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弁護士平松英樹のマンション管理論

<連載第58回>

区分所有法17条1項(共用部分の変更)に関する規約の定め

2017/1/6

今回は、区分所有法17条1項(共用部分の変更)に関する規約の定めの解釈を巡るトラブルを取り上げてみましょう。次のような設例をもとに検討してみましょう。

設例

私たちのマンション(当マンション)は分譲後約20年が経過しています。

当マンションの管理規約は、平成9年頃の中高層共同住宅標準管理規約(単棟型)に準拠して制定されています。

これまで規約の変更を行っていませんので、「敷地及び共用部分等の変更(改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないものを除く。)」に関する総会の議事は「組合員総数の4分の3以上及び議決権総数の4分の3以上で決する。」という規定のままになっています(平成9年2月建設省(当時)発表の中高層共同住宅標準管理規約(単棟型)45条3項2号参照)。

当マンションでは、今後、共用部分の工事を実施する予定です。現在の共用部分の構造が少し変わる改良工事といえます。また、工事費用は全体で1億円を超える見込みです。ちなみに当マンションは100戸の専有部分が存在します。

このような工事を実施する場合、特別決議を経る必要がありますか?それとも普通決議で足りますか?

もし、現行区分所有法17条1項に基づくならば、上記工事は普通決議で足りると考えますが、いかがでしょうか?

区分所有法17条1項と参考裁判例

まずは、区分所有法17条1項と参考になりそうな裁判例を確認しておきましょう。

【平成14年改正後の区分所有法17条1項】

(共用部分の変更)
第十七条 共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。
2 ・・・以下略・・・

【平成14年改正前の区分所有法17条1項】

(共用部分の変更)
第十七条 共用部分の変更(改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。
2 ・・・以下略・・・

【札幌高裁平成21年2月27日判決(出典:判例タイムズ1304号204頁)】

 区分所有法17条1項は、「共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)」が特別決議事項であると定めている。ここにいう「共用部分の変更」は、その文言から明らかなように、「形状又は効用の著しい変更を伴」うものである。したがって、本件管理規約46条3項2号の「敷地及び共用部分の変更」も、区分所有法17条1項と同じく、「形状又は効用の著しい変更を伴」うものであると解され、さらに、本件管理規約においては、「形状又は効用の著しい変更を伴」うものであっても、「改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないもの」については、特別決議事項から除外されていると解すべきである。

上記札幌高裁の判断によれば、次のような枠組みになるものと思われます。

① 「共用部分の変更」とは、「形状又は効用の著しい変更を伴」うものである。
② 上記①に該当しないのであれば普通決議で足りる。
③ 「形状又は効用の著しい変更を伴」うものであっても、本件の管理規約の規定によって、「改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないもの」であれば特別決議事項から除外される []。

仮に、上記の判断枠組みに従うならば、設例のケースにおいても、①まず「形状又は効用の著しい変更」を伴うかどうかがポイントとなり、②もし「形状又は効用の著しい変更」を伴わない場合には、「著しく多額の費用」を要するものであったとしても普通決議で足りると解することができるでしょう。

ただし、私見は以下のとおりです。

私見

1 平成14年改正前の旧区分所有法17条1項の解釈について

もともと旧区分所有法17条1項については、「共用部分の変更について、その形状または効用の著しい変更を伴わないものであっても、著しく多額の費用を要する共用部分の加工行為を実施するには、区分所有者および議決権の各4分の3以上の特別多数決議を経ることを必要としている。」と解釈されていました(稻本洋之助・鎌野邦樹編『コンメンタールマンション区分所有法[第3版]』(日本評論社、2015年3月)102頁)。

例えば、経年劣化に伴う大規模修繕工事について、旧法のもとでは費用面において特別決議が必要と解されることが多かったでしょう。

2 議決要件の厳格化について

現行法のもとでは(費用面の要素が外されたことから)、著しい変更を伴わなければ普通決議で足りると解することが可能になりました。ただし、現行法上は普通決議で足りると解される軽微変更であったとしても、規約をもって、あえて議決要件を厳格化すること(例えば特別決議を要するとすること)は理論的には有効と考えられます(区分所有法18条2項)(稻本洋之助・鎌野邦樹編『コンメンタールマンション区分所有法[第3版]』(日本評論社、2015年3月)115頁参照)。

