専有部分の修繕ルールの策定
2013/1/15
理事会で最も困難といわれる一つの業務があります。それは、専有部分のリフォーム申請が理事会に提出されたとき、承認をしていいのかそれとも問題点等を指摘すべきなのか、という業務です。
普通のマンションの理事会では、承認してよいリフォームと、指摘や確認が必要なリフォームとの判別を、即時に判断するのは本当に困難です。これは、マンション管理士が顧問に入っていても同じです。マンション管理士は共用部分には非常に詳しいですが、いざ専有部分内となるとそこまで研究しているマンション管理士は少ないのです。
ある理事会で、内容をよく見ずに大丈夫だろうとしてリフォーム申請を承認してしまい、あとでクレームの嵐となった事例をご紹介します。
スケルトンリフォームの申請
このマンションは、専有部分のフローリングの床下にシンダーコンクリートが敷いてありました。当時の施工では、スラブの打設の精度が低く、結果としてシンダーコンクリートで水平にする必要があったようです。そして、このシンダーコンクリートの中に排水管、給水管が埋め込まれていて、専有部分の配管を交換しようとすると、これらを壊して取り出す必要がありました。
理事会では、申請書にはただ配管をやりかえるということしか書いておらず、上下左右の住民に声掛けをするようにという指示もしませんでした。いざ、工事開始となって、さあ大変です。上下左右どころか、他の部屋の住民も、シンダーコンクリートを壊す振動、音にびっくりして、すぐに多くの苦情がその部屋に集中しました。しかし、業者さんは理事会が認めた工事だから、ということで簡易に説明を行い、工事を続けました。
当然の結果として、理事会は他の住民からのクレームの対応におわれたという話です。
やってはいけないリフォームを見逃さない
この他に、リフォーム申請を安易に認めてしまい、排水管洗浄ができなくなった、規約違反のディスポーザをつけて漏水させた、安い糊を使われてシックハウス症候群になってしまった、給水管がすぐに錆びた、マンション全体でガスの出が悪くなった、テレビが映らなくなった、無線LANが混線するようになったという事例もあります。
専有部分のリフォームは、マンションである以上、近隣への影響も視野に入れて注意して行う必要がありますが、ささいなことでも見逃すと大きな事件になりかねません。そして、リフォーム業者も、全ての業者がマンションのことを熟知しているわけではありません。
皆さんが、自分のマンションを心地良く住み続けていくには、自分たちのマンションでやっていいリフォームと、やってはいけないリフォームを勉強し、それを正しくリフォーム業者に伝える必要があります。
そのためには、理事会で、施工者から提出してもらう図面や仕様書、工程書をあらかじめ決めておくことと、それを見て、承認していい工事かどうかを判別する見識をもつことが必要です。一朝一夕にはいかないでしょうが、マンション管理士がルール策定のお手伝いすることもできますので、ぜひご活用ください。[注]
最近は、地震対策のため家具転倒防止で壁の中に固定器具を打ち込みたいとか、バリアフリーでトイレや廊下に手すりを取り付けたいなどの要望も増えています。こうした簡単にみえる工事でも、実は共用部分の壁に穴を開けて固定するような場合もありますので、専有部分のリフォームのルールをあらかじめ策定しておくことが望ましいのです。
平和に最大のメリットのあるリフォームをするために、ぜひ専有部分の修繕ルールを策定しましょう。
(マンション管理士/戸部素尚)