<連載第59回>
監事が招集する総会や理事会の議長について
2017/7/25
今回は、次のような質問をもとに、監事が招集する総会や理事会の議長について検討してみましょう。
質問
私たちのマンションの管理組合は法人化していませんが、管理規約をもって「監事」を設置することとしています。管理規約の内容については、平成28年3月公表のマンション標準管理規約(単棟型)(以下、単に「管理規約」といいます)に準拠しています。
すなわち、管理規約41条は次のように定められています。
管理規約41条3項に基づく臨時総会や管理規約41条7項に基づく理事会の議長は誰が務めることになるのでしょうか。
(監事) 第41条 監事は、管理組合の業務の執行及び財産の状況を監査し、その結果を総会に報告しなければならない。 2 監事は、いつでも、理事及び第38条第1項第二号に規定する職員に対して業務の報告を求め、又は業務及び財産の状況の調査をすることができる。 3 監事は、管理組合の業務の執行及び財産の状況について不正があると認めるときは、臨時総会を招集することができる。 4 監事は、理事会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない。 5 監事は、理事が不正の行為をし、若しくは当該行為をするおそれがあると認めるとき、又は法令、規約、使用細則等、総会の決議若しくは理事会の決議に違反する事実若しくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を理事会に報告しなければならない。 6 監事は、前項に規定する場合において、必要があると認めるときは、理事長に対し、理事会の招集を請求することができる。 7 前項の規定による請求があった日から5日以内に、その請求があった日から2週間以内の日を理事会の日とする理事会の招集の通知が発せられない場合は、その請求をした監事は、理事会を招集することができる。 |
検討
1 監事招集総会の議長について
(1)問題の所在
総会の議長に関しては、管理規約42条5項[注1]や管理規約44条3項[注2]に定められています。
管理規約42条5項によれば、「総会の議長は、理事長が務める。」と規定されており、管理規約44条3項によれば、組合員の総会招集権に基づく臨時総会(管理規約44条1項、2項)においては「第42条第5項にかかわらず、議長は、総会に出席した組合員(書面又は代理人によって議決権を行使する者を含む。)の議決権の過半数をもって、組合員の中から選任する。」と規定されています。
他方で、監事招集総会については、管理規約44条3項のような規定がありません。そこで、監事が招集する「総会の議長」については、どのように考えるべきでしょうか。
(2)私見
管理規約を制定している当該団体の意思を探求し、当該規約の解釈として監事招集総会の議長は理事長が務めるというものであれば、その規約の規定の適用がある(つまり理事長が議長を務める)と考えます。ただし、当該総会において議長選任決議があれば、その決議のほうが優先しますので、結局、実際の総会において議長を選任すれば足りると考えます。
この点、監事招集総会の議長については管理規約42条5項のような規定は適用されないと考える見解があります。
しかし、私見は、この点についても団体自治の範囲内の問題と考え、「監事招集総会の議長は理事長が務める」というような規定自体を違法・無効と解する必要はないと考えます。
例えば、ご質問者のマンションにおいて、「監事招集総会の議長は理事長が務める」旨の規約変更決議(区分所有法31条1項)がなされたとして、ある区分所有者が、その決議の無効確認を求めて訴えを提起したとしても、裁判所がそれを認容することはないと思います。そのような規約の定めが存在していても、当該総会において別段の決議をして議長を選任することは可能と解されるからです(区分所有法41条)[注3]。
通常、監事招集総会においては当該監事が議長に選任されると思いますが、そうでない場合(総会で議長が選任されない場合)には、規約で定められている議長が議事運営を主宰すればよいでしょう。
ちなみに、当該総会において、理事長が議長として選任決議された場合も、その選任決議自体を無効と解する必要はないでしょう(後記補足の最終段落参照)。
2 監事招集理事会の議長について
(1)問題の所在
理事会の議長については、管理規約51条3項[注4]に定められています。
管理規約51条3項によれば、「理事会の議長は、理事長が務める」と規定されています。
ところで、監事招集理事会は、もともと「理事が不正の行為をし、若しくは当該行為をするおそれがあると認めるとき」等の場合において、監事から理事長に対し理事会の招集を請求したにもかかわらず理事会招集通知が発せられない場合に招集されるものです。そのような理事会の議長を理事長が務めることが妥当なのかという疑問が生じますが、どのように考えるべきでしょうか。
(2)私見
管理規約を制定している当該団体の意思を探求し、当該規約の解釈として、監事招集理事会の議長は理事長が務めるというものであれば、その規約の規定の適用がある(つまり理事長が議長を務める)と考えます。ただし、当該理事会において、別の理事が議長に選任されれば、その理事が議長を務めることになります。
この点、監事招集理事会の議長については、管理規約51条3項のような規定は適用されないと考える見解があります。しかし、私見としては、そのような規定を管理規約に置くこと自体を違法・無効と解する必要はないと考えます。そのような規約の定めが存在していても、実際の理事会において、別の理事を議長に選任することは可能と解されるからです。
なお、「決議」につき「特別の利害関係を有する理事」は議決に加わることができません(管理規約53条3項)[注5]。そのため、特別利害関係を有する理事が議長を務めることができるかどうかという問題は生じます。この点については見解が分かれていますが、私見としては、特別利害関係を有する理事は議長となることができないと考えますので、もし「理事長」が「特別の利害関係」を有している場合には、別の「理事」を議長として選任する必要があります。
ちなみに、「監事」は理事会を構成する「理事」ではありませんし、理事会の議決に加わることもできませんので、監事が理事会の議長になることは不適当と考えます。
補足
上記のとおり、理事会において、決議に特別利害関係を有する理事は議決に加わることができません。
他方、総会において、決議に利害関係を有する区分所有者も、他の区分所有者と同様に議決に加わることが可能です。
「理事」は、団体に対し、受任者としての善管注意義務(民法644条)[注6]を負っていますが、「区分所有者」はこのような義務を負っているわけではありません。このような義務の存否の点からも、監事招集理事会と監事招集総会の議長の範囲の解釈に多少違いが生じてきます。
なお、理事長による総会議事進行手続に著しい問題(瑕疵)がある場合には、本来の「会議の目的たる事項」(区分所有法35条1項)の決議無効を招来することはあり得ますが、それは、理事長が監事招集総会の議長になれるかという問題とは別の問題に起因するといえます。
(弁護士/平松英樹)