<連載第54回>
規約違反行為等に対する訴訟上の請求について
(訴訟物の考え方)
2015/8/11
今回は、下記のような設例について検討してみましょう。なお、下記設例1は宮崎地裁平成24年11月12日判決の事案を参考にしたもので、下記設例2は東京地裁平成25年3月5日判決の事案を参考にしたものです。
<設例1> ①管理組合(権利能力なき社団)が、②403号室の区分所有者に対し、③同室の賃借人の同居人のした行為が管理規約に定める義務に違反すると主張して、民法415条(債務不履行による損害賠償)に基づき、④金銭の支払を求めるケース |
<設例2> ①管理組合(権利能力なき社団)が、②102号室の区分所有者に対し、③同室に隣接する専用庭への同人の物置設置行為が管理規約(使用細則)に定める禁止事項に該当すると主張して、管理規約(専用庭使用細則)に基づき、④物置の撤去を求めるケース |
上記設例の分析
1 訴えの類型(上記各設例の④参照)について
訴えの類型については、「給付の訴え」、「確認の訴え」及び「形成の訴え」がありますが、上記事案の請求は、いずれも「給付の訴え」に該当します。
ちなみに、「確認の訴え」の例として総会決議無効確認請求など、「形成の訴え」の例として区分所有法59条基づく区分所有権等競売請求などがあります。
2 当事者適格について
当事者適格とは、訴訟物たる特定の権利又は法律関係について、当事者として訴訟を追行し、本案判決を求め得る資格をいいます。
(1)原告適格(上記各設例の①参照)について
給付の訴えにおいては、自らがその給付を請求する権利を有すると主張する者に原告適格があります(最高裁平成23年2月15日判決参照)[注1]。
上記各事案はいずれも「管理組合」が原告となり、自らが権利を有すると主張していますので、一応管理組合の原告適格は認められます。
なお、原告が主張する請求権が存在するかどうかは本案請求の当否にかかわる事柄であり、仮に請求が不当であれば棄却されることになります。
(2)被告適格(上記各設例の②参照)について
給付の訴えにおいては、その訴えを提起する者が給付義務者であると主張している者に被告適格があります(最高裁昭和61年7月10日判決参照)[注2]。
仮に請求が不当であれば請求棄却という結論が出されることになります。
3 請求の根拠(上記各設例の③参照)について
上記事案はいずれも管理規約に定める義務違反を理由とした請求です。
裁判所は、原告が特定した審判対象たる権利ないし法律関係について判決を下すことになりますので、その請求の実体法上の根拠が何なのかは重要です。
上記設例の検討
訴訟上の請求を考える場合、当事者は誰なのか、そして原告が特定した審判対象たる権利ないし法律関係は何なのかが重要です。言い換えると、訴訟物は何なのかが重要です。
裁判所は、当事者が申し立てていない事項について判決をすることができません(民事訴訟法246条)[注3]。
どのような権利関係についてどのような審判を求めるのかは、当事者が特定・選択しなければなりません(処分権主義)。
請求の当否は別として、例えば、設例1については、「管理者」が原告となって請求することや、不法行為に基づく損害賠償請求も考えられるでしょう。また、設例2についても、「管理者」が原告となって請求することや、区分所有法57条[注4]に基づき請求することも考えられるでしょう。
なお、債務不履行に基づく請求と不法行為に基づく請求の訴訟物は異なります。また、私見としては、規約に基づく請求と区分所有法57条に基づく請求の訴訟物も異なるものと考えます。
訴訟物が何かによって、結論(請求の当否)が異なってくることも勿論あり得ます。
訴訟追行権の問題(本連載第36回参照)
1 訴訟物が規約に基づく請求の場合
本連載第36回において、標準管理規約を例に、規約に基づく請求については、「規約」の定めに基づき、「管理組合」代表者「理事長」が「理事会の決議」を経ることで訴訟追行できる旨の説明をしました。そこでは「管理組合」が当事者となることを前提としています。
仮に「管理者」が当事者となり、規約に基づく請求をするのであれば、「規約又は集会の決議」(区分所有法26条4項)[注5]により訴訟追行することになります。「規約」に訴訟追行権付与(授権)に関する定めがあれば、その定めに従って訴訟追行できます。
2 訴訟物が区分所有法57条に基づく請求の場合
訴訟物が区分所有法57条に基づくもの(共同利益背反行為停止等請求)であれば、区分所有法57条の定めに従わなければなりません。区分所有法57条から同法60条までの規定は強行規定と解されますので、区分所有法57条に基づく請求については、同条2項に定める要件、すなわち集会(総会)の決議が必要となります。
3 まとめ
訴訟物が規約に基づくものであれば、訴訟追行権付与(授権)に関しても規約で定めることが可能です(区分所有法26条4項[注5]、区分所有法47条8項[注6]参照)が、訴訟物が区分所有法57条に基づくものであれば、区分所有法57条2項に定める要件(集会の決議)[注4]が必要であるといえます。
結局、訴訟物が何かによって、必要となる要件も変わってくるといえます。
(弁護士/平松英樹)