<連載第5回>
時効中断の効力は特定承継人に及ぶのか?
2012/11/6
今回は、よくある相談の一つである「時効中断の効力は特定承継人に及ぶのか?」というテーマについて、次の相談事例をもとに検討してみましょう。
<相談事例> 私たちの管理組合は、管理費等滞納者(以下、「A」という。)に対し、滞納金の支払を求める訴訟を提起し、判決を得て確定しました。ところが、Aは、その判決で支払を命じられた滞納金を支払わないまま、その部屋を第三者(以下、「B」という。)に売却しました。 管理組合は、Bに対し、区分所有法8条[注1]に基づき、前所有者Aの滞納金全額の支払を求めました。 ところが、Bは、Aの滞納金のうち、すでに5年が経過している分は「消滅時効を援用する」と主張し、これを支払いません。 管理組合としては、どのように考えればよいのでしょうか? |
原則論1(管理費等支払請求権の消滅時効について)
ご承知のように判例(最高裁平成16年4月23日判決)は、管理費等の債権について、「管理規約の規定に基づいて、区分所有者に対して発生するものであり、その具体的な額は総会の決議によって確定し、月ごとに所定の方法で支払われるものである。このような本件の管理費等の債権は、基本権たる定期金債権から派生する支分権として、民法169条所定の債権に当たるものというべきである」と判断していますので、管理費等債権の消滅時効は原則として5年ということになります。
<民法169条について> (定期給付債権の短期消滅時効) 第百六十九条 年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は、五年間行使しないときは、消滅する。 |
原則論2(判決で確定した権利の消滅時効について)
管理費等債権について、仮に、訴訟を提起し、判決によってその債権が確定したのであれば、当該債務者に対する当該債権の消滅時効は、判決確定時から10年ということなります(民法174条の2、民法157条)
<民法174条の2> (判決で確定した権利の消滅時効) 第百七十四条の二 確定判決によって確定した権利については、十年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、十年とする。裁判上の和解、調停その他確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利についても、同様とする。 2 前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。 |
<民法157条> (中断後の時効の進行) 第百五十七条 中断した時効は、その中断の事由が終了した時から、新たにその進行を始める。 2 裁判上の請求によって中断した時効は、裁判が確定した時から、新たにその進行を始める。 |
もちろん、判決で確定した債権以外の債権については、本来の消滅時効にかかるので注意が必要です。例えば、仮に、平成19年11月分までの管理費等債権について確定判決を得たとしても、それ以降(例えば、平成19年12月分以降)の管理費等債権については、本来の消滅時効の適用問題となります。
法律解釈上の問題
一般的に、区分所有法8条に基づく特定承継人の支払義務と、前所有者の支払義務とは不真正連帯債務の関係に立つと解されています。
そうすると、弁済等(債権者の債権を満足させる事由)を除き、他の債務者に影響を及ぼさない(相対的効力)のではないか、という解釈上の問題が生じます。
参考裁判例(大阪地裁平成21年7月24日判決)
上記の問題に関しては、大阪地裁平成21年7月24日判決[注2]が参考になります。
同判決の判断部分について、相談事例に関係するところを抽出し規範化してみると以下のようになります。
前所有者の特定承継人として、区分所有法8条[注1]により、前所有者の債務を履行する義務を負うことになった新所有者は、債務の履行を確保するために同じ債務について履行責任を負う者を広げようとする区分所有法8条の立法趣旨に照らし、民法148条[注3]により時効中断の効力が及ぶ承継人にあたると解すべきであり、かつ、民事訴訟法115条1項3号[注4]により確定判決の効力が及ぶ口頭弁論終結後の承継人にあたると解すべきである。 |
この規範を前提に、相談事例についてみると、新所有者B(特定承継人)は、「時効中断の効力が及び承継人にあたる」ということになります。
発展的問題(執行力の拡張)
新所有者Bが、「民事訴訟法115条1項3号により確定判決の効力の効力が及ぶ口頭弁論終結後の承継人にあたる」とすれば、管理組合は、前所有者Aを被告とする判決(債務名義)に、いわゆる承継執行文の付与[注5、民事執行法27条2項参照]を受けて(つまり、管理組合を債権者、新所有者Bを債務者とする執行文の付与を受けて)、Bの財産に対し強制執行をすることもできるということになります(民事執行法23条1項3号)。
(弁護士/平松英樹)