<連載第51回>
管理人室の所有を巡るトラブル
2015/2/3
今回は、一棟の建物の中に存在する管理人室の所有に関する問題を検討してみましょう。
検討事項
1 管理人室は専有部分に該当しうるのか(専有部分該当性について)
2 管理人室の登記について
3 対策について
管理人室は専有部分に該当しうるのか(専有部分該当性について)
区分所有法1条は、「一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。」と規定しています。
「区分所有権」とは、区分所有法1条に規定する建物の部分(第4条第2項の規定により共用部分とされたものを除く。)を目的とする所有権をいい、「区分所有権の目的たる建物の部分」を「専有部分」といいます(区分所有法2条)[注1]。
専有部分に該当しうるためには、区分所有法1条に定める要件、すなわち構造上の独立性と利用上の独立性の要件を充足しなければなりません。
難しいのは、その要件を充足するかどうかの具体的判断です。
例えば、最高裁平成5年2月12日第二小法廷判決の事案をみると、原原審(第一審)である東京地裁平成元年3月8日判決においては、「本件管理人室は、隔壁(仕切り壁)、階層(床及び天井)等により独立した物的支配に適する程度に他の部分と遮断され、その範囲が明確であり、かつ社会観念上それ自体として独立の建物としての用途(本件管理人室の場合は居室または事務室)に供することができるような外形を有していることが認められ、構造上及び利用上の独立性を有していることは明らかである。従って、本件管理人室は区分所有法1条の専有部分に該当し、同法4条1項の共用部分に該当しないというべきである。」と判断したのに対し、上告審(最高裁平成5年2月12日第二小法廷判決)においては、後記のとおり利用上の独立性を否定し、結論として区分所有権の目的とならないと判断しています。ちなみに原審(控訴審)の東京高裁平成2年6月25日判決においては、「本件管理人室は、本件マンションの区分所有者の利益のために必要な存在であるという性質を有しており、また、それ自体として住居、事務所その他の独立した建物としての用途に供するには適しておらず、むしろ、本件管理事務室と一体として本件マンション全体の管理に使われるのがその最も自然な用途なのであるから、本件管理人室は利用上の独立性を有していないと認めるのが相当である。したがって、本件管理人室は、建物の区分所有等に関する法律4条1項の共用部分ということになるから、区分所有権の目的とはならず、控訴人らを含む本件マンションの区分所有者全員の共用に属すべきものである。」と判断しています。
最高裁平成5年2月12日第二小法廷判決より ・・・本件マンションは、比較的規模が大きく、居宅の専有部分が大部分を占めており、したがって、本件マンションにおいては、区分所有者の居住生活を円滑にし、その環境の維持保全を図るため、その業務に当たる管理人を常駐させ、多岐にわたる管理業務の遂行に当たらせる必要があるというべきであるところ、本件マンションの玄関に接する共用部分である管理事務室のみでは、管理人を常駐させてその業務を適切かつ円滑に遂行させることが困難であることは右認定事実から明らかであるから、本件管理人室は管理事務室と合わせて一体として利用することが予定されていたものというべきであり、両室は機能的にこれを分離することができないものといわなければならない。そうすると、本件管理人室には、構造上の独立性があるとしても、利用上の独立性はないというべきであり、本件管理人室は、区分所有権の目的とならないものと解するのが相当である。 |
管理人室については、一般に「利用上の独立性」の判断が難しいといえます。もし、利用上の独立性がないということであれば、区分所有権の目的(専有部分)となり得ませんので、その管理人室は当然の共用部分(区分所有法4条1項)ということになります(東京高裁平成2年6月25日判決参照)。
管理人室の登記について
(1)管理人室が法定共用部分である場合
管理人室が法定共用部分(区分所有法4条1項)[注2]にあたる場合には、そもそも区分所有権の目的とすることはできません。仮に、区分所有権の保存登記や移転登記がなされても、実体法的に無効と解されます。
したがって、仮に第三者が所有権に関する登記を経たとしても、管理組合側(区分所有者側)は当該登記(所有権保存登記や所有権移転登記)の抹消登記手続を請求することが可能といえます(東京地裁平成24年8月29日判決参照)。
(2)管理人室が専有部分に該当しうる場合
もし管理人室が区分所有権の目的となる場合には、その「区分所有権」の移転もあり得ます。
ただし、区分所有権の目的となりうる建物の部分も、「規約により共用部分とする」ことができます(区分所有法4条2項)[注2]。
そして、「規約共用部分である旨の登記」をすることもできます(不動産登記法58条)[注3]。
ア 規約共用部分である旨の登記がある場合
もし規約共用部分である旨の登記がなされていれば、所有権を主張する第三者が現れても共用部分である旨を対抗(主張)できます。
イ 規約共用部分である旨の登記がない場合
規約により共用部分とされているにもかかわらずその旨の登記がなされていない場合には、管理組合側(区分所有者側)はその旨を第三者に対抗することができません(区分所有法4条2項[注2]。なお民法177条[注4]参照)。
もっとも、「民法177条にいう第三者については、一般的にはその善意・悪意を問わないものであるが、実体上物権変動があった事実を知る者において、同物権変動についての登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情がある場合には、登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有しないものであって、このような背信的悪意者は、民法177条にいう第三者に当たらないもの」と解されています(最高裁平成18年1月17日第三小法廷判決等)。
そして、このような背信的悪意者排除論は、規約共用部分の登記に関しても当てはまると解されますので、もし第三者が背信的悪意者にあたる場合には、管理組合側(区分所有者側)は、規約共用部分であることを当該第三者に対抗(主張)することが可能です(東京高裁平成21年8月6日判決参照)。
対策について
管理人室については、まれに分譲主名義で所有権保存登記がされていることがあります。さらには所有権移転登記が経由されていることもあります。そのようなマンションでは、将来、トラブルに発展する可能性があります。
そこで、もし当該管理人室が共用部分(法定共用部分ないし規約共用部分)に該当するという共通認識があるのであれば、早めに対応(可能であれば、抹消登記手続や規約共用部分である旨の登記など)しておいた方がよいでしょう。
万一、区分所有権の目的となりうる管理人室(規約共用部分)について、その旨の登記(不動産登記法58条)がなされていないとき第三者(背信的悪意者を除く)が現れてしまうと非常に面倒となります。たしかに、そのような管理人室にはもともと敷地利用権が設定されていないこともあり、その場合には区分所有権売渡請求権(区分所有法10条)[注5]を行使する方法も考えられますが、それによる解決も容易ではありません。区分所有権売渡請求が可能であったとしても、少なくとも「区分所有権の時価」を巡る争いは避けられないでしょう。
(弁護士/平松英樹)