建物診断設計事業協同組合
山口理事長インタビュー(1/2)
2012/8/21
日本では建築物を「建てること」には熱心でも「建ててから」の維持保全に関する意識が希薄だ。こうした反省に立ち、1996年、マンションの診断・改修設計等を業務とする設計事務所の全国組織として建設省(現国土交通省)認可の建物診断設計事業協同組合(建診協)が設立されました。先見の明をもってマンション問題に警鐘を鳴らし続けてきた建診協の理事長、山口実氏に最近の動向を伺いました。
エンドユーザーと業者を結ぶパイプがない
――建診協は、2001年の「マンション管理適正化法」施行に先駆けてマンション問題に取り組み、管理組合向けセミナーを全国レベルで展開していますね。この間、マンションと管理組合を取り巻く環境にはどのような変化がありましたか。
残念ながら、基本的な状況にはあまり変化がないように感じます。維持保全をサポートする業者とマンション居住者を結ぶパイプがないことが原因でしょう。業者の側からみると、エンドユーザーにアプローチしようとしても適当な媒体がないということです。
この問題は、建築・設備業だけでなく、不動産業にも大きな影響を与えると思います。というのは、今後のマンションストックの流通を考えた場合、これまでのように単に「中古物件を売る」のではなく、良質なマンションを「リセールする(もう1回売り直す)」という意識変化が必要だからです。
新築を含めた他マンションとの競合に勝つためには、今後、中古マンションの広告方法や媒体選択も研究する必要があるのではないでしょうか。たとえば、イギリスの中古マンションの広告には、建物の写真はあっても平面図はない。また、管理が行き届いている建物であれば、古いことを“売り”にして「築100年」「空爆にも耐えた建物」なんていう宣伝文句が出ている。もちろん、立地や面積、価格などは重要な要素ですが、日本の物件広告のように画一的でなく、売る側がリセールするうえで強調したいセールスポイントが、買う側に情報として伝わっていると感じます。
――管理組合側の意識の変化はあるでしょうか。
媒体が整備されてないとはいっても、ウェブサイトなどを通じた情報発信が進み、管理組合は多くの知識を得られるようになりました。この意味では、概していい方向に変化してきたといえるでしょう。ただし、情報の集め方が分かったからといって、考え方の整理ができているとは限りません。気をつけないと情報の偏りや未消化が起こります。
“造りっぱなし・売りっぱなし・買いっぱなし”
たとえば、排水管の改修を検討している管理組合と話をすると、鋼管と塩ビ管についてはよく知っていても、その他はほとんど知識がない。これが、本などで得られる知識の限界ということです。逆にいえば、エンドユーザーが最新の製品カタログに掲載されているような情報を入手することは、いまだに簡単ではないということです。
また、新築マンションと(室内の)リフォームに関しては大量の情報が提供されるようになりましたが、「マンション管理」については決して十分とはいえない。マンション管理という言葉は非常に不明確であまり好きではないのですが、清掃や設備などビル管理と重なる部分はまだしも、管理組合の運営や建物管理、コミュニティなどを含む、広い意味での「マンション管理」に関する情報となるとまだまだです。
マンションはどうも昔から“造りっぱなし・売りっぱなし・買いっぱなし”の傾向が強く、現場の情報をフィードバックして設計や販売に生かすという、他業界ではあたりまえのことができていない。金融・デベロッパー・建築・不動産などに対し、メンテナンスや管理は“川下産業”とみられてきたのです。マンション管理適正化法の制定により管理会社を国交省登録制とするいわゆる“業法”ができたことで、管理業に対する社会的認知が向上したことは間違いないでしょう。
もうひとつ、適正化法により官公庁のマンション施策への取り組みが義務づけられたことも大きな変化でした。しかし、ややもすると形式化や形骸化に陥るおそれがあるので、行政による意見の聞き取りを待つのではなく、現場のほうから積極的に声を上げていかなければなりません。
――マンションを取り巻く環境は、まだ発展途上にあるのが現状といえそうです。マンション居住者または管理組合は、適正な維持管理を行うためにどのような点に注意したらいいのでしょうか。
さまざまな選択肢があるなかで最後に選ぶのは区分所有者だということを踏まえ、「自分たちは何が欲しいのか」をはっきりさせることです。唯一の正解などありません。二つの選択肢があって、どちらも正しいという場合だってあります。要は「何を選択するのか」を、多数意見に基づく最大公約数として決めなければならないのです。
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