<連載第31回>
滞納管理費等債権回収の軌跡(Part2)
2013/12/3
(前回からの続き)
はじめに
前回に引き続き、滞納管理費等債権回収のために、あるマンションで実際に行われた手続(一区分所有者を相手方とする手続)を、相当程度デフォルメして紹介します。
前回同様、手続全体の流れを確認した上で、今回は中盤の手続(④〜⑥)について説明します。
手続全体の流れ(時系列)
平成23年7月 | 不動産の仮差押え(①) |
平成23年9月 | 上記①の本案訴訟にあたる管理費等請求訴訟(②) |
平成23年12月 | 上記②の訴訟の判決(債務名義)に基づく不動産強制競売申立(③) |
平成24年2月 | 上記③の競売手続における配当要求(④) |
平成24年12月 | 配当要求していない管理費等について、先取特権(区分所有法7条)の物上代位を根拠とし、債務者が第三債務者(国)に対して有する売却代金剰余金交付請求権(債権)の差押え(⑤) |
平成25年1月 | 競売手続で償還を受けられない手続費用について、弁済費用(民法485条本文)支払請求権を被保全債権とし、債務者が第三債務者(国)に対して有する売却代金剰余金交付請求権(債権)の仮差押え(⑥) |
平成25年2月 | 上記⑥の本案訴訟にあたる弁済費用請求訴訟(⑦) |
平成25年10月 | 上記⑦の判決(債務名義)に基づく配当金交付の手続(供託金払渡請求)(⑧) |
上記④から⑥の手続の概略
④ 競売手続における配当要求
平成23年12月、管理組合は債務名義(判決)に基づき強制競売の申立を行った。
競売開始決定が出てしばらくすると、執行官から現況調査の一環として滞納管理費等の照会書が管理組合宛に届いたので、管理組合は回答書を提出した。
ただし、この回答書を提出しても、配当要求 [注1]のような効果は得られない。
そこで、平成24年2月、管理組合は配当要求書を提出した。
なお、管理組合は、配当要求書提出時(平成24年2月)までの未納管理費等全額について配当要求した。
⑤ 配当要求していない管理費等について、先取特権(区分所有法7条)の物上代位を根拠とし、債務者が第三債務者(国)に対して有する売却代金剰余金交付請求権(債権)の差押え
平成24年5月、裁判所から管理組合宛に、本件不動産(101号室)の買受可能価額が、手続費用及び管理組合の債権に優先する債権(優先債権)の合計額に満たない旨の通知があった。その通知によれば、買受可能価額は、手続費用の見込額にも達していなかった。
そこで、管理組合は、不動産(101号室)の売却について優先債権者全員の同意を得て、裁判所にこれを証明するとともに手続費用を放棄する旨の上申書を提出した。そのため、無剰余取消しは回避され、不動産競売手続が進行した。
平成24年10月、期間入札が行われた。開札の結果、最高価の入札価額は360万円であり、買受可能価額を大きく(結果的に330万円程)上回った。
同年11月、最高価買受申出人は代金を納付した。
平成24年12月、裁判所から管理組合宛に、弁済金交付日(売却代金交付日)を平成25年1月下旬とする旨の通知があった。
管理組合としては、優先債権者の債権額を考慮しても、平成24年2月までの滞納管理費全額の満足(弁済)を受けられると判断した。さらに、売却代金剰余金も発生すると判断した。
そこで、平成24年12月、管理組合は、先取特権(区分所有法7条)に基づく物上代位を根拠に同年3月分から同年11月分までの未納管理費等を被担保債権・請求債権として、債務者が国に対して有する売却代金剰余金交付請求権(債権)の差押命令を申し立てた。
⑥ 競売手続で償還を受けられない手続費用について、弁済費用(民法485条本文)支払請求権を被保全債権とし、債務者が第三債務者(国)に対して有する売却代金剰余金交付請求権(債権)の仮差押え
前述したとおり、管理組合は、裁判所に対し、無剰余取消を回避するために手続費用を放棄する旨の上申をしている。すなわち、上記競売手続に要された不動産評価料や現況調査費用等の各種費用について、当該競売手続で償還を受けられない。
ちなみに、当該管理組合の規約には、マンション標準管理規約(単棟型)第60条2項のような規定も存在しない。
そこで、管理組合は、民法485条本文を根拠として、競売の手続費用を債務者に請求することを考えた。
ただし、債務者は、売却代金剰余金交付債権以外にみるべき資産を有しておらず、仮に、弁済金交付日(売却代金交付日)に債務者に剰余金が支払われてしまうと、後日、管理組合が債務名義(判決等)を得ても、債務者の財産に対する執行はほぼ不可能となる。
そのような理由から、管理組合は、民法485条本文に基づく弁済費用支払請求権を被保全債権として、債務者が国に対して有する債権(売却代金剰余金交付請求権)につき仮差押えを申し立てることとし、この申立てを平成24年12月に行った。
その後、担保の額が被保全債権額の約2割と決まり、管理組合は供託所(地方法務局)にこれを供託し、平成25年1月上旬(すなわち、弁済金交付日の前)には仮差押決定が発令された。
解説
④ 売却代金の配当等を受けるべき債権者については民事執行法87条が定めるとおりです[注2]。すなわち、執行官からの照会に対する回答書を提出しても、「売却代金の配当等を受けるべき債権者」には該当しません。
もちろん、本件の管理組合は、債務名義に基づく差押債権者ですから、民事執行法87条1項1号の差押債権者には該当します。
しかし差押債権者として配当等を受けられるのはあくまでも債務名義に表示された金員です。
さらにいえば、債務名義に表示された金員については一般債権として扱われるでしょう。
そこで、本件の管理組合は滞納管理費等全額について先取特権者として配当要求しているのです。
⑤ 管理組合は、配当要求の終期までに既に発生している滞納管理費等全額について配当要求しています。その後に支払期限が到来する管理費等については配当要求していません。
配当要求書提出後、競売による売却(所有権移転)に至るまで、毎月の管理費等も未納となるでしょう。その分については競売(配当)手続の外で回収を図る必要があります。
もちろん、管理組合としては、これを特定承継人に請求することは可能です(区分所有法8条)が、本件の管理組合はこれを本来の債務者から回収しようと考えました。
そこで、本件の管理組合は、先取特権(区分所有法7条)の物上代位を根拠に、一定期間(本件では9か月分)の未納管理費等を被担保債権・請求債権として、債務者が国に対して有する債権の差押えの申立を行っています。
⑥ また、管理組合は、民法485条本文に基づく弁済費用支払請求権を被保全債権として、債務者が国に対して有する債権(売却代金剰余金交付請求権)の仮差押えの申立を行っています。
本来、競売の手続費用は、売却代金から最先順位で償還されますが、本件では、手続費用放棄の上申をしているため、他の方法(手続)で債権回収を図る必要があります。
本件の管理組合では(規約を根拠にすることが困難であるため)民法485条本文を根拠として、手続費用を債務者に請求しようと考えています。
ちなみに、前回も説明しましたが、仮差押えはあくまでも暫定的なものですから、仮差押えが発令されたとしても、その結論が、後日訴訟によって覆る可能性は否定できません。
次回は、この弁済費用支払請求の本案訴訟について説明しましょう。
(次回へ続く)