<連載第35回>
管理組合による自治会費(町内会費)の徴収について
2014/2/4
今回は、管理組合による自治会費(町内会費)の徴収について検討してみましょう。
はじめに(マンション標準管理規約のコメントについて)
まず、国土交通省が提示しているマンション標準管理規約(単棟型)第27条[注1]についての「コメント」を押さえておく必要があります。
<マンション標準管理規約(単棟型)コメントより抜粋> 第27条関係 @ 管理組合の運営に要する費用には役員活動費も含まれ、これについては一般の人件費等を勘案して定めるものとするが、役員は区分所有者全員の利益のために活動することにかんがみ、適正な水準に設定することとする。 A コミュニティ形成は、日常的なトラブルの未然防止や大規模修繕工事等の円滑な実施などに資するものであり、マンションの適正管理を主体的に実施する管理組合にとって、必要な業務である。 管理費からの支出が認められるのは、管理組合が居住者間のコミュニティ形成のために実施する催事の開催費用等居住者間のコミュニティ形成や、管理組合役員が地域の町内会に出席する際に支出する経費等の地域コミュニティにも配慮した管理組合活動である。 他方、各居住者が各自の判断で自治会、町内会等に加入する場合に支払うこととなる自治会費、町内会費等は地域コミュニティの維持・育成のため居住者が任意に負担するものであり、マンションという共有財産を維持・管理していくための費用である管理費等とは別のものである。 |
自治会への加入・自治会からの退会について
自治会への加入や自治会からの退会については、最高裁平成17年4月26日判決[注2]を押さえておく必要があります。なお、下記判決の被上告人とは、自治会を指しています。
<最高裁平成17年4月26日判決より抜粋> 被上告人は、会員相互の親ぼくを図ること、快適な環境の維持管理及び共同の利害に対処すること、会員相互の福祉・助け合いを行うことを目的として設立された権利能力のない社団であり、いわゆる強制加入団体でもなく、その規約において会員の退会を制限する規定を設けていないのであるから、被上告人の会員は、いつでも被上告人に対する一方的意思表示により被上告人を退会することができると解するのが相当であり、本件退会の申入れは有効であるというべきである。 |
管理組合による自治会費(町内会費)徴収の拘束力について
東京簡裁平成19年8月7日判決[注3]の判断からすれば、管理組合が自治会費(町内会費)を徴収することは、区分所有法3条の目的外の事項と解されるでしょう(区分所有法3条[注4]、30条1項[注5]参照)。
<東京簡裁平成19年8月7日判決より抜粋> (1) 町内会は、自治会とも言われ、一定地域に居住する住民等を会員として、会員相互の親睦を図り、会員福祉の増進に努力し、関係官公署各種団体との協力推進等を行うことを目的として設立された任意の団体であり、会員の自発的意思による活動を通して、会員相互の交流、ゴミ等のリサイクル活動及び当該地域の活性化等に多くの成果をもたらしているところである。そして、町内会は、法律により法人格を取得する方法もあるが、多くの場合、権利能力なき社団としての実態を有している。 このような町内会の目的・実態からすると、一定地域に居住していない者は入会する資格がないと解すべきではなく、一定地域に不動産を所有する個人等(企業を含む)であれば、その居住の有無を問わず、入会することができると解すべきである。そして、前記目的・実態からすると、町内会へ入会するかどうかは個人等の任意によるべきであり、一旦入会した個人等も、町内会の規約等において退会の制限を定める等の特段の事由がない限り、自由に退会の意思表示をすることができるものと解すべきである。 (2) ところで、区分所有法第3条、第30条第1項によると、原告のようなマンション管理組合は、区分所有の対象となる建物並びにその敷地及び付属施設の管理を行うために設置されるのであるから、同組合における多数決による決議は、その目的内の事項に限って、その効力を認めることができるものと解すべきである。 しかし、町内会費の徴収は、共有財産の管理に関する事項ではなく、区分所有法第3条の目的外の事項であるから、マンション管理組合において多数決で決定したり、規約等で定めても、その拘束力はないものと解すべきである。 本件では、原告の規約や議事録によると、管理組合費は月額500円となっており、親和会当時からの経緯によると、そのうちの100円は実質的に町内会費相当分としての徴収の趣旨であり、この町内会費相当分の徴収をマンション管理組合の規約等で定めてもその拘束力はないものと解される。 (3) 原告は、町内会の存在によって被告は一定の恩恵を受けるのであり、町内会費が月額100円という金額からすると、町内会への加入は不可欠であり、合理性もあることから、規約等に管理組合費の定めがあることを根拠として、町内会費の請求をすることができる旨の主張をするが、前述のとおり、管理組合費のうち100円については、実質的に町内会費相当分であって、その部分に関する原告の規約等の定めは拘束力がないのであり、また、区分所有法第3条の趣旨からすると、原告自身が町内会へ入会する形を取ることも、その目的外の事項として、その入会行為自体の効力を認めることはできないものと解されることからすると、これらを根拠に、原告が被告に対し、未払いの町内会費の請求をすることはできないと解すべきである。 その他、原告がその権利主体である旨(例えば、原告と被告との間の委託契約の成立等)の主張・立証もない。 そうすると、町内会費を請求する権利主体ではない原告が同会費の請求をすることは認めることができないと解される。 |
よくある質問について
1 質問
例えば、自治会費(町内会費)相当分を管理費に含めて管理費名目で徴収し、管理費会計から自治会にコミュニティ業務委託費などの名目で支出すればよいのではないでしょうか?
