<連載第27回>
マンション駐車場の維持管理を巡るトラブル(債務不履行責任と不法行為責任)
2013/10/8
今回は、マンション駐車場の維持管理を巡るトラブルについて、下記設例を前提として二つのケースを考えてみましょう。
<設例> Y(マンション管理組合)は、X(区分所有者)に対し、XY間の駐車場使用契約に基づき、Yマンションの地下部分にある駐車場(以下、「本件駐車場」という。)を使用させていた。なお、本件駐車場は、車両の格納部分を昇降させて出し入れする方式であり、使用料月額は8000円である。 |
<ケース1> 本件駐車場の昇降設備について、一部劣化(不具合)が存在していたところ、その地域に発生した地震によって昇降設備の一部が損壊し、本件駐車場に駐車していた車両が破損した。ちなみに、近隣地域において、同様の事故は本件マンション以外に見当たらない。 Xは、Yに対し、どのような請求ができるのか? |
ケース1の検討
大きく分けると、債務不履行に基づく損害賠償請求と不法行為に基づく損害賠償請求が考えられます。
1 債務不履行に基づく損害賠償請求について
XとYとの間には駐車場の使用契約が締結されています。
この契約が典型的な賃貸借契約であるといえるかどうかはさておき、少なくともYは賃貸借契約の賃貸人に準じ、Xに対して本件駐車場を使用収益させる義務があると解されます。
そして、その一内容として本件駐車場をその使用収益に適した状態に置く義務があるといえ、仮にその義務に違反した場合は債務不履行に基づく損害賠償責任を負うことになるでしょう。なお、その使用収益に適した状態といえるためには、車両の駐車場としての機能が発揮されるべき品質及び性状を備えるとともに、当該駐車場が有すべき耐震性等を備えている必要があるでしょう。
そうすると、本件駐車場の昇降設備が劣化し、当該駐車場が有すべき耐震性を備えていなかった場合、Yは、本件駐車場をその使用収益に適した状態に置く義務(具体的には劣化部分を補修すべき義務)を怠っていたということになるでしょう。
したがって、Xは、Yに対し、債務不履行責任に基づく損害賠償請求ができると考えられます[注1]。
2 不法行為に基づく損害賠償請求について
本件駐車場の昇降設備は「土地に接着して人工的作業をなしたるによりて成立せるもの」といえますので、Xとしては、民法717条[注2]を根拠とする損害賠償請求も考えられます。
民法717条の「瑕疵」とは、工作物が通常備えているべき安全性を欠如していることをいいますので、本件において、昇降設備が劣化しており、通常備えるべき安全性を欠如していたということであれば、工作物の保存に「瑕疵」があったといえます。
したがって、Xは、Yに対し、土地工作物責任に基づく損害賠償請求ができると考えられます(なお福岡高裁平成12年12月27日判決参照)。
<ケース2> 本件駐車場には地下駐車場用の揚水ポンプ等の設備も設置されていた。その設備も含め各種設備は適切に維持管理がなされていたため、各設備の不具合は存在しなかったところ、その地域に発生した豪雨によって、本件駐車場に雨水が貯留し、本件駐車場の駐車していた車両が水没して破損した。ちなみに、近隣地域において、同様の事故は本件マンション以外に見当たらない。 Xは、Yに対し、どのような請求ができるのか? |
ケース2の検討
このケースも、債務不履行に基づく損害賠償請求と不法行為に基づく損害賠償請求という視点から検討しましょう。
1 債務不履行に基づく損害賠償請求について
前記ケース1で検討したように、抽象的には、Yは(Xに対し)本件駐車場をその使用収益に適した状態に置くべき義務があるということができます。
しかし、問題は具体的にいかなる義務を負っているのか、ということです。
Xとしては、Yの具体的な義務について特定しなければなりません。
この点、前記ケース1の場合においては、Yの義務(劣化部分を補修すべき義務)を具体的に特定することは難しくないでしょう。
他方、ケース2の場合、Yの具体的な義務を特定することはなかなか困難です。はたしてどのような措置をYが講じていれば、本件水没事故を防止できたといえるのか、それを確定することも容易ではありません。
一つの参考事例として東京高裁平成22年7月29日判決を紹介しておきましょう[注3]。
この裁判例は、「具体的にいかなる義務を負っていたかについて未だ特定されていない」等の理由により、債務不履行責任が否定された事案です。
2 不法行為に基づく損害賠償請求について
「工作物」に「瑕疵」(=通常備えているべき安全性を欠如しているような状態)が存在していない場合、土地工作物責任が生じることもありません[注2]。
XがYに対し土地工作物責任を追及しようとすれば、「瑕疵」について特定して主張立証しなければなりませんが、ケース2の場合、それは容易ではありません。
ちなみに、XがYに対し民法709条[注4]の一般不法行為責任を追及しようとする場合、Xは、@加害者(Y)の作為義務を特定してその義務違反があったことやA加害者(Y)に故意または過失があったことも主張立証する必要があります。被害者(X)の主張立証という観点からいえば、債務不履行責任[注1]や土地工作物責任[注2]の場合よりハードルが高くなるといえます(本連載第9回参照)。
(弁護士/平松英樹)