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弁護士平松英樹のマンション管理論

<連載第30回>

滞納管理費等債権回収の軌跡(Part1)

2013/11/26

はじめに

今回は、滞納管理費等債権回収のために、あるマンションで実際に行われた手続(一区分所有者を相手方とする手続)を、相当程度デフォルメして紹介します。

実際の事案では、最初の手続(不動産の仮差押え)から、最後の手続(配当金交付)まで2年以上を要しています。

すべての手続を説明するにはかなりのボリュームを要しますので、4回に分けて説明していきます。

まずは、手続全体の流れを示して、今回は前半の手続(①〜③)を説明します。

手続全体の流れ(時系列)

平成23年7月 不動産の仮差押え(①)
平成23年9月 上記①の本案訴訟にあたる管理費等請求訴訟(②)
平成23年12月 上記②の訴訟の判決(債務名義)に基づく不動産強制競売申立(③)
平成24年2月 上記③の競売手続における配当要求(④)
平成24年12月 配当要求していない管理費等について、先取特権(区分所有法7条)の物上代位を根拠とし、債務者が第三債務者(国)に対して有する売却代金剰余金交付請求権(債権)の差押え(⑤)
平成25年1月 競売手続で償還を受けられない手続費用について、弁済費用(民法485条本文)支払請求権を被保全債権とし、債務者が第三債務者(国)に対して有する売却代金剰余金交付請求権(債権)の仮差押え(⑥)
平成25年2月 上記⑥の本案訴訟にあたる弁済費用請求訴訟(⑦)
平成25年10月 上記⑦の判決(債務名義)に基づく配当金交付の手続(供託金払渡請求)(⑧)

上記①から③に至るまでの概略


① 不動産の仮差押え

某マンション101号室について管理費等の滞納が発生し、平成23年7月頃には滞納期間が3年超となっており、滞納金額(元金)は100万円を超えていた。

101号室の登記記録上、抵当権等は設定されていなかった。しかし、債務者の状況を考えると、いつ抵当権等の設定登記がなされても不思議ではなかった。そこで、管理組合としては101号室(不動産)について、不動産仮差押命令の申立を行った[注1]。

なお、発令には、101号室の固定資産評価額の約1割に相当する金銭を担保に立てることが条件とされたため、管理組合は、この金銭を供託所(地方法務局)に供託した [注2]。

仮差押決定の発令後、101号室については、管理組合を債権者とする仮差押えの登記がなされ [注3]、その後仮差押決定正本が債務者(101号室区分所有者)に送達された。

② 上記①の本案訴訟にあたる管理費等請求訴訟

管理組合としては、債務者からの任意弁済を期待していたが、債務者からの弁済は一切なされなかった。

そこで、管理組合は、平成23年9月に、本案訴訟にあたる管理費等請求事件を提訴した。

債務者(被告)は、口頭弁論期日に出頭せず、答弁書も提出しなかったため[注4]、平成23年10月に判決(全部認容判決)が言い渡された。

その後、被告に判決正本が送達されて2週間の経過をもって判決は確定した[注5]。

本案訴訟の判決が確定したため、管理組合は、裁判所に担保取消しを申し立てるとともに供託原因消滅証明の申請をした[注6]。

その後、管理組合は、裁判所から供託原因消滅証明書の交付を受けて、供託所(地方法務局)に対し供託金払渡請求の手続を行った。

③ 上記②の訴訟の判決(債務名義)に基づく不動産強制競売申立

管理組合は、本案訴訟の判決を債務名義[注7]として、不動産強制競売申立を行った。

予納金の納付等を完了し、平成23年12月に強制競売開始決定が下された。

解説

① 債権を有していることと実際に債権を回収できることとは別問題です。

仮に判決等の債務名義(民事執行法22条参照)を取得しても、現実的には債権を回収できないということも少なくありません。

債務者が現に資産を有しているとしても、近い将来債務者がその資産を処分してしまうかもしれません。そうすると、債権者が、債務名義を得て、いざ強制執行しようとしても、対象となる資産(財産)がない、というようなことになりかねません。

そこで、債権者が将来の強制執行を実効性あるものにするために、債務者の財産処分を禁止しておこうというのが、仮差押えの目的です。

なお、仮差押決定を発令してもらうためには、通常、担保を立てなければなりません。

民事保全の担保とは、違法あるいは不当な保全処分の執行によって債務者が受ける損害を担保するものです。民事保全における裁判所の結論はあくまでも暫定的なものであって、後日訴訟によって覆る可能性もあります。結果的に違法・不当な保全処分であった場合に債務者が受けた損害の賠償を担保するのが、ここでいう「担保」です[注8]。

② 仮差押えはあくまでも暫定的なものですから、本案と呼ばれる裁判の結論(判決など)を得る必要があります。

③ 本案の判決(債務名義)により、強制執行することができます。

また、本案の勝訴判決が確定すると(裁判所の結論が覆ることがありませんので)、「担保」を立てておく必要もなくなります。

そこで、債権者は、担保取消しの申立てや供託金の払渡手続へと移行します。

次回へ続く)



バナースペース

注釈 NOTE

注1: 民事保全法20条について
 (仮差押命令の必要性)
第二十条 仮差押命令は、金銭の支払を目的とする債権について、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。
2 仮差押命令は、前項の債権が条件付又は期限付である場合においても、これを発することができる。

注2: 民事保全法4条、14条について
 (担保の提供)
第四条 この法律の規定により担保を立てるには、担保を立てるべきことを命じた裁判所又は保全執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に金銭又は担保を立てるべきことを命じた裁判所が相当と認める有価証券(社債、株式等の振替に関する法律 平成十三年法律第七十五号)第二百七十八条第一項 に規定する振替債を含む。)を供託する方法その他最高裁判所規則で定める方法によらなければならない。ただし、当事者が特別の契約をしたときは、その契約による。
2 民事訴訟法(平成八年法律第百九号)第七十七条 、第七十九条及び第八十条の規定は、前項の担保について準用する。
 (保全命令の担保)
第十四条 保全命令は、担保を立てさせて、若しくは相当と認める一定の期間内に担保を立てることを保全執行の実施の条件として、又は担保を立てさせないで発することができる。
2 前項の担保を立てる場合において、遅滞なく第四条第一項の供託所に供託することが困難な事由があるときは、裁判所の許可を得て、債権者の住所地又は事務所の所在地その他裁判所が相当と認める地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に供託することができる。

注3: 民事保全法47条3項について
 (不動産に対する仮差押えの執行)
第四十七条 民事執行法第四十三条第一項に規定する不動産(同条第二項 の規定により不動産とみなされるものを含む。)に対する仮差押えの執行は、仮差押えの登記をする方法又は強制管理の方法により行う。これらの方法は、併用することができる。
2 仮差押えの登記をする方法による仮差押えの執行については、仮差押命令を発した裁判所が、保全執行裁判所として管轄する。
3 仮差押えの登記は、裁判所書記官が嘱託する。
4 強制管理の方法による仮差押えの執行においては、管理人は、次項において準用する民事執行法第百七条第一項 の規定により計算した配当等に充てるべき金銭を供託し、その事情を保全執行裁判所に届け出なければならない。
5 民事執行法第四十六条第二項 、第四十七条第一項、第四十八条第二項、第五十三条及び第五十四条の規定は仮差押えの登記をする方法による仮差押えの執行について、同法第四十四条 、第四十六条第一項、第四十七条第二項、第六項本文及び第七項、第四十八条、第五十三条、第五十四条、第九十三条から第九十三条の三まで、第九十四条から第百四条まで、第百六条並びに第百七条第一項の規定は強制管理の方法による仮差押えの執行について準用する。

注4: 民事訴訟法159条について
 (自白の擬制)
第百五十九条 当事者が口頭弁論において相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない場合には、その事実を自白したものとみなす。ただし、弁論の全趣旨により、その事実を争ったものと認めるべきときは、この限りでない。
2 相手方の主張した事実を知らない旨の陳述をした者は、その事実を争ったものと推定する。
3 第一項の規定は、当事者が口頭弁論の期日に出頭しない場合について準用する。ただし、その当事者が公示送達による呼出しを受けたものであるときは、この限りでない。

注5: 民事訴訟法285条について
 (控訴期間)
第二百八十五条 控訴は、判決書又は第二百五十四条第二項の調書の送達を受けた日から二週間の不変期間内に提起しなければならない。ただし、その期間前に提起した控訴の効力を妨げない。。

注6: 民事保全法4条2条が準用する民事訴訟法79条について
 (担保の取消し)
第七十九条 担保を立てた者が担保の事由が消滅したことを証明したときは、裁判所は、申立てにより、担保の取消しの決定をしなければならない。
2 担保を立てた者が担保の取消しについて担保権利者の同意を得たことを証明したときも、前項と同様とする。
3 訴訟の完結後、裁判所が、担保を立てた者の申立てにより、担保権利者に対し、一定の期間内にその権利を行使すべき旨を催告し、担保権利者がその行使をしないときは、担保の取消しについて担保権利者の同意があったものとみなす。
4 第一項及び第二項の規定による決定に対しては、即時抗告をすることができる。

注7: 民事執行法22条について
 (債務名義)
第二十二条 強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
 一 確定判決
 二 仮執行の宣言を付した判決
 三 抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては、確定したものに限る。)
 三の二 仮執行の宣言を付した損害賠償命令
 四 仮執行の宣言を付した支払督促
 四の二 訴訟費用、和解の費用若しくは非訟事件(他の法令の規定により非訟事件手続法(平成二十三年法律第五十一号)の規定を準用することとされる事件を含む。)若しくは家事事件の手続の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分又は第四十二条第四項に規定する執行費用及び返還すべき金銭の額を定める裁判所書記官の処分(後者の処分にあつては、確定したものに限る。)
 五 金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)
 六 確定した執行判決のある外国裁判所の判決
 六の二 確定した執行決定のある仲裁判断
 七 確定判決と同一の効力を有するもの(第三号に掲げる裁判を除く。)

注8: 最高裁平成8年5月28日第三小法廷判決
 「不動産の仮差押命令の申立て及びその執行が、当初からその被保全権利が存在しなかったため違法であり、債務者に対する不法行為となる場合において、債務者が、仮差押解放金を供託してその執行の取消しを求めるため、金融機関から資金を借り入れ、あるいは自己の資金をもってこれに充てることを余儀なくされたときは、仮差押解放金の供託期間中に債務者が支払った右借入金に対する通常予測し得る範囲内の利息及び債務者の右自己資金に対する法定利率の割合に相当する金員は、右違法な仮差押命令により債務者に通常生ずべき損害に当たると解すべきである。」

筆者紹介 PROFILE

平松英樹(ひらまつ・ひでき)

弁護士、マンション管理士。1968年(昭和43年)生まれ、1991年(平成3年)年早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1丁目14番5号土屋ビル4階)、首都圏マンション管理士会などに所属。マンション管理、不動産取引・賃貸借(借地借家)問題を中心とした不動産法務を専門とし、マンション管理、不動産販売・賃貸管理、建築請負会社等の顧問先に対するリーガルサービスに定評がある。実務担当者を対象とする講演、執筆等の実績多数。著書に『わかりやすいマンション管理組合・管理会社のためのマンション標準管理規約改正の概要とポイント』(住宅新報社)ほか。