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弁護士平松英樹のマンション管理論

<連載第39回>

理事会決議による理事長解任について

2014/4/8

今回は、次のような質問について検討してみましょう。以下、「建物の区分所有等に関する法律」を「区分所有法」といい、「マンション標準管理規約(単棟型)」を「標準管理規約」といいます。

<質問>

 私たちの管理組合(非法人)では、標準管理規約と同じような規約を定めており、総会で選任された理事の互選により理事長が選任されるようになっています。
 理事の互選で理事長を選任しているのですから、理事会の決議によって理事長を解任することも可能でしょうか?

区分所有法との関係

まず、区分所有法上、非法人の団体(以下、「管理組合」といいます。)について「管理者」の規定(区分所有法第1章第4節参照)はあるものの、「理事」及び「監事」に関する規定はありません [注1][注2]。

ただし、多くの管理組合は、標準管理規約と同様に、規約で「理事」及び「監事」の規定を置いています。

そして、その規約で、理事長は管理組合の「代表」と位置づけられ、かつ「区分所有法に定める管理者」とされています(標準管理規約38条) [注3]。

「管理者」にあたる理事長の解任については、総会(集会)決議で解任できることはもちろんのこと、規約に定められた方法で解任することが可能です(区分所有法25条1項参照)。

問題提起(肯定説)

では、「理事会決議」のみで「理事長」(=管理者)を解任できるでしょうか。

この点、そもそも理事の互選で理事長を選任したのだから、理事会の決議で理事長を解任できることは当然であると主張する見解(肯定説)があります。

肯定説は、標準管理規約35条3項[注4]を理事長(=管理者)の選任及び解任に関する規定であると主張します。

そのような解釈で問題ないのでしょうか[注5]。

「理事長の解職」は「管理者の解任」という効果を伴ってしまうため、仮にこれを理事会決議で可能とするのであれば、その旨が規約に定められているはずです。

以下、標準管理規約を前提に検討します。

標準管理規約に基づく解釈

標準管理規約35条3項は、「理事長、副理事長及び会計担当理事は、理事の互選により選任する。」と規定されており、「解任」という文言はありません。

標準管理規約54条[注6]は、「理事会」の決議事項を定めていますが、そこにも役員(理事長等)の解任に関する事項は掲げられていません。

その他、標準管理規約において、理事会決議で理事長(=管理者)を解任できる旨の明確な規定は見当たりません。

さらにいえば、標準管理規約35条1項[注4]で「管理組合は次の役員を置く」として「理事長」、「副理事長○名」、「会計担当理事○名」、「理事(理事長、副理事長、会計担当理事を含む。以下同じ。)○名」、「監事○名」と規定し、そして、標準管理規約48条13号[注7]で「役員の選任及び解任並びに役員活動費の額及び支払方法」は「総会の決議を経なければならない」と規定しています。

そうすると、標準管理規約35条3項に基づき「理事長」(=管理者)に選任された「役員」の「解任」については「総会の決議」を経ることが、標準管理規約の文言解釈に適っているように思えます。

その他、現実的な問題[注5]も考慮すると、私見としては、「理事長」の「解任」は「集会の決議」によるべきという判断(解釈)になります。


補足説明

理事長の「辞任」は原則として自由と解されています(民法651条1項)[注8]。

理事会による解任決議の結果を踏まえた(もともとの理事長の)任意の「辞任」と、それに伴う新理事長の「選任」という方法が取られるのであれば、特に問題は生じないでしょう。

その場合の新理事長「選任」については「理事の互選により」可能となります。ただし、(もともとの理事長の)「辞任」が「理事」の辞任を含むものであれば、規約に定めた理事の員数要件を欠くことにもつながります(標準管理規約35条1項参照)ので、そのようなときは補欠理事の選任が必要となってきます。

標準管理規約の規定のままでは、補欠理事の選任について総会決議が必要となってしまいます。

そのような手間を省くべく、規約に「役員が転出、死亡その他の事情により任期途中で欠けた場合、補欠の役員を理事会の決議で選任することができる」旨の定めを置くこともあり得ます(標準管理規約36条コメントB参照)。

この点についても、規約に定めがあるかどうかが重要になってきます。

(弁護士/平松英樹)



バナースペース

注釈 NOTE

注1: 管理組合法人においては、区分所有法上、「理事」および「監事」の規定が存在します(区分所有法49条、50条)。管理組合法人における理事及び監事の選任・解任については区分所有法25条の規定が準用されています。
 区分所有法49条、50条については、別紙参照。

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注2: 区分所有法25条については、別紙参照。

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注3: 標準管理規約38条については、別紙参照。

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注4: 標準管理規約35条については、別紙参照。

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注5: 仮に「理事会の決議によって理事長を解任(解職)することできる」というのであればその旨を規約に定めておけばよいでしょう。
 なお、解任される側の「理事長」が、理事会決議の結果を踏まえて、自ら「辞任」の意思を表明すれば退任の効果が生じますので、特に問題は生じません。
 しかし、解任される側の「理事長」が「理事会決議は無効である」などと主張し続けると収拾がつかなくなります。
 そのような状況では、対内的にも適正な管理運営ができず、対外的にも円滑な取引を行うことができません。
 このような現実的不都合が生じると、最終的には「総会」の決議を経る必要や「裁判」に移行する必要も生じるでしょう。
 なお、本稿では、総会招集手続等に関する説明は省略します。

注6: 標準管理規約54条については、別紙参照。

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注7: 標準管理規約48条については、別紙参照。

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注8: 民法651条1項については、別紙参照。

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筆者紹介 PROFILE

平松英樹(ひらまつ・ひでき)

弁護士、マンション管理士。1968年(昭和43年)生まれ、1991年(平成3年)年早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1丁目14番5号土屋ビル4階)、首都圏マンション管理士会などに所属。マンション管理、不動産取引・賃貸借(借地借家)問題を中心とした不動産法務を専門とし、マンション管理、不動産販売・賃貸管理、建築請負会社等の顧問先に対するリーガルサービスに定評がある。実務担当者を対象とする講演、執筆等の実績多数。著書に『わかりやすいマンション管理組合・管理会社のためのマンション標準管理規約改正の概要とポイント』(住宅新報社)ほか。