<連載第57回>
代理人による議決権行使について
2016/6/24
今回は、区分所有法39条2項[注1]と平成28年改正マンション標準管理規約(単棟型)第46条5項(なお(団地型)第48条5項・(複合用途型)第50条5項)[注2]の関係について検討してみましょう。
区分所有法39条2項について
区分所有法39条2項は、「議決権は、書面で、又は代理人によって行使することができる。」と規定しています。
書面による議決権行使及び代理人による議決権行使は、法律(区分所有法39条2項)によって認められている権利行使方法です。
この「書面による議決権行使」や「代理人による議決権行使」を一切認めないような規約の規定は無効と解されます。
代理人資格の制限について
区分所有法上、「代理人」の資格について特に制限はありません。
そのため、仮に規約に何ら規定がなければ、原則として誰でも(当該マンションの維持管理に何ら利害関係を有しない第三者でも)代理人となることができます。
ただし、無制限の代理人が総会に出席(参加)すると、場合によっては総会が撹乱されたり、円滑な審議が妨げられたりすることもあるでしょう。管理組合(それを構成する組合員)の利益のため、合理的な範囲で代理人資格を制限する必要性もあるでしょう。
そこで、各マンションの管理規約によって、代理人資格を相当程度の範囲に制限しておくことも認められる(有効である)と解されます(会社における最高裁昭和43年11月1日判決参照
[注3])。
具体的な制限について
では、代理人資格について、どのような範囲に制限しておくのが妥当でしょうか。
この点については、平成28年改正の標準管理規約[注2]が参考になります。具体的には次のとおりです。
組合員が代理人により議決権を行使しようとする場合において、その代理人は、以下の各号に掲げる者でなければならない。 一 その組合員の配偶者(婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)又は一親等の親族 二 その組合員の住戸に同居する親族 三 他の組合員 |
上記のように、平成28年改正の標準管理規約では、例えば借家人(=その組合員の住戸を借り受けた者)が除外されています。そもそも、借家人の利害が区分所有者の利害と一致するとはいえないでしょうし、むしろ利害が相反することもあるからです。
この点、「マンションの新たな管理ルールに関する検討会報告書(平成27年3月)」[注4]によれば、「借家人と区分所有者で利害が相反する場合」として次のような例が挙げられています。
・区分所有者が建物の大規模修繕を行おうとする場合、借家人が工事に伴い発生する騒音を理由に反対する場合
・区分所有者が建替えを行おうとする場合、借家人が安い家賃の住戸を退去せざるを得なくなることを理由に反対する場合 等
標準管理規約の規定の変遷と実務上の注意点
1 平成23年改正前のマンション標準管理規約(単棟型)においては、「組合員が代理人により議決権を行使しようとする場合において、その代理人は、その組合員と同居する者若しくはその組合員の住戸を借り受けた者、又は他の組合員若しくはその組合員と同居する者でなければならない。」と規定されていました。
2 平成23年改正後(平成28年改正前)の標準管理規約においては、上記に該当する資格制限規定が削除されました。
3 今回(平成28年)の標準管理規約の改正により、あらためて資格制限規定[注2]が設けられました。
4 標準管理規約の改正によって、皆さんの管理規約が当然に変更されるわけではありません。
もし、皆さんの管理規約が平成23年改正前のマンション標準管理規約のような規定(上記1)となっていれば、借家人も代理人になることができます。
もし、皆さんの管理規約が代理人資格制限規定を設けていないとすれば、基本的には誰でも代理人になれるということです。
仮に管理規約を変更したいのであれば、正式に総会の特別決議(区分所有法31条)を経る必要があります。国土交通省による標準管理規約の見直し(改正)によって、皆さんの管理規約の変更の効果が生じるわけではありません。
(弁護士/平松英樹)