マンションを大規模水害時の一時避難場所に
2012/9/4
東京都葛飾区は、大規模な水害が発生した際の緊急避難場所として、3階以上の丈夫な建物を確保することを目的とし、マンションをはじめとする集合住宅等との地域住民の一時避難に関する協定締結を促進することを決定。8月20日付けで、区内の集合住宅管理者宛てに区長名による文書とアンケートを送付し、協力を呼びかけました。
分譲マンションでは、管理組合が協定の当事者となることが想定されています。住宅政策担当以外の行政部門が、マンション管理組合を正式な交渉相手とすることはあまりなく、地域コミュニティの一端を担う管理組合の役割と責任が問われることになりそうです。
大震災による津波被害の危険性も指摘
江戸川を境に千葉県松戸市に隣接する葛飾区は、江戸川のほかにも荒川・中川などの河川に囲まれています。これまで、台風による洪水が発生したことも多く、大規模な水害の発生時には隣接する区市などへ避難することを呼びかけてきました。また、東京都東部の墨田・江東・江戸川・葛飾区域では、いわゆる海抜ゼロメートル地帯が広範囲にわたるため、東日本大震災の発生後は津波による被害の危険性があらためて指摘されています。
実際に大規模な水害が発生した場合には、何らかの事情により逃げ遅れたり、急な堤防決壊等により広域避難の時間的余裕がないことも考えられます。こうしたとき、地域住民が近隣の高い建物へ緊急避難できれば、多くの命が救われる可能性が高くなることから、葛飾区では緊急時に民間の中・高層建物へ避難できる仕組みづくりに取り組んできました。
具体的には、大規模水害の発生時に、集合住宅等の廊下や階段、エレベーターホール、集会施設などの共用部分を、地域住民の一時避難施設として活用することへの協力を求めています。また、こうした支援体制は、地域防災力の向上や災害時における共助の観点から重要としながらも、各集合住宅の居住者等の理解が不可欠として、協力依頼文書の送付、居住者向けチラシの配布、アンケートの実施が行われました。
チラシでは次の点を強調して、緊急的かつ一時的な避難場所の確保に対する理解を求めています。
これは、緊急時の一時的な避難協力についてのお願いです。避難者は、水が引いたり救助が来たりすれば、集合住宅の外へ退去します。
@水害が発生した際には、浸水の深さにもよりますが、最低でも2階以上の共用部分(廊下や階段など)に近隣の方が避難することがあります。
A水害の発生に備え、警察・消防・自衛隊等の救助活動を行う機関に対して、貴集合住宅を「近隣の方が一時避難する施設」として情報提供します。
「行政が、マンション管理組合を対象として、大規模水害発生に備えた協力要請や協定締結を行うのは全国的にみても珍しい。今後、社会的資産としてのマンションの重要性に着目し、水害対策に限らず、管理組合を住民代表組織のひとつとして扱う例が増えるのではないか」と、東京都の分譲マンション管理アドバイザーを務める中村利道氏(アスカマンション管理士事務所代表)は解説します。
これまで、分譲マンションはもっぱら住宅資産として国や自治体が行なう施策の対象とされてきましたが、今後は、もっと広い社会的資産の一部として、地域との共生を図る場面が増えてくるのかもしれません。
(編集部)