2 私見
ご質問のケースは、管理組合が「管理費」徴収に名を借りて、実質的には「自治会費」徴収を代行するものと見受けられます。 したがって、やはり問題があるといわざるを得ません(東京高裁平成19年9月20日判決参照[注6])。
ただし、分譲マンションにおいて、居住者間のコミュニティ形成は、実際上、良好な住環境の維持や、管理組合の業務の円滑な実施のためにも重要であるともいえます。そこで、何らかの特殊な事情により、管理組合が自治会にコミュニティ形成業務を委託して、その委託した業務に見合う業務費用を自治会に支払うこと自体は区分所有法に反しないものと思われます(前記1のコメントA、後記5の(3)参照)。
3 東京高裁平成19年9月20日判決についての補足説明
東京高裁平成19年9月20日判決の事案は、Y1マンションの区分所有者ら2名(「控訴人ら」)が、同マンション棟を含む建物群の各専有部分を所有する者で構成される管理組合(「被控訴人管理組合」)、及び一団の建物群に居住する住民によって構成される自治会(「被控訴人自治会」)を相手方として、@被控訴人管理組合との間において、全体管理費1500円から自治会費相当額(200円)を差し引いた月額1300円を超えて支払義務のないことの確認を、A被控訴人自治会に対し、脱会後の3か月分の自治会費600円の返還等を求めたものです。
原判決(横浜地裁川崎支部平成19年1月25日判決)は、控訴人らが被控訴人自治会を平成17年12月31日をもって脱会したことは認めたものの、被控訴人管理組合が同年6月26日の総会で承認を得た上で同年7月2日被控訴人自治会と締結した業務委託契約は有効であり、被控訴人管理組合はその委託料として管理費を支出しているのであるから自治会費を管理費に含めて強制的に徴収されているとの控訴人らの主張は採用できないとして控訴人らの請求をいずれも棄却しました。その控訴審の判決が、東京高裁平成19年9月20日判決です。
4 東京高裁平成19年9月20日判決の「第3 判断、3」部分より抜粋
被控訴人自治会は、会員相互の親睦と福祉及び防災体制を増進し、もって地域社会の向上発展を図ることを目的とした権利能力のない社団であり、その目的、趣旨に照らし、加入を強制されない任意団体である上、被控訴人自治会規約においても会員の退会を制限する規定を設けていないことからすれば、被控訴人自治会の会員は、被控訴人自治会に対する一方的意思表示により退会することができると解するのが相当である(最高裁平成17年4月26日第三小法廷判決・判例時報1897号10頁参照)。 これに対し、被控訴人らは、被控訴人自治会規約は黙示的に脱会を認めていないと主張するが、被控訴人自治会規約の記載からそのように解することはできない。また、被控訴人らは、被控訴人自治会は強制加入団体である控訴人管理組合の分身としての地位にあるとも主張するが、両者の関係の特殊性は、一つのマンションの居住者のみで一つの自治会を形成したという点にあり、被控訴人管理組合が管理する対象範囲と被控訴人自治会の自治会活動が行われる範囲が一致していることは認められるものの、それだけで被控訴人自治会が被控訴人管理組合の分身であり強制加入団体に当たると認めることはできない。なお、被控訴人らが主張するように、「Y1マンション重要事項説明書」においては、本件マンションの居住者が地域活動及び防犯灯の維持管理を目的として設立される町内会に加入することが明記されており、控訴人らもそれを了承したものと認められるが、加入を了承したことをもって被控訴人自治会を脱会することができないとまで解することはできない。 そして、控訴人らは、前提事実のとおり、平成17年12月26日、同月31日をもって被控訴人自治会を脱会する旨の脱会届をそれぞれ提出したものであるから、この意思表示により同被控訴人を退会したと認められ、平成18年1月1日以降は同被控訴人の会員ではないというべきである。したがって、控訴人らは、同日以降被控訴人自治会に対し、被控訴人管理組合を介して、自治会費を支払う義務を負わないと認めるのが相当である。 |
