マンション防音の基礎知識
2012/7/3
自分は気にならない音でも、周りの人はうるさいと感じているかもしれません。さまざなライフスタイルが集まるマンションでは、周りに対する気配りがコミュニティーを形成するうえでも欠かせません。
建物の防音性能に対する要求は、「学校・戸建住宅」<「ホテル・病院」<「集合住宅」の順に高くなります。音の感じ方には感覚的、気分的なところがあり、数値的には同じ音でも、場所や空間によって聞こえ方は変わるからです。
つまり、音の受忍限度は「戸建て」より「集合住宅」のほうが低いことが分かります。身内の発する音より、他人の発する音のほうが、ガマンできる度合いが低いのです。良好なコミュニティーが形成されているマンションでは騒音トラブルが少ないといいますが、これは居住者間の他人意識が薄れ、受忍限度が高くなった結果といえるでしょう。
以下に、マンションにおける防音を考えるうえでの基礎知識をまとめました。なお、データは日本建築学会編「建築物の遮音性能基準と設計指針[第二版]」より引用しました。
音の大きさ
音とは空気の振動です。ただし、振動として固体や液体の中も伝わります。音は伝わり方により「空気音」と「固体音」があります。
音の大きさは「音圧」によって決まり、dB(デシベル)と言う単位で表されます。物理的には、20dBは10dBの10倍の音圧がありますが、人間の耳には約2倍にしか聞こえません。
音の強さ(大きさ)は距離の二乗に反比例します。従って距離が2倍になれば音の強さは4分の1になります。音の高さは Hz(ヘルツ)と言う単位(周波数と言い、1秒間あたりの振動数)で表され、普通の人が聞こえる範囲は20Hz〜20,000Hzといわれています。
防音には以下の方法があり、音源および建物の用途や構造により、最適な方法を組み合わせて使います。
@遮音:
壁等で音を遮り、反射します。
例)コンクリート壁、遮音シートなど面密度(比重)が大きいもの
A吸音:
音を吸収して低減します。
例)グラスウール、ロックウール、スポンジなど多孔質なもの
B制振:
振動を止めて振動による音の発生を防ぎます。
特殊な例です。
C防振:
振動を与えないようにして、振動による音の発生、伝達を防ぎます。
例)二重床の柄の足元、空調室外機、洗濯機等の足元の防振ゴム
空気音に対する防音
空気音の防音性能は「どれだけ音を遮断するか」を意味し、数字が大きいほど遮音性能が高いことを表します。
遮音性能は面の質量が2倍になるごとに約5dBの増加となります。したがって壁の厚さを4倍にしなければ音は半分になりません。反面、二重壁(二重サッシ)にし、再反射しない距離を空ければ2倍の遮音性能になります。
@外壁:
一般に開口部、つまりサッシで決まります。二重サッシにすると防音性能は高くなりますが換気口の防音性能で決まる場合があります。
換気口は防音タイプもありますができれば騒音源に面した壁には付けないほうが良いでしょう。
A界壁:
戸境壁は建築基準法で D-40(500Hzで40dBの遮音性能) 以上が要求されています。
普通のコンクリート壁なら、ひび割れでもない限り問題はありませんが、遮音性能の対象は外部に対する性能ですので、室内で快適な音環境を得るには吸音と組み合わせた仕様が必要です。
表1と表2を組み合わせると要求する防音レベルが分かります。たとえば、ピアノの演奏は表1より90dBです。遮音等級D-50の間仕切壁で仕切った場合、
90−50=40 で聞こえるのは40dBで、騒音の感じ方は「やや静か、小さく聞こえる」程度となります。
トイレや浴槽の排水音もマンションの騒音源のひとつです。排水音は騒音レベルとしては低いのですが、深夜になるとチョロチョロと水が流れるかすかな音が耳障りになりことがあります。排水騒音の対策は、排水管の防振支持や排水管に遮音シートを巻くまたはPS(パイプスペース)の壁を防音壁にする等の対策が必要で、PSの位置も重要です。
固体音に対する防音
固体音のうち床に直接衝撃が加わって階下に伝わる音を「床衝撃音」といいます。この「床衝撃音」は、さらに食器を落とした時などに発生する「軽量床衝撃音」と、子供が飛び跳ねた時などに発生する「重量床衝撃音」の二つに分類されます。
床防音の性能は「床で生じた音をどの程度小さくできるか」で決められています。これを「L値」といい、軽量床衝撃音の遮音性能を「LL」、重量床衝撃音の遮音性能を「LH」で表します。
この数字は「上階の床をたたいた時に生じた音が下の階でどれだけの大きさ(dB)で聞こえるか」を意味し、数字が小さいほど遮音性能が高いことを表します。これらの音は伝わり方も遮音の仕方も違うので、不利な値がその床の性能となります。LL-45
とLH-50の場合の遮音等級はL-50です。(表3参照)
マンションもフローリング仕様がますます増え、カーペット、絨毯からのリフォームが多くなっています。フローリングにリフォームする際には防音仕様を義務づけるマンションが一般的になってきています。
実際の防音性能(とくに重量床衝撃音)は床板の遮音性能だけではなく、スラブの厚さ、大きさ、鉄筋の量、梁の成、床材の納め方(直張、二重床、浮床等)などによって違いますので、詳細はメーカーや専門家にご相談ください。
(マンョン管理士/中村利道)