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弁護士平松英樹のマンション管理論

<連載第6回>

債権執行について(概説)

2012/11/20

本マンション管理論連載の第3回において、「債務名義に基づく強制執行について」簡単に紹介しました。

今回は、債務者(管理費等滞納者)が「債権」を有している場合の当該債権差押え(民事執行法143条〜166条、193条)について概説しておきます。

債権執行としての債権差押命令申立て

今回は、管理組合(債権者)が、管理費等滞納者を債務者とする債務名義を有しており、これに基づき債権差押命令を申し立てる場合(債権執行)を前提としています(マンション管理論第3回参照)。

差押えの対象となる債権について

差押えの対象となる債権は、債務者が第三債務者(民事執行法144条2項参照)[注1]に対して有している債権であり、例えば、
(1)債務者が、賃借人に対して有している賃料債権
(2)債務者が、勤務先会社等に対して有している給料債権
(3)債務者が、銀行等に対して有している預金債権
などが挙げられます。[図参照

第三債務者について

 上記(1)の場合は、賃借人
 上記(2)の場合は、勤務先会社等
 上記(3)の場合は、銀行等
が、第三債務者にあたります。

債権差押命令の申立てに際しては、第三債務者の氏名(商号)や住所(所在地)等を明示する必要があります。

上記(3)の銀行等に関しては、差押債権の特定の問題とも関連しますが、現在の実務上、取扱店舗を明示する必要があります[注2]。

差押債権の特定について

債権差押命令を申し立てる場合、差押えの対象となる債権すなわち差押債権を特定する必要があります。

特定に関しては、「債権差押命令の送達を受けた第三債務者において、・・・速やかに、かつ、確実に、差し押さえられた債権を識別することができるものでなければならない」と解されています(最高裁平成23年9月20日決定参照)[注2]。

差押債権の特定に関しては、一般的な書式を確認した方が分かりやすいので、東京地方裁判所民事執行センターのホームページ(WEB)掲載の書式を紹介しておきましょう。

(1)差押債権が「賃料債権」の場合
東京地方裁判所民事執行センターのWEBページより
http://www3.ocn.ne.jp/~tdc21/saiken/s-uketuke/PDF/sasimoku/sa1-06.pdf

(2)差押債権が給料債権(退職金債権含む)の場合
東京地方裁判所民事執行センターのWEBページより
http://www3.ocn.ne.jp/~tdc21/saiken/s-uketuke/PDF/sasimoku/sa1-01i.pdf

(3)差押債権が預金債権の場合
東京地方裁判所民事執行センターのWEBページより
http://www3.ocn.ne.jp/~tdc21/saiken/s-uketuke/PDF/sasimoku/sa1-02.pdf

継続的給付債権に対する差押えについて

上記(1)の賃料債権や(2)の給料債権は、継続的給付債権にあたります。

継続的給付債権についても差押えの効力が及ぶことになります(民事執行法151条)[注3]。

差押禁止債権について

民事執行法や特別法によって、差押えが禁止されている債権があります。

例えば、民事執行法152条1項は、給料債権について「4分の3に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない」と規定しています[注3]。なお、ここでいう「政令」とは、民事執行法施行令2条のことを指しています[注4]。

給料債権の差押えについて

(1)差押えが認められる範囲について

民事執行法152条1項2号、同施行令2条を前提として検討してみましょう。

【例1】月額給料から所得税等を控除した残額が40万円である場合
 この場合、4分の3に相当する30万円について差押禁止となります。すなわち、4分の1に相当する10万円についてのみ差押えが認められます。

【例2】月額給料から所得税等を控除した残額が60万円である場合
 この場合、政令で定められる33万円について差押禁止となりますが、それを超える部分すなわち27万円について差押えが認められます。

(2)上記の例を前提とした取立てについて

例えば、管理組合が債務者に対し100万円の請求債権(執行費用を含む)を有し、これを差押債権額とする差押命令が発令されていると仮定しましょう。その上で、上記【例1】及び【例2】の内容のとおり(不変)と仮定しましょう。

そうすると、債権者(管理組合)が第三債務者から差押債権額(全額)を取り立てる(民事執行法155条1項)[注5]場合、あえて単純化して言えば、
 【例1】の場合、10か月(10万円×10ヶ月)
 【例2】の場合、4か月(27万円×3ヶ月+19万円×1ヶ月)
を要することになります。

(弁護士/平松英樹)



バナースペース

図版 CHART

図: 債権者・債務者・第三債務者の関係

(クリックして拡大)

注釈 NOTE

注1: 民事執行法144条2項については、次の条文を参照。

注釈別紙はここをクリック!

注2: 最高裁平成23年9月20日決定については、次の裁判所のWEBサイト(裁判例情報ページ)を参照。http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=81634&hanreiKbn=02

注3: 民事執行法151条〜152条については、次の条文を参照。

注釈別紙はここをクリック!

注4: 民事執行法施行令2条については、次の条文を参照。

注釈別紙はここをクリック!

注5: 民事執行法155条については、次の条文を参照。

注釈別紙はここをクリック!

筆者紹介 PROFILE

平松英樹(ひらまつ・ひでき)

弁護士、マンション管理士。1968年(昭和43年)生まれ、1991年(平成3年)年早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1丁目14番5号土屋ビル4階)、首都圏マンション管理士会などに所属。マンション管理、不動産取引・賃貸借(借地借家)問題を中心とした不動産法務を専門とし、マンション管理、不動産販売・賃貸管理、建築請負会社等の顧問先に対するリーガルサービスに定評がある。実務担当者を対象とする講演、執筆等の実績多数。著書に『わかりやすいマンション管理組合・管理会社のためのマンション標準管理規約改正の概要とポイント』(住宅新報社)ほか。