つまり、軽微変更であったとしても、「著しく多額の費用」を要する変更については特別決議を要する、というような規約の定めは有効であると解されます。

そこで、当マンションにおいて、議決要件を厳格化しているといえるかどうかが問題となります。

3 当マンション区分所有者の団体の意思解釈

当マンション管理規約の当該規定に積極的な意義を持たせているのであれば、軽微変更であっても、「著しく多額の費用を要する共用部分の加工行為を実施するには、区分所有者および議決権の各4分の3以上の特別多数決議」を要するという解釈につながるでしょう。

もし、そのような解釈が区分所有者の意思に反するというのであれば、区分所有者の総会において規約改正決議(区分所有法31条1項)を経ればよいのです。

規約を改正しない(当該規定をそのまま維持する)ということは、当該規定に積極的意義を持たせているものと考えられます。そうなると、著しく多額の費用を要する共用部分の加工行為を実施するには特別多数決議を経るべきということになります。

なお、「著しく多額の費用」といえるかどうかの判断は、各マンションの具体の事情に応じて個別に行われます。一般的にいえば、個々の組合員が負担しなければならない費用の多寡を基本としつつ、修繕積立金の積立額の大小、組合員の平均的資力などを総合的に加味して個々的に判断することになります(民間住宅行政研究会編著『《改訂版》中高層共同住宅標準管理規約の解説』建設省住宅局民間住宅課監修(大成出版社、1999年)186頁参照)。

当マンションにおいてもそのような要素(事情)を総合的に加味して判断することになります。

4 結論

当マンションの積立額等や組合員の平均的資力などは不明ですが、1戸当たり100万円相当の工事費用については、「著しく多額の費用」と判断されるケースが多いでしょう。そのため、設例のケースでは、特別決議を経る必要があると考えておいたほうがよいでしょう。

(弁護士/平松英樹)



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注釈 NOTE

注: 札幌高裁判決は、現行区分所有法17条1項本文でいう「その形状又は効用の著しい変更を伴」うような「共用部分の変更」であっても、「改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないもの」については特別決議事項から除外するという解釈のようです。
 このような解釈は、結果的に、普通決議で足りるとする範囲を拡大しているようにも思われます。
 しかし、実際の札幌高裁の事案では、「形状又は効用の著しい変更」に該当しないために普通決議で足りるという結論が導かれたに過ぎません。
 そもそも、現行区分所有法の下では、「形状又は効用の著しい変更を伴」う共用部分の変更であれば原則として特別決議を経るべきであり、例外は区分所有法17条1項ただし書の場合だけのはずです。具体的にいえば、「その形状又は効用の著しい変更を伴」うような「共用部分の変更」は、区分所有者の定数要件のみ「過半数」まで減ずることができるものの、「議決権」については「総数の4分の3」未満に減ずることはできないはずです(同条項ただし書)。
 「形状又は効用の著しい変更」を伴うものであっても「改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないもの」であれば普通決議で足りると言い切るには問題があるように思われます。

筆者紹介 PROFILE

平松英樹(ひらまつ・ひでき)

弁護士、マンション管理士。1968年(昭和43年)生まれ、1991年(平成3年)年早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1丁目14番5号土屋ビル4階)、東京都マンション管理士会などに所属。マンション管理、不動産取引・賃貸借(借地借家)問題を中心とした不動産法務を専門とし、マンション管理、不動産販売・賃貸管理、建築請負会社等の顧問先に対するリーガルサービスに定評がある。実務担当者を対象とする講演、執筆等の実績多数。著書に『わかりやすいマンション管理組合・管理会社のためのマンション標準管理規約改正の概要とポイント』(住宅新報社)ほか。