管理組合の運営妨害は「共同の利益」に違反するか
2012/5/1
管理組合会計の期首はマンションの分譲開始時期によって異なりますが、春先の引っ越しシーズンにあわせて竣工・入居を迎え、3月が期末となる多くのマンションでは、5月から6月にかけてのいわゆる総会シーズンが定期総会の開催時期となります。
管理組合の役員にとって、総会を開催するだけでもかなりの時間と労力が必要となりますが、理事会提案に強く反対する組合員がいるような場合、その心労はさらに増すことでしょう。最終的には、民主的なルールに基づいて多数決で可否を問うほかに解決策はないのですが、ルールを無視した妨害活動を公然と行う反対者がいると、混乱の収束はかなり困難となります。
管理組合運営に対する妨害行為として、残念ながらよくある話が「怪文書」の配布です。特定の個人を中傷する、根拠もなく不正行為呼ばわりする、自分に都合のいい事実のみ挙げて正当化を図る、場合によっては事実を歪曲して宣伝するなど、内容はさまざまであっても自論の一方的な主張に、話し合いによる解決を望む姿勢はみられないのが普通です。その主張がかりに正しかったとしても、こうした手法は認められるべきではありません。
悪質な中傷文書の配布などを繰り返す妨害行為に対し、業を煮やした管理組合が訴訟により差し止めを求めようとしても、これまでは法的根拠があいまいでした。
しかし、ことし1月の最高裁判決で、妨害行為により管理組合の運営が困難となる事態が生じているような場合、区分所有法第6条第1項に基づく「区分所有者の共同の利益に反する行為」と判断する余地があるとの見解が初めて示されました。
共同利益違反行為に関する最高裁判例
今回争われた「名誉毀損文書頒布行為等停止請求事件」の概要は次のとおりです。
神奈川県内のマンションで、ある区分所有者は、管理組合役員が修繕積立金を勝手に運用したなどとして役員を中傷する文書を繰り返し配布し、マンションの補修工事を受注した業者に対しても工事の辞退を求めるなどの業務妨害を続けていました。
そこで、同マンション管理組合の理事長は、こうした管理組合の運営を妨害する行為は、区分所有法にいう「共同の利益に反する行為」にあたるとして、妨害行為の停止を求める訴訟を提起しました。
東京高等裁判所による判決では、「共同の利益に反する行為」とは、騒音、振動、悪臭の発散など建物の管理または使用に関するものであるとし、中傷文書の配布などはこれには当たらないと判断しました。また、マンション関係者に迷惑が及んでいるものの、これについては被害を受けた者それぞれが、差止請求または損害賠償請求等の手段を講ずればよいとされました。[注1]
今回、これに対して最高裁判所が新たな見解を示し、高裁の判決を破棄し差し戻しとしました。[注2]
最高裁は、区分所有者による一連の行為は特定の個人に対する中傷を超えるもので、総会で正当に議決された工事の円滑な進行が妨げられ、役員に就任しようとする者がいなくなるなど、管理組合の業務の遂行や運営に支障が生じていると判断しました。そのうえで、マンションの正常な管理または使用が阻害される場合には、中傷文書の配布等の妨害行為は「共同の利益に反する行為」にあたるとみる余地があるとしたのです。
この判決をもってマンションにおける「共同の利益」の解釈が無限に広がったわけではありません。中傷文書配布などの妨害行為により、管理組合運営が具体的にどの程度支障をうけたかによって、「共同の利益」に反するかどうかの判断は変わると考えられるので注意が必要です。
しかし、悪意をもった妨害行為に対し、毅然とした対応をとることが望まれる場合があります。こうしたとき、管理組合として対抗措置をとるための法的根拠と判断基準が示されたことには大きな意味があるといえるでしょう。
(マンョン管理士/波形昭彦)