参照)[注7]。
(弁護士/平松英樹)