総会の出席票・委任状・議決権行使書(2/2)
2013/6/11
(前ページからの続き)
その7 委任状と議決権行使書を提出していて、議決権行使書の全部またはいくつかに空欄があるケース
これも非常に悩みます。「その2」の場合と同じく、議決権行使書を優先して取り扱いますが、議決権行使がされていない議案について、委任状の適用をするかどうかが問題となります。
通常、総会の開催後すぐに総会の成立要件を確認しますが、本来は、議案ごとに総会の成立要件を確認して、出席者と議決権を数えるのが正式なパターンです。そう考えれば、議案ごとに「書面で議決権を行使する」か、書面にない部分を補完する役割として「委任状が有効」と解釈してもよさそうです。私は、このように解釈することが多いですが、一応本人に確認することとしています。
逆に、委任状よりも議決権行使書が優先されるのならば、空欄の場合には、意思が決定できないとして「棄権票」(反対票)に投じるという考え方もできます。
したがって、ここでも悩まないように、議決権行使書の注記として「全部が記入されていない場合には、書き忘れとして、委任状に記載がある場合は委任状を優先し、委任状に記載がない場合には全議案反対として取り扱います。一部のみ記入されていない場合には、棄権とみなし、反対票として取り扱います。」と記載すべきしょう。
よく「賛成票としてはいけないのか」という質問もありますが、賛成とは積極的な意思表示ですので、「記載がない」「よくわからない」=「賛成ではない」のです。ですから、反対票として取り扱うほかはありませんので、気をつけましょう。
その8 委任状に記載された部屋番号と受任者の名前が一致しないケース
あまりないですが、部屋番号と受任者が一致せず、特定できないケースもあります。また、一番混乱するのが、部屋番号も存在し、違う部屋番号に一致した名前もあるケースです。部屋番号を信じるのか、名前を信じるのか、非常に悩みますが、もちろん、相手が指定できない以上、無効ですからきちんと確認しましょう。
その9 総会の審議中に、委任状を提出してきたケース
あまりないケースですが、議事を審議している最中に委任状を提出してきた場合です。考えられるのは、とてももめている管理組合で、ある組合員が各所から委任状を集めて回って総会の成立を無しにしようとたくらんだような場合です。でも結局総会は成立してしまって、第一号議案のところでまとめて委任状を提出してきた場合に、管理組合として受け取るべきか受け取らざるべきか、ということになります。
ここまでくるとドラマのようですが、それはともかく、既述のとおり、また区分所有法第39条に「集会の議事は、この法律又は規約に別段の定めがない限り、区分所有者及び議決権の各過半数で決する」との規定がありますので、議事ごとに判断することとなります。
通常の場合には、たった2時間程度の総会ですから、途中退室や途中参加も、せいぜい1人や2人です。なので、第1号議案の前に、総会成立の要件確認として、議決権行使書や出席者の数を数えて報告するわけですが、もっと厳密にいえば、それぞれの議案ごとにカウントすることが望ましいと言えます。
ですから、その議事を審議するときに委任状等があればいいわけです。また、第39条第2項には「議決権は、書面で、又は代理人によって行使することができる」とありますので、議決権を行使する場というのはつまり、議長が「賛成か反対か、賛成の方は挙手をお願い致します」と採決するタイミングであることが窺えます(どこにも書いてありませんが私見です)。
もっと詳しく言いますと、
@各議案の説明前に出席者数を再確認し、
A議事を行う(説明から、質疑応答、議決権を行使するところまでを一貫して議事という)
という流れになります。
乱暴な話ですが、議決権を行使するとき、つまり挙手するタイミングの直前で委任状が提出されていれば、総会の成立の出席者数より議決権行使者数の方が大きくなっても、議決権の行使がされたといえます。
常識的には、出席者数よりも議決権行使者数の方が多いということ自体があり得ませんが、途中退席や途中入室も考えられるので、一応は理由付けができ無効とはいいきれないと思います。ただし、レアケースなので(現実にはありましたが)、あまり考えなくてもいいと思います。
その10 委任状や議決権行使書を提出したあと、総会開催日前に死亡又は引越しをしてしまったケース
これまた、あり得ないと思いがちですが、実際に数件ありました。
委任者の死亡の場合には、民法でも書いてあるとおり、委任の契約は無効となりますので、悩む余地はありません。しかし、引っ越しの場合には、どうすればよいでしょう。
総会の招集通知は、旧区分所有者に出し、回答も旧区分所有者から。しかし、総会開催日における、議決権の行使者としては新区分所有者であるという、非常に悩むケースです。
区分所有法では、第61条第7項に建替えに関する事項がありますが、その中に「決議に賛成した区分所有者(その承継人を含む。以下この条において「決議賛成者」という。)」とあることから、建替えは、区分所有者が変わった後でも拘束するぞ、という強い意志が働いていますが、通常の総会の場合には、そこまで強い意志は必要ありませんから、委任者が交代すれば、当然に無効となり、もう一度出席票や委任状、議決権行使書をもらう必要があります。
前述の通り、属人的なものが委任であるという記載の通り、委任者もまた変更となれば、無効となるのだということも覚えておきましょう。
その11 議案書に委任状だけで、議決権行使書がそもそも添付されていないケース
議決権行使書が添付されていない場合には、管理規約をよく読み、「書面で議決権を行使することができる」と書いてあれば、自分で作成して提出することができます。メモ書きでも、きちんと浄書しても、形式はどうあれ自由に作成することができます。
以上のように、委任状一つとっても、取り扱いには非常に知識が必要です。現場で悩まないように、すっきりした出席票・委任状・議決権行使書を作成しておきたいものです。
私は、一応自分なりのフォームを確立していますが(経験によって注記が増えてきました)、基本的にはその組合の方式を採用することにしています。相談があれば参考までにフォームを提出することもあります。お見せすると「あまり細かい記載は不要だ」という組合さんが多いですが、「勉強になる」と参考資料としては重宝されています。
管理規約を改定するような場合には、総会の出席票・委任状・議決権行使書についても見直してみるといいかもしれません。
(マンション管理士/戸部素尚)