東日本大震災とマンション
2012/12/4
2011年(平成23年)3月11日金曜日、午後2時46分、東北地方・三陸沖を震源とするマグニチュード(M)9.0の巨大地震が発生し、宮城県栗原市で震度7、宮城県、福島県、茨城県、栃木県の4県37市町村で震度6強を観測。東京23区でも震度5強を記録するなど、東日本を中心に北海道から九州地方にかけての広い範囲で震度6弱から震度1の揺れを観測しました[図1参照]。
気象庁は、国内観測史上最大規模であったこの地震を「平成23年東北地方太平洋沖地震」と命名。政府は4月1日、この地震にともなう一連の災害を、「東日本大震災」と呼称することを閣議決定しました。
マンション管理オンラインでは、未曾有の大災害をもたらした震災の記録を冷静な目でいまあらためて整理し、今後のマンションと生活のための教訓とするため、シリーズ連載を開始して関連記事を順次公開することとしました。
死者・行方不明者は約1万9000人、避難者数は最大47万人
東日本大震災では、M9.0という巨大地震による被害に加え、この地震による大津波が東北地方と関東地方の太平洋沿岸に襲来し、沿岸部では壊滅的な被害が生じました[図2参照]。また、福島・双葉郡(大熊町・双葉町)の東京電力福島第一原子力発電所では、地震と津波の影響による非常用炉心冷却装置注水不能など重大な原子力事故に発展し、広範囲にわたる住民避難と放射線による汚染被害が発生することとなりました。
津波は高さが9メートル以上にもなり、川を遡上するなどして広範囲に及ぶ地域を襲いました。震災による全国の死者は1万5854人、行方不明者は3155人、負傷者は2万6992人に上り(2012年3月11日現在)、死者の90%以上の死因は溺死であることが判明しています。[注1]
今回の津波では、津波観測施設そのものが被害を受けたため、記録に残された数値以上の津波が到達した可能性があるといわれます。土木学会海岸工学委員会ほかによる現地調査では、三陸海岸では多くの地域で浸水高が20m以上あり、30mを超過する地域や、最高で40mを超える地域(岩手県宮古市)があったことも分かっています。[注2]
家屋の崩壊やライフラインの寸断のため、避難所等での生活を余儀なくされた避難者数は、2011年3月14日時点で約47万人に上り、2012年10月現在でも32万人以上が仮設住宅等での避難生活を送っています。[注3]
津波による建物の被害甚大、大阪でも長周期地震動の被害
津波は建物等にも甚大な損害を与えました。警察庁のまとめによると、東日本大震災における建物被害は、全壊12万9107戸、半壊25万4139戸、全焼・半焼281戸、床上浸水2万427戸、床下浸水1万5503戸に上り(2012年3月11日現在)、さらに多数の道路損壊、橋梁被害、堤防決壊等が生じました。[注1]
一方、地震の揺れによる建物被害は、地震規模を考えるとそれほど大きくなかったといわれます。ただし、短周期の地震動による天井の落下等の室内被害や、海溝型巨大地震の発生時に懸念される長周期地震動による超高層ビル等の長大構造物の被害については、地震の揺れの周期と被害との関係を調査分析する必要性が指摘されています。[注4]
例えば、大阪は震度3だったにもかかわらず、震源から約770km離れた大阪府咲洲庁舎で、高層ビル特有の長周期地震動が発生したとみられ、次のような被害が発生しました。[注5]
・エレベーターの停止、長時間閉じ込め
・パネルの落下、防火戸の破損、100か所以上のひび割れ
・約10分間揺れが続き、最上階(52階)では短辺方向137cm、長辺方向86cmの揺れ(片側)が発生
また、東京・新宿区の工学院大学新宿校舎では、構造的な被害は特に発生しなかったものの、次のような被害がありました。[注5]
・高層階での天井板の落下
・転倒防止策をしていなかった本棚の転倒とそれに押された間仕切り壁(パーティション)が大きく変形
・コピーなどキャスター付きの什器類の移動
・ドアの開閉の障害
・低層棟と結ぶエクスパンション・ジョイント部での内装材の剥落
新宿では、周辺の超高層ビルでも、天井落下や内装の剥落、エレベータの閉じ込め、スプリンクラーヘッドの損傷による散水などがみられたといいます。
マンションは「大破0棟」、ただし「全壊100棟」
社団法人高層住宅管理業協会は、2011年4月21日、東日本大震災で被災した東北6県所在の会員社を対象とした緊急アンケートの結果を公表しました。回答があった25社が管理受託する1612組合・1642棟の被災状況は、「倒壊・大破0棟、中破26棟、小破283棟、軽微1024棟、被害なし309棟」となりました[注6]。ここでいう「倒壊・大破・中破…」などの区分は、「日本建築学会(1980)被災度区分」に基づいて判定されたものです[図3参照]。
一方、一般社団法人宮城県マンション管理士会のまとめによると、宮城・仙台市では、取り壊しを進めざるを得ないマンションは3棟、住宅機能と財産的価値を喪失したマンションは多数あり、仙台市罹災証明の「全壊」判定は100棟を超えたといわれます[注7]。この場合の「全壊」は、おもに行政機関が使用する「災害の被害認定基準」と「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」に基づく、「全壊・大規模半壊・半壊・半壊にいたらない」の4区分によるものです。
上記のような区分法の違いに加え、地震保険の査定に使用する「全損・半損・一部損・無責」の4区分など、建物の被害の度合いを表す判定基準の混同と混乱が一部に広がりました。一般社団法人日本マンション管理士会連合会では、マンションについて、「単なるコンクリート構造物としてではなく、住宅という側面とマンションの特性に応じた被災判定基準を新たに考えるべき」との提言をまとめ公表しています[注8]。
広範囲にわたる液状化、エレベーター閉じ込めは660台
地震に伴い、東北地方から関東地方までの震度5強以上を観測した地域を中心に、広範囲で地盤の液状化が発生しました。過去の地震と比べて揺れの継続時間が長く、約2分間にわたって繰り返し激しく揺れたことで、大規模な液状化発生につながった可能性が指摘されています。埋立地が多い東京湾沿岸部の液状化範囲は約42km2に及びました。[注2]
気象庁のまとめでは、今回の地震による震源域の破壊の進行の様子(破壊過程)を外国の地震観測データを用いて詳細に調べたところ、通常より複雑なかたちで三つの巨大な破壊が連続して発生するという、きわめて稀な例であったことが分かったとしています[注9]。これが、かつてない大規模で長時間にわたる揺れにつながった原因と考えられます。
また、社団法人日本エレベーター協会のまとめによると、3月11日から14日までの地震により、15都道県において210台で閉じ込めが発生しました。その後、東京電力と東北電力が3月14日から計画停電を実施したことも影響し、3
月28日までに660台のエレベーター閉じ込めが発生し、救出が行なわれました。[注2]
首都圏では、地震の影響で公共交通機関が運行を停止し、主要な道路も大混雑となったために交通網が麻痺し、多数の帰宅困難者が生まれました。東京都内の一時受入れ施設で夜を明かした人は約9万4000人に上ったといわれます。[注1]
さらに、震災発生後、全国の原子力発電所が運転を停止したため、全国規模で大規模な電力不足が生じ、その後の国民生活や企業活動などに大きな影響が及んだことも、特筆に値する震災被害といえるでしょう。
(編集部)