5 東京高裁平成19年9月20日判決の「第3 判断、4」部分より抜粋
(1) 以上の次第で、控訴人らは、平成18年1月1日以降、被控訴人自治会に自治会費を支払う義務はないが、被控訴人管理組合は、控訴人らから管理費を徴収し、その中から月額200円(年額2400円)の自治会費を被控訴人自治会に支払っており、平成17年7月29日、業務委託費との支出科目名で被控訴人自治会に平成17年度分(平成17年4月から平成18年3月までの分)の自治会費を支払い、被控訴人自治会はこれを受領している。そうすると、被控訴人自治会は、平成17年12月31日付けで脱会した控訴人両名に対し、既に受領している平成18年1月分から3月分までの自治会費合計600円を清算して返還する義務があるから、各600円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成18年2月24日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払うべきである。 (2) また、被控訴人管理組合は、控訴人らから管理費として@住棟管理費、A全体管理費、B棟別積立金及びC住棟積立金を徴収しており、この中から月額200円の自治会費を、本件業務委託契約に基づく業務委託費の支出科目名で被控訴人自治会に支払っているが、被控訴人管理組合規約第36条1項(6)は、「地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成に要する費用」を全体管理費として徴収すると規定していること、被控訴人管理組合は、本件業務委託契約第1条、第2条及び第5条のとおり、コミュニティ形成業務の一部を被控訴人自治会に委託し、業務委託費との支出科目名で合計264万7200円を支出したことに照らすと、上記月額200円の自治会費は、住戸の区分所有者から徴収した全体管理費の中から拠出されたと認めるのが相当である。そうすると、被控訴人管理組合が控訴人らから徴収した全体管理費月額1500円のうち200円は、被控訴人自治会に支払われた自治会費に相当すると認めることができるから、控訴人らは、被控訴人管理組合に対し、控訴人らが被控訴人自治会を退会した平成18年1月1日以降において、被控訴人管理組合規約第36条に基づき月額1300円の全体管理費を支払う義務はあるが、それを超えて全体管理費を支払う義務はないというべきである。 (3) なお、付言するに、平成16年に改定された国土交通省作成の「マンション標準管理規約」において、管理組合の業務の1つとして「地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成」が追加されたことからもうかがわれるように、分譲マンションにおいて、居住者間のコミュニティ形成は、実際上、良好な住環境の維持や、管理組合の業務の円滑な実施のためにも重要であるといえるところ、本件のように、被控訴人管理組合が管理する建物、敷地等の対象範囲と被控訴人自治会の自治会活動が行われる地域の範囲が一致しているという点において特殊性のある管理組合と自治会の関係があれば、管理組合が自治会にコミュニティ形成業務を委託し、委託した業務に見合う業務委託費を支払うことは区分所有法にも反しないものと解される。もっとも、前記説示したとおり、現在の被控訴人管理組合の被控訴人自治会に対する業務委託費の支払は、実質上自治会費の徴収代行に当たるといわざるを得ないから、本件において、被控訴人管理組合が被控訴人自治会に対し、本件マンションのコミュニティ形成業務を委託しようとするのであれば、強制加入の団体である被控訴人管理組合と任意加入の団体である被控訴人自治会という団体の性格の差異を踏まえて、改めて適切な業務委託関係の創設を検討するのが相当である。 |
(弁護士/平松英樹)