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弁護士平松英樹のマンション管理論

<連載第26回>

区分所有法59条の請求(確定判決)に基づく不動産競売申立について

2013/9/17

今回は、建物の区分所有等に関する法律(以下、単に「法」といいます。)59条1項 [注1]の規定による判決に基づく競売申立てに関し、法59条3項との関係でよくある質問を紹介しておきます。

法59条3項は、「第一項の規定による判決に基づく競売の申立ては、その判決が確定した日から六月を経過したときは、することができない。」と規定していますので注意が必要です。

なお、法59条1項の訴えの当事者(原告)に関しては、同条2項により57条3項 [注1]が準用されていますが、以下では当事者(原告)を便宜上「管理組合側」と表現しておきます。

質問1
 管理組合側は、法59条1項に基づく競売請求訴訟を提起し、苦労して判決(全部認容判決)を得ました。しかし、その後、管理組合側が競売申立をする前に、抵当権者が抵当権を実行し、担保不動産競売開始決定がなされました。
 管理組合側としては、競売申立を行う必要がないと判断してよいでしょうか?

回答1

たしかに、担保不動産競売手続が問題なく進行して買受人(特定承継人)が現れるのであれば、結果的に管理組合側が競売の申立てを行う必要はなかったということになるでしょう。また後述するような予納金の問題もありますので、管理組合側としては競売申立てを行わないという判断(選択肢)もあり得るでしょう。

ただし、担保不動産競売手続が問題なく完結する保証はありません。

例えば、競売申立てが取下げ等により終了することもあり得ます。

具体的にいえば、競売申立ては、買受けの申出があるまで申立人が単独でその申立てを取り下げることができますし、仮に買受けの申出があった後でも(代金納付までは)最高価買受申出人等の同意を得れば、その申立てを取り下げることも可能です。

つまり、管理組合側が得た判決の確定から6月を経過してから、担保不動産競売の申立てが取り下げられるということもあり得ますが、そうすると、それから管理組合側が競売を申し立てようとしても法59条3項の関係で無理です。

そこで、管理組合側としては、ご質問の例のように競売開始決定(以下、「先行事件」といいます。)がなされたとしても、その後に(法59条の請求に基づく)競売を申し立てる(以下、「後行事件」といいます。)という判断(選択肢)もあり得るでしょう。

質問2
 管理組合側も競売を申し立てることにしました。ところで、先行事件ですでに予納金が納められているはずですが、後行事件でも予納金を納める必要はありますか?

回答2

後行事件でも予納金を納める必要はあります。後行事件の予納金の額については、裁判所によって異なりますが、先行事件の対象物件と全く同一物件の場合、先行事件の予納金の基準額より低額となるのが普通です。

質問3
 後行事件の予納金から、実際に費用が支出されるのでしょうか?


回答3

まず、(後行事件の)競売開始決定正本の送達費用等に支出されるでしょう。

管理組合側の関心事は、後行事件の予納金から現況調査費用や評価料等が支出されてしまうのか、ということでしょう。現況調査費用と評価料等を合計すると通常は数十万円になってしまうのですが、後記質問4で述べるとおり、その費用は償還されない可能性があるからです。

この点、先行事件において現況調査や評価が行われるため、後行事件で再度現況調査や評価を行う必要はないはずだという管理組合側の意見もあるでしょうが、実際には当該事案や当該管轄裁判所によって運用が異なります。

つまり、事案によっては、上記管理組合側の意見のような運用をする裁判所もありますし、また現況調査だけを行っておくという裁判所もありますし、さらには両方(現況調査及び評価)とも行うという裁判所もあります。

質問4
 後行事件の予納金から支出された費用は、配当手続で(管理組合側に)全額戻ってきますか?


回答4

後行事件が法59条1項の規定による判決に基づく競売申立てであることを前提に回答します。

(1)先行事件で手続が完結した場合

先行事件が進行し、これにより競売手続が完結したのであれば、後行事件の予納金から支出された費用は、各債権者のための共同の利益とみるべき費用とはいえません。つまり、売却代金から優先的に償還されるべき共益費用に当たりません。

そのため、現実的に、後行事件の予納金から支出された費用が裁判所の配当手続で(管理組合側に)優先的に償還されることはありません。

(2)先行事件の取下げ等により先行事件が終了し、後行事件の続行により手続が完結した場合

先行事件が取下げ又は取消しにより終了し、後行事件が続行されて手続が完結した場合には、後行事件の予納金から支出された費用は各債権者のための共同の利益となったといえます。そのため、当該費用は、共益費用として売却代金から優先的に償還を受けることが可能です。

ただし、全額の償還を受けられるかどうかは別問題です。

そもそも、売却代金が低額に過ぎ、共益費用(手続費用)の合計額に全く満たない場合には、予納金から使われた費用全額が戻ってくるということはないでしょう。

さらにいえば、先行事件で実施された現況調査や評価が後行事件でも利用されていた場合には、実務上、先行事件の差押債権者は後行事件の配当手続において、それ(現況調査や評価)に要した費用の償還を受けることができますので、仮に売却代金が低額で共益費用全部の償還が不可能な場合には、先行事件の差押債権者からの共益費用請求と後行事件の差押債権者からの共益費用請求の額に応じて、按分償還となってしまうでしょう。

つまり、配当原資が共益費用の合計額を下回る場合には、共益費用全額の償還を受けられないということです[注2]。

(3)さいごに(質問4に関し)

先行事件で手続が完結した場合には、後行事件の予納金から支出された費用は全く戻ってこない可能性が高いので、その点は理解しておく必要があります。

(弁護士/平松英樹)



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注釈 NOTE

注1: 区分所有法第57条〜59条

(共同の利益に反する行為の停止等の請求)
第五十七条 区分所有者が第六条第一項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。
2 前項の規定に基づき訴訟を提起するには、集会の決議によらなければならない。
3 管理者又は集会において指定された区分所有者は、集会の決議により、第一項の他の区分所有者の全員のために、前項に規定する訴訟を提起することができる。
4 前三項の規定は、占有者が第六条第三項において準用する同条第一項に規定する行為をした場合及びその行為をするおそれがある場合に準用する。

(使用禁止の請求)
第五十八条 前条第一項に規定する場合において、第六条第一項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、前条第一項に規定する請求によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、相当の期間の当該行為に係る区分所有者による専有部分の使用の禁止を請求することができる。
2 前項の決議は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数でする。
3 第一項の決議をするには、あらかじめ、当該区分所有者に対し、弁明する機会を与えなければならない。
4 前条第三項の規定は、第一項の訴えの提起に準用する。

(区分所有権の競売の請求)
第五十九条 第五十七条第一項に規定する場合において、第六条第一項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる。
2 第五十七条第三項の規定は前項の訴えの提起に、前条第二項及び第三項の規定は前項の決議に準用する。
3 第一項の規定による判決に基づく競売の申立ては、その判決が確定した日から六月を経過したときは、することができない。
4 前項の競売においては、競売を申し立てられた区分所有者又はその者の計算において買い受けようとする者は、買受けの申出をすることができない。

注2: 予納金から支出された費用の額と共益費用(手続費用)の額が完全に一致するわけではありません(本連載第16回参照)が、細かい話なので、今回はあえてその点の説明を省略しています。

筆者紹介 PROFILE

平松英樹(ひらまつ・ひでき)

弁護士、マンション管理士。1968年(昭和43年)生まれ、1991年(平成3年)年早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1丁目14番5号土屋ビル4階)、首都圏マンション管理士会などに所属。マンション管理、不動産取引・賃貸借(借地借家)問題を中心とした不動産法務を専門とし、マンション管理、不動産販売・賃貸管理、建築請負会社等の顧問先に対するリーガルサービスに定評がある。実務担当者を対象とする講演、執筆等の実績多数。著書に『わかりやすいマンション管理組合・管理会社のためのマンション標準管理規約改正の概要とポイント』(住宅新報社)ほか。