<連載第49回>
法人(例えば株式会社)は、
管理組合の「理事長」になれるのか
2014/12/9
問題提起
非法人管理組合の理事長として法人(例えば株式会社)が選任されているマンションが散見されます。他方で、法人は理事長になれないという話も聞きます。
そもそも、法人は、非法人管理組合の理事長になれるのでしょうか。別の言い方をすれば、理事長は自然人でなければならないのでしょうか。
今回はこの問題について検討してみましょう。
以下、建物の区分所有等に関する法律を「区分所有法」、マンション標準管理規約(単棟型)を「標準管理規約」といいます。
理事長とは?
上記問題を検討するにあたり、「理事長」の法的な性格を確認しておく必要があります。
ご承知のように、区分所有法には、管理組合法人の「理事」の規定は存在するものの、非法人管理組合の「理事」の規定は存在せず、もちろん「理事長」の規定もありません。
(1)管理組合法人の理事長とは?
管理組合法人においては「理事」を置かなければならず、「理事」は「管理組合法人を代表」し、理事が数人あるときは各自管理組合法人を代表するのが原則ですが、「規約若しくは集会の決議によって、管理組合法人を代表すべき理事を定め、若しくは数人の理事が共同して管理組合法人を代表すべきことを定め、又は規約の定めに基づき理事の互選によって管理組合法人を代表すべき理事を定めること」を妨げません(区分所有法49条)[注1]ので、実務上、多くの管理組合法人は、「規約」の定めに基づき、「法人を代表すべき理事」を「理事長」として選任しています。
区分所有法上は、非区分所有者でも「理事」になれますが、「規約」により理事の資格を限定(例えば区分所有者に限定)していればその定めに従うことになります。
注意すべきは、この「理事長」という肩書は規約に基づくものであって、法的な意味は「管理組合法人を代表すべき理事」です。
管理組合法人は登記する必要があります(区分所有法47条)[注2]。代表権を有する者を登記しなければなりませんが(組合等登記令2条4号)[注3]、その場合「理事」として登記されるに過ぎず、「理事長」として登記されるわけではありません。
(2)非法人管理組合の理事長とは?
非法人管理組合の「理事」とは規約に基づく役員であり、区分所有法に基づくものではありません。もちろん、「理事長」という役職も規約を根拠とするものです。理事長の法的な性格については、規約の定めに基づいて解釈することになります。
標準管理規約を前提に解釈すると、理事長は管理組合の代表者たる性格を有しています。
ちなみに、非法人管理組合の「管理者」については、区分所有法で規定されており、区分所有法上は「管理者」の資格制限はなく、「非区分所有者」はもちろんのこと「法人」であっても管理者になることが可能です。
法人は「管理組合法人を代表すべき理事」になれるのか?
法人(株式会社等)は「管理組合法人を代表すべき理事」になれるのでしょうか。
現行区分所有法を前提に考えると、「なれない」と解するほかないでしょう。
すなわち、そもそも日本の法体系は本来自然人をもって法人の理事となす主義を採用していると解されること(大審院大正15年(れ)第1446号昭和2年5月19日判決参照)、また現実的(実務的)に法人(株式会社等)を管理組合法人の理事として登記することができないこと等の理由から、法人は管理組合法人の理事になれないと解するほかないでしょう。
この点、例えば、「合同会社等の持分会社は、法人が代表社員になることができる」ということを根拠として、「法人も管理組合法人の理事になれるはず」という意見もあるようですが、そもそも区分所有法には会社法のような特別の規定(会社法598条等)
[注4]が存在しないこと、そしてまた登記制度の違い(持分会社の代表社員が法人である場合には、当該法人が選任した「職務執行者」(自然人)の氏名及び住所が登記される(会社法912条7号、913条9号、914条8号)が、管理組合法人にはそのような制度が設けられていないこと)からすれば、持分会社と管理組合法人を同列に論じるのは妥当でありません。
法人は、非法人管理組合の理事長になれるのか?
では、法人(株式会社等)は「非法人管理組合の理事長」になれるでしょうか。
前述したとおり、非法人管理組合の「理事長」は、規約を根拠とした役職であって、区分所有法に基づくものではありません。
ちなみに、区分所有法上の「管理者」は区分所有者を代理する(区分所有法26条2項)[注5]のであって、管理組合を代表する代表者とは法的性格が異なります。
ここでは、代表者理事長としての側面についてのみ検討します。
この点については様々な見解があり得るでしょうが、私見としては「なれない」と考えます。理由は以下のとおりです。
すなわち、非法人管理組合の代表者としての行為(具体的職務執行や訴訟行為等)についてみると、かかる行為は自然人の行為を前提としていると考えるべきであり、また前述したとおり管理組合法人の代表者は自然人でなければならないところ、管理組合法人と非法人管理組合の実態の類似性を強調すれば、非法人管理組合の代表者も管理組合法人の代表者と同様に解するのが相当といえます。
したがって、法人は代表者理事長になれないと考えます。
ただし、念のため補足しておくと、法人を理事長として選任している場合においては、当該法人を「管理者」として選任しているものと合理的に解釈した上で、当該管理者の各種行為の有効性については区分所有法の各種規定に基づき個別具体的に判断する(結果的に各種行為の有効性を首肯する)ことが可能でしょう。現に、法人(株式会社等)が非法人管理組合の理事長になっているマンションにおいても、大きなトラブルに発展することは少ないようです。
さいごに(非法人管理組合に関する補足)
標準管理規約を前提とすれば、理事長は「理事」の互選により選任されることになります(標準管理規約35条3項)[注6]。そうすると、「理事長」になる(可能性のある)「理事」については本来「自然人」であるのが相当です。
ところで、標準管理規約35条2項[注6]は、「理事及び監事は、組合員のうちから、総会で選任する。」として、理事の資格要件を「組合員」に限定しています。仮に法人関係者(自然人)を理事に選任する場合には、規約の定めを工夫しておく必要があるでしょう。
例えば、「理事及び監事は、組合員(組合員が法人である場合には、当該法人の職務命令を受けた同法人の役員または従業員を含む。)のうちから、総会で選任する。」などとしておくのもよいでしょう。
区分所有法上は、理事(役員)の資格を制限していませんので、規約をもって、非区分所有者に理事(役員)資格を認めることは問題ありません。
付言すると、役員のなり手が少ないマンションでは、標準管理規約35条2項の資格要件を見直し、例えば「区分所有者の配偶者や二親等以内の親族」も理事(役員)になれるように定めていたりしますが、このような定めも区分所有法に反するものではありません。
(弁護士/平松英樹)