<連載第45回>
共用部分と専有部分の給水管一体工事について
2014/8/26
今回は、共用部分と専有部分の給水管工事を一体として実施することの問題点を検討してみましょう。ここで「一体として実施する」とは、管理組合が一体として工事発注し、管理組合が当該一体工事費用を工事業者に支払うことを指します。
なお、私見としては、「給水管」か「排水管」か、「更新」(例:配管交換)か「更生」(例:配管ライニング)かによって微妙に考え方が変わってきますが、本稿では「給水管」の「更生」をイメージして検討しています。
以下、「標準管理規約」とは、マンション標準管理規約(単棟型)を指します。
多くのマンションで行われている排水管清掃について
多くのマンションでは、専有部分と共用部分の排水管清掃を一体として行うような管理計画を立てています。
これは、標準管理規約21条2項の規定、すなわち「専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる」という規定に基づいて実施されているといえます。
さらに具体的にいえば、総会の決議(標準管理規約48条9号)[注1]を経たうえで実施されており、費用支出に関しても総会決議を経ています(標準管理規約48条2号・27条7号)[注2]。
このような排水管清掃の実施や費用支出について、区分所有法違反であるとか規約違反であるといった議論がなされることは少ないでしょう。
専有部分と共用部分の給水管一体工事について
上記のような清掃の場合とは異なり、専有部分と共用部分の給水管一体工事の場合には、それに係る費用支出の点も含めて、区分所有法違反であるとか規約違反であるといった議論がなされることがあります。
この問題については、大きく分けて3つの観点から検討する必要があるでしょう。
第1 区分所有法3条、30条1項との関係
(問題)
そもそも、専有部分の「工事」について「管理組合がこれを行うことができる」のか、そのような規約は区分所有法に反するのではないか、という問題
(私見)
この点については、建物の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項に該当するものとして、一応規約事項の範囲に含まれると解されます。
つまり、「専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の『工事』を共用部分の『工事』と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる」という趣旨の規約が一律に無効となるものではないでしょう。
ちなみに、後記第3の観点からも、管理規約21条2項の「管理」には「共用部分と専有部分の給排水管一体工事を含む」ということを規約上で明確にしておいた方がよいでしょう。
第2 標準管理規約21条2項との関係
(問題)
そもそも専有部分給水管が共用部分と「構造上一体となった部分」といえるのか、その工事を共用部分の工事と一体として行う「必要性」があるのか、という問題
(私見)
この点の問題提起はそのとおりだと思います。マンションによっては「構造上一体となった部分」と言い難いところもあるでしょうし、その工事を共用部分の工事と一体として行う「必要性」を見出し難いところもあるでしょう。
したがって、それぞれのマンション毎に、個別具体的な事実関係をもとに「構造上一体となった部分」に該当するかどうか検討し、且つ共用部分工事と専有部分工事を一体として行う「必要性」があるのかを検討することになります。
それらが肯定されない限り、専有部分工事の実施(発注)は各区分所有者の任意(個別発注)に委ねるべきです。
第3 標準管理規約28条との関係
(問題)
管理規約21条2項の要件を充たすとして、給水管一体工事費用を修繕積立金から支出することはできるのか、という問題
(私見)
まず修繕積立金の取り崩しに関しては標準管理規約28条[注3]に規定されています。
給水管一体工事が同条1項1号に規定する「一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕」に該当するかどうかはマンション毎で異なるでしょうが、多くのマンションでは専有部分の給水管工事を計画修繕に含めていないようです。また、専有部分の給水管工事を同条1項5号に該当すると解釈するのも無理があります。
そこで、仮に修繕積立金を取り崩すのであれば、標準管理規約28条を改正する必要があるでしょう。例えば、標準管理規約28条1項に「第21条2項に定める共用部分と専有部分の給排水管一体工事」のことを加えておくべきでしょう。
さらに、標準管理規約47条3項[注4]に「第21条2項に定める共用部分と専有部分の給排水管一体工事」のことを加え、具体的な工事実施に際しては「組合員総数の4分の3以上及び議決権総数の4分の3以上」の特別決議に基づいて進めるべきでしょう。あくまでも個人的な意見になりますが、そもそも一体工事の実施に反対する区分所有者が相当程度存在するのであれば、一体工事を強行に推し進めるべきではないと考えます。
まとめ
さいごにもう少し私見を述べたいと思います。
給水管一体工事に反対する区分所有者(反対する理由は様々ですが、例えば、「最近、自宅の給水管を新しくしたばかり」、「必要性を感じない」、「管理組合のやり方が気に入らない」等の理由で反対する区分所有者)、あるいは全く連絡が取れない区分所有者が存在する場合には、当該区分所有者の専有部分工事を実施できないという事態が生じるでしょう[注5]。その場合、当該専有部分の工事費用分をどうするのかといった難問が生じます。
この難問については様々な対応が考えられますが、その対応についても管理組合内部で意見の対立が生じるでしょう。
そのため、紛争予防的観点からのアドバイスとしては、「各専有部分工事の実施については各専有部分の区分所有者の責任(費用負担)のもとで進めた方がベター」という結論になります。
(弁護士/平松英樹)