<連載第32回>
滞納管理費等債権回収の軌跡(Part3)
2013/12/10
(前回からの続き)
はじめに
今回も引き続き、滞納管理費等債権回収のために、あるマンションで実際に行われた手続(一区分所有者を相手方とする手続)を、相当程度デフォルメして紹介します。
まず、手続全体の流れを確認した上で、⑦の手続(弁済費用請求事件の訴訟)について説明します。
手続全体の流れ(時系列)
平成23年7月 | 不動産の仮差押え(①) |
平成23年9月 | 上記①の本案訴訟にあたる管理費等請求訴訟(②) |
平成23年12月 | 上記②の訴訟の判決(債務名義)に基づく不動産強制競売申立(③) |
平成24年2月 | 上記③の競売手続における配当要求(④) |
平成24年12月 | 配当要求していない管理費等について、先取特権(区分所有法7条)の物上代位を根拠とし、債務者が第三債務者(国)に対して有する売却代金剰余金交付請求権(債権)の差押え(⑤) |
平成25年1月 | 競売手続で償還を受けられない手続費用について、弁済費用(民法485条本文)支払請求権を被保全債権とし、債務者が第三債務者(国)に対して有する売却代金剰余金交付請求権(債権)の仮差押え(⑥) |
平成25年2月 | 上記⑥の本案訴訟にあたる弁済費用請求訴訟(⑦) |
平成25年10月 | 上記⑦の判決(債務名義)に基づく配当金交付の手続(供託金払渡請求)(⑧) |
上記⑦の手続の概略
⑦ 債権仮差押えの本案訴訟にあたる弁済費用請求訴訟
本件の管理組合は、競売手続のための不動産評価料や現況調査費用等の各種費用について、当該競売手続で償還を受けられない。
そこで、まず、管理組合は、民法485条本文に基づく弁済費用支払請求権を被保全債権として、債務者が国に対して有する債権(売却代金剰余金交付請求権)の仮差押命令を申し立てた。
その結果、弁済金交付日の前に債権仮差押決定が発令された。
そして、管理組合は、平成25年2月、仮差押えの本案訴訟にあたる弁済費用支払請求の訴訟を提起した。
この請求(訴訟)については、債務者(被告)も争った。
解説
(1)民事執行法42条と民法485条の関係
まず過去の裁判例(東京地裁平成3年2月15日判決の判断)に基づいて民事執行法42条と民法485条の関係について検討してみましょう。
民事執行法42条 [注1]は、強制執行の費用で必要なもの(執行費用)は債務者の負担とし、金銭の支払いを目的とする債権についての強制執行にあっては、その執行手続において債務名義を要しないで同時に取り立てることができる旨を定めています。
民事執行法42条1項が執行費用を債務者の負担とする趣旨は次のように考えられます。つまり、強制執行に要する費用は、弁済のため要する費用と考えることもでき、そうすると民法485条本文
[注2]の規定により、特約のない限り、債務者の負担となりそうです。しかし、強制執行をしなければ弁済を受けることができなかったか否かについては、これを常に肯定できるとは限りません。同条但書
[注2]に規定された「債権者・・・の行為によって弁済の費用を増加させたとき」に該当するかもしれません。
もし、法が執行費用の負担者を明文で定めないときは、具体的事件ごとに、事実関係を確定しなければ、費用の負担者を定められないことになってしまいます。
そこで、民事執行法42条1項は、そのような事情のいかんにかかわらず、強制執行が行われ、これにより債務名義の効力が実現されたときは、その強制執行に要した費用の負担は、常に債務者とすることと定めたもの解されます。
以上が、東京地裁平成3年2月15日判決に沿った考え方です [注3]。
(2)本件の争点について
本件訴訟の争点は、①各手続費用がそもそも民法485条本文所定の「弁済費用」に当たるか否かという点、②仮に弁済費用に当たるとして、管理組合は債務者に対する弁済費用支払請求権を放棄したか否かという点です。
ちなみに同種の裁判例はなかなか見当たりません。
本件訴訟において、管理組合が請求している額は20万円程度(債権仮差押えが奏功している額)であって、金額的には簡易裁判所の管轄です(実際、簡易裁判所に提訴されています)。
しかし、本件は、簡易裁判所から地方裁判所に移送されました [注4]。
そして、最終的に地方裁判所は下記のように判断して、管理組合の請求を認容しました。
その後、被告から控訴が提起されなかったため、その判決は確定しました。
記
裁判所の判断より
争点①について
「・・・前提事実に加えて、証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、被告は平成20年5月分以降の管理費等を滞納し、原告から再三督促を受けても支払をせず、管理費等の支払を求める訴訟を提起されても口頭弁論期日に欠席し、任意の弁済に応じなかったこと、そのため原告は上記訴訟の判決を債務名義として本件不動産につき強制競売の申立てをし、本件強制競売手続による弁済金をもって被告の未払管理費等の弁済に充てたことが認められる。
そして、証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、原告が負担した本件各手続費用は、本件強制競売手続のために必要な共益費用であることが認められる。
これらの事実に照らすと、原告は、本件強制競売手続によらなければ被告から管理費等の弁済を受けることができなかったものであり、本件各手続費用は債務者である被告が債務の履行をするに際し必要な支出であるというべきであるから、本件各手続費用は、民法485条本文所定の「弁済の費用」に当たると認めるのが相当である。」
争点②について
「本件上申書には、本件強制競売手続の差押債権者である原告が手続費用を放棄する旨の記載がされている。
しかしながら、前記前提事実によれば、原告は、本件強制競売手続において、執行裁判所から本件不動産の買受可能価額が手続費用及び優先債権の見込額の合計額に満たない旨の通知を受けたことから、剰余を生ずる見込みがあることを証明して本件強制競売手続の取消しを回避するために、執行裁判所に対し、本来共益費用として本件不動産の売却代金から最優先で償還することができる本件各手続費用について、売却代金から償還を受ける意思がないことを明らかにしたにすぎないものと認められる。原告が執行裁判所に対して本件上申書を提出したことをもって、民法485条本文に基づき被告が負担すべきこととなる本件各手続費用について、被告に対して放棄の意思表示をしたものとは認め難い。」
(次回へ